血中CEA
目次
用語の概要と歴史
CEA(carcinoembryonic antigen, がん胎児性抗原)は、主に大腸・直腸の上皮細胞で発現する糖タンパク質で、1960年代に大腸がん患者血清から同定されました。胎児期に高発現し、出生後は多くの組織で低発現となる一方、各種腺がんで再発現がみられることが特徴です。
血中CEAは腫瘍マーカーとして広く用いられますが、がん特異的ではありません。喫煙者や炎症性疾患、肝疾患でも上昇し得るため、単独では診断に用いず、経過観察や再発監視、治療効果判定などで価値を発揮します。
CEAはCEACAM5遺伝子産物で、細胞接着分子の一員としてGPIアンカーで細胞表面に存在します。細胞間接着や免疫調節、微生物との相互作用に関与する生理的役割が示唆されています。
臨床現場では、術前ベースラインの把握、術後の半減期を踏まえた下降の確認、治療中のトレンド評価など、時間的推移の読み解きが重要視されます。しきい値(例:5 ng/mL)は測定法で異なるため、施設基準に従う必要があります。
参考文献
- NCI Dictionary of Cancer Terms: Carcinoembryonic antigen
- UniProtKB - CEACAM5 (Carcinoembryonic antigen-related cell adhesion molecule 5)
- Japan Cancer Information Service: 腫瘍マーカー
測定法と標準化
血中CEAの定量にはサンドイッチ法の免疫測定(EIA/ELISA、CLIA、ECLIAなど)が用いられます。二種類の抗CEA抗体で抗原を挟み、酵素反応や化学発光の強度をシグナルとして定量する仕組みです。
測定系は試薬・プラットフォーム依存性があり、同一患者でも装置や試薬が変わると数値がわずかに異なることがあります。結果の解釈は同一法でのトレンド比較が基本です。
国際的にはWHOの国際標準品(IRP 73/601)にトレーサブルな校正が推奨され、施設間のばらつきを低減します。ただし完全な標準化は未だ途上で、施設基準範囲の確認が不可欠です。
検査上の注意として、ヘテロフィル抗体干渉、極高値でのフック効果、溶血やリピミアによる影響などがあります。必要に応じて希釈再測定や別法での確認が行われます。
参考文献
- WHO International Reference Preparation for CEA (73/601) - NIBSC
- Testing.com: Carcinoembryonic Antigen (CEA)
- ARUP Consult: Carcinoembryonic Antigen (CEA)
臨床での使いどころと限界
CEAは大腸がんの術前リスク層別化、術後の再発監視、化学療法や分子標的薬の治療効果モニタリングに最もよく用いられます。単回測定より経時的推移が重要です。
乳がん、膵がん、胃がん、肺腺がん、甲状腺髄様がんなどでも上昇し得ますが、感度・特異度の限界からスクリーニングには適さず、画像検査や他指標と組み合わせて用います。
非がん性でも上昇し、喫煙、COPD、肝硬変、膵炎、炎症性腸疾患、甲状腺機能低下症などが知られています。したがって「陽性=がん」とは言えません。
ガイドラインは、再発監視における定期測定の活用を推奨しつつ、上昇時には確認測定と臨床的評価(診察・画像)を伴う系統的アプローチを求めています。
参考文献
- MedlinePlus: Carcinoembryonic Antigen (CEA) Test
- ASCO Guideline: Colorectal Cancer Surveillance
- MSD Manuals Consumer: Tumor Markers
値に影響する因子
喫煙は代表的な上昇因子で、非喫煙者より基準上限が高く設定されることがあります。加齢、軽度の慢性炎症、肝機能障害も数値に影響します。
個人差には遺伝的背景が関与する可能性が示唆されていますが、血中CEA基礎値の遺伝率を精密に示す研究は限られ、定量比率は確立していません。
術後の半減期は概ね3〜7日とされ、完全切除なら数週間〜数カ月で基準域に近づきます。下降が鈍い場合は残存病変や肝代謝の影響が考慮されます。
検体前処理(採血条件、保存、凍結融解回数)も測定値に関わります。同一条件でのフォローと、異常値時の再採血・再測定が推奨されます。
参考文献
- Testing.com: Carcinoembryonic Antigen (CEA)
- ARUP Consult: Carcinoembryonic Antigen (CEA)
- MedlinePlus: CEA Test
解釈と患者さんへの伝え方
単回の“高い/低い”より、臨床状況と合わせた“どう変化しているか”が重要です。測定法と基準範囲は施設で異なるため、報告書の基準値に必ず照らして判断します。
軽度上昇では、喫煙や炎症・肝疾患の関与を除外しつつ、短期間での再検と、必要に応じて画像検査を行います。著明上昇時は検査干渉を疑い再測定や別法確認が有用です。
がんのスクリーニング目的でCEA検査を受けることは推奨されません。症状や既往、担当医の方針に沿って、適切なタイミング・間隔で測定を行うことが大切です。
患者さんには、“CEAは便利な補助線だが決定打ではない”と説明し、数値に一喜一憂し過ぎないよう、総合的な診療計画の中で活用する姿勢を共有します。
参考文献

