血中CDT
目次
CDTの概要と背景
CDTはCarbohydrate-Deficient Transferrin(炭水化物欠乏トランスフェリン)の略で、トランスフェリンの糖鎖(特にシアル酸)付加が少ない分子種を指します。慢性的な多量飲酒により肝での糖鎖付加が抑制され、低シアル化のトランスフェリン(アシアロ、モノシアロ、ジシアロ体)が増えることが知られています。
血中CDTは過去1〜2週間程度の持続的な多量飲酒を反映するバイオマーカーとして、臨床現場や産業保健、法医学的評価で広く利用されます。特に他の指標(GGTやMCVなど)に比べ特異度が高いとされ、重度飲酒の検出や断酒後のフォローに適しています。
CDTの測定は従来の総トランスフェリン測定とは異なり、シアル化の程度の違いに基づくアイソフォーム分離や、ジシアロ体を選択的に測る免疫学的手法が用いられます。これにより、総トランスフェリンに占める低シアル化画分の割合(%CDT)を評価します。
国際的にはIFCC(国際臨床化学連合)が標準化を進めており、前分析・分析条件、表記(%CDT)や判定基準の整合化が図られています。ただし、施設や測定法により基準範囲やカットオフは一定ではなく、各検査室の基準を参照する必要があります。
参考文献
- IFCC Working Group on CDT
- Testing.com: Carbohydrate-Deficient Transferrin (CDT)
- ARUP Consult: Biomarkers of Alcohol Use
CDTの臨床的意義と利用場面
CDTは「最近の持続的な多量飲酒」を示す実用的マーカーで、1日換算で40〜60g以上のエタノール摂取が1〜2週間続くと上昇し、断酒により2〜4週間で低下傾向を示します。したがって飲酒介入の評価や、治療のアドヒアランス確認に役立ちます。
他の肝機能マーカーに比べ、非アルコール性肝疾患や肥満、薬剤などの影響を相対的に受けにくい点が利点です。一方で単発の飲酒や軽〜中等量飲酒では上昇しないことが多く、用途に合致した解釈が重要です。
臨床では、アルコール関連障害のスクリーニング、肝移植前後の評価、職域の安全配慮、交通医学的評価などで使用されます。結果は単独ではなく、問診、PEth、GGT、MCVなど他指標と併用して総合的に判断します。
偽陽性の原因として、先天性糖鎖異常症、重度肝疾患、妊娠、トランスフェリン遺伝的多型などが知られます。偽陰性の一因としては女性や肥満での感度低下、断続的飲酒パターンなどが挙げられます。
参考文献
- ARUP Consult: Biomarkers of Alcohol Use
- Conigrave et al. Traditional markers of excessive alcohol use
- Testing.com: CDT
測定法と標準化
CDT定量には、HPLCでのトランスフェリンアイソフォーム分離、キャピラリー電気泳動、免疫比濁法(N-LATEX CDTなど)、質量分析法などが用いられます。各法は対象とする画分や干渉の受けやすさが異なります。
IFCCは標準物質と参照測定手順の整備を行い、%CDTとして総トランスフェリンに対する低シアル化画分の割合を提示する枠組みを提供しています。これにより施設間差の縮小が期待されます。
HPLCや電気泳動法ではシアル酸数に応じた電荷差・保持差を利用してアイソフォームを分離し、ジシアロ体の割合を算出します。免疫法はジシアロ体選択抗体を用いることで迅速な測定が可能です。
前分析の注意として、溶血や強い脂血、サンプル保存条件が結果に影響し得ます。また、総トランスフェリン異常(先天性異常や鉄代謝異常)がある場合は比率の解釈に留意が必要です。
参考文献
- IFCC WG-CDT
- Mayo Clinic Laboratories: Carbohydrate-Deficient Transferrin, Serum
- ARUP Consult: Biomarkers of Alcohol Use
数値解釈、基準範囲、判定の目安
多くの方法で結果は%CDT(ジシアロトランスフェリンの割合)として報告されます。IFCC準拠法ではカットオフが約1.7〜2.0%に設定されることが多いですが、検査法や施設により異なります。
%CDTが判定値以上であれば、直近数週間にわたる多量飲酒の可能性が高いと解釈します。ただし、妊娠、重度肝疾患、先天的トランスフェリン多型など他要因を除外する必要があります。
断酒後は半減期が約14〜17日とされ、2〜4週間で低下傾向を確認できます。連続測定により変化を見ることで、介入の効果や再飲酒の有無を評価できます。
女性では感度がやや低い、アジア人と欧米人での分布差など人種・性差の報告もあり、個別の背景を加味した解釈が重要です。最終判断は問診・他検査と統合して行います。
参考文献
異常値時の対応と関連情報
CDT高値時は、非難を避けた面接で飲酒パターンを丁寧に確認し、PEth、GGT、MCVなど他マーカーや肝エコーと併せて総合評価します。必要に応じ依存症治療や行動療法の導入を検討します。
偽陽性の可能性がある場合(妊娠、重度肝疾患、先天性糖鎖異常症、トランスフェリン多型など)は、測定法を変える、時間を置いて再検する、家族歴や既往を確認するといった手順が有用です。
職域や法医学的文脈では、単一結果での重大判断は避け、再検証や複数バイオマーカー併用、明確な同意と倫理的配慮が必要です。
教育介入では、CDTは重度飲酒に特異的で、軽度〜中等度飲酒の検出には不向きであること、断酒で改善する可逆性を伝え、行動変容を支援します。
参考文献

