血中HOMA-B
目次
HOMA-Bの基本定義
HOMA-Bは、空腹時血糖と空腹時インスリン(またはCペプチド)の値から、膵臓のβ細胞がどの程度インスリンを分泌できているかを推定する指数です。Homeostasis Model Assessment(恒常性モデル評価)の“B”はβ細胞機能(Beta-cell function)を意味し、集団研究や臨床の補助的評価に用いられます。計算結果はしばしば%表示で、若年健常者を100%とした相対的な指標として解釈されます。
HOMA-Bは、インスリン分泌と血糖の間に成り立つフィードバック関係をモデル化した概念に基づいています。血糖が上がればβ細胞がインスリンを分泌し、インスリンは肝臓や末梢組織に作用して血糖を下げるという恒常性を、数理的に近似しています。
初期のHOMA1モデルは単純な式で推算しやすい一方、高血糖域や極端なインスリン値では精度に限界がありました。後に公開されたHOMA2は非線形性やヘパティックインスリン除去などを考慮し、計算機ソフトでより現実的な推定を可能にしています。
HOMA-Bはβ細胞機能の全体像を与えるわけではなく、主に空腹時(基礎)分泌能を反映します。食後の第一相・第二相分泌など動的な側面は反映しにくいため、必要に応じて経口糖負荷試験など他の検査と併用して評価します。
参考文献
- Homeostasis model assessment: Insulin resistance and β-cell function from fasting plasma glucose and insulin
- Use and Abuse of HOMA Modeling
- HOMA2 Calculator (University of Oxford)
算出式・単位とHOMA1/HOMA2の違い
HOMA1-Bの代表的な近似式は、HOMA-B=20×空腹時インスリン(μU/mL)÷{空腹時血糖(mmol/L)−3.5}です。血糖をmg/dLで扱う場合は、式に適切な換算が必要で、報告によって係数が異なります。計算の前提は安定した空腹時状態で、採血条件のばらつきが結果に影響します。
HOMA2はHOMA1の限界を補い、非線形の分泌応答、インスリンの肝初回通過、プロインスリンの寄与などを考慮したコンピュータモデルです。HOMA2 Calculatorを使うと、インスリンまたはCペプチドからHOMA2-%Bを推定でき、健常若年者を100%とした相対値で表示されます。
インスリン測定は方法間差が大きいため、Cペプチドを用いた推定が安定する場合があります。Cペプチドは肝臓での初回通過の影響を受けにくく、末梢濃度が分泌量の指標として扱いやすい特徴があります。ただし腎機能の影響には留意が必要です。
単位や式の取り扱いミスは解釈の大きな誤りにつながります。報告された式がどの単位系に基づくか、また測定系の精度管理が行われているかを確認し、同一個体の経時比較では同じ方法を用いることが重要です。
参考文献
- Use and Abuse of HOMA Modeling
- HOMA2 Calculator (University of Oxford)
- Insulin assays and reference intervals: clinical considerations
臨床的意義と活用場面
HOMA-Bは、糖尿病や前糖尿病の病態理解に役立ちます。例えば同じ血糖レベルでも、HOMA-IRが高くHOMA-Bが保たれているケースと、HOMA-IRは軽度でもHOMA-Bが低いケースでは、病態や将来リスクの質が異なる可能性があります。
疫学研究では、生活習慣や薬物治療がβ細胞機能に与える影響を、集団レベルで比較する指標として重宝されます。スクリーニングや長期追跡で、HOMA-Bの低下が将来の高血糖や糖尿病発症と関連することが示されています。
臨床現場では、他の情報(空腹時血糖、HbA1c、OGTT結果、体格、家族歴など)と合わせて補助的に使います。HOMA-B単独で治療方針を決めることは推奨されず、標準診療ガイドラインに基づく総合判断が基本です。
薬剤の選択においても、基礎分泌の低下が目立つ場合はインクレチン関連薬などが理論的に適合する場面がありますが、個別化医療の観点からはエビデンスと患者背景全体を評価する必要があります。
参考文献
- Use and Abuse of HOMA Modeling
- ADA Standards of Care in Diabetes (2024 Supplement)
- Prospective studies linking HOMA measures to diabetes risk
限界・注意点と解釈の落とし穴
HOMA-Bは空腹時の静的モデルであり、食後の第一相・第二相分泌やインクレチン応答などの動的側面を反映しにくい点が限界です。動的評価が必要な場合はOGTTや混合食試験、クランプ法などを検討します。
インスリン測定の標準化不足、ヘマトクリットや腎機能、急性炎症・ストレス、薬剤(ステロイド、SGLT2阻害薬など)の影響が、推定値を歪める可能性があります。採血は安定した体調で、12時間前後の絶食下で行うのが望まれます。
高血糖域(例:空腹時血糖が著明に高い)では、HOMA1の式が破綻しやすく、HOMA2でも外挿的な推定になります。そのため重度の高血糖やインスリン治療中の患者では、モデルに依存しない評価法が推奨されます。
数値のしきい値を普遍的に適用するのは危険です。人種・年齢・肥満度・測定系により参照範囲は変動します。経時的な変化や他の指標と整合的かどうかを重視し、単回測定の過大評価を避けることが重要です。
参考文献
- Use and Abuse of HOMA Modeling
- HOMA2 Calculator (limitations described)
- Consensus statements on insulin assay standardization
関連指標と代替評価
HOMA-Bと併用される代表的な指標にHOMA-IR(インスリン抵抗性)があり、両者のバランスから病態を把握します。同じ血糖でも、HOMA-IRが高くHOMA-Bが相対的に高い場合は代償的高インスリン血症が示唆されます。
動的なβ細胞機能評価として、OGTT由来の指標(インスリン分泌指数、Matsuda指数との組合せ)や混合食負荷、静脈内グルコース負荷試験(IVGTT)、インスリン分泌第一相評価などが用いられます。
クランプ法は研究用途でゴールドスタンダードとされますが負担が大きい一方、HOMAは簡便で大規模研究や日常診療でのスクリーニングに適しています。目的とリソースに応じて手法を選択します。
Cペプチドを用いたHOMA2-%Bは、インスリン測定のばらつきを緩和できる可能性がありますが、腎機能低下例では解釈に注意が必要です。その他、分泌能の評価にはグルカゴン負荷Cペプチド試験などもあります。
参考文献

