血中AFP
目次
定義と基本
AFP(αフェトプロテイン)は、胎児期に主として肝臓と卵黄嚢で作られる糖タンパクで、出生後は急速に低下し、健常成人ではごく低値に保たれるオンコフェタル抗原です。血中AFPは、このAFPが血液中にどの程度存在するかを測った値を指し、単位は一般にng/mLで表されます。
成人でのAFPは通常ほとんど産生されませんが、肝細胞癌や胚細胞腫瘍の一部、妊娠、急性・慢性肝障害などの状態で再上昇することがあります。したがって血中AFPは、肝疾患・腫瘍の評価や妊娠スクリーニングの文脈で利用されてきました。
AFPには糖鎖の違いによる分画があり、レンズマメレクチンに結合する画分(AFP-L3)は肝細胞癌との関連が強いことが知られています。AFP値そのものだけでなく、AFP-L3%などのサブタイプ情報が診断精度を補完します。
血中AFPは特異的な「癌の検査」ではなく、背景の生理・病態の影響を強く受ける非特異マーカーです。そのため、単独での断定的診断ではなく、画像検査や他の腫瘍マーカー(例:PIVKA-II)と併用して解釈する必要があります。
参考文献
測定と解釈の枠組み
血中AFPは二重サンドイッチ法を基本とする免疫測定法(EIA, CLIA, ECLIAなど)で定量されます。標識抗体と捕捉抗体がAFPに同時結合し、発光や発色の強度から濃度を推定します。放射免疫測定は歴史的に用いられましたが、現在は化学発光法が主流です。
多くの検査室で成人の基準範囲はおおむね10 ng/mL未満ですが、機器・試薬や施設により差異が生じます。新生児や妊娠中は生理的高値となるため、年齢・妊娠週数に応じた基準の参照が不可欠です。
肝細胞癌ではAFPがしばしば上昇しますが、最大でも約半数で中等度以上の上昇にとどまり、陰性例も少なくありません。慢性肝炎・肝硬変の炎症や再生亢進でも上昇するため、画像診断や動態(連続測定)と合わせた評価が求められます。
測定干渉としてヘテロフィル抗体や生体高ビオチン血症などが偽高値の原因となることがあります。疑わしい場合は別法での再検、希釈直線性の確認、試薬変更などの対策が推奨されます。
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臨床的意義
肝細胞癌のサーベイランスでは、超音波とAFPの併用がガイドラインで検討されています。AFP単独の感度・特異度は十分ではありませんが、連続的な上昇や高値持続は精密検査の契機となります。
胚細胞腫瘍(特に卵黄嚢腫瘍/非セミノーマ系)ではAFPが重要な診断・治療反応性・予後マーカーとして機能します。治療による半減期に沿った低下は治療奏功の指標となります。
妊娠スクリーニングでは母体血清AFPが神経管閉鎖障害などのリスク評価に応用されてきましたが、現在は多項目・超音波との統合評価が一般的です。
慢性肝疾患の病勢評価では、ALT/AST、血小板、画像所見、他のマーカー(PIVKA-II, AFP-L3%)と併用し、総合的に解釈します。単発のAFP異常に過度に依存しないことが重要です。
参考文献
- AASLD Practice Guidance: Hepatocellular Carcinoma
- EASL Clinical Practice Guidelines: Management of hepatocellular carcinoma
限界と注意点
AFPは多くの非悪性条件(妊娠、肝炎急性増悪、肝再生、アルコール性肝障害など)で上昇しうるため、特異度に限界があります。しきい値を上げると特異度は上がる一方で感度が低下し、早期癌の見逃しが増えます。
肝細胞癌の一部はAFP非産生で、進行癌でも正常範囲に留まることがあります。そのため陰性であっても癌を除外できません。陰性予測にAFPを用いることは適切ではありません。
多胎妊娠や胎盤異常、胎児の発育異常などでも母体血清AFPは変化します。これらは必ず超音波など他の所見と組み合わせて解釈する必要があります。
まれに家族性にAFPが持続高値となる良性の遺伝性状態(hereditary persistence of AFP)が報告されています。この場合、画像や他マーカーが陰性で長期に安定していれば過剰な侵襲的検査は避けられます。
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参考情報と今後
AFP-L3%やPIVKA-IIなど、AFPを補うマーカーの併用で診断性能が改善するエビデンスが蓄積しています。各マーカーの得意・不得意を理解し、対象集団に応じて最適化することが重要です。
測定法の標準化やトレーサビリティ確保は施設間差を小さくし、カットオフの妥当性を高めます。外部精度管理や国際標準物質の整備が引き続き求められます。
リキッドバイオプシー(循環腫瘍DNAなど)と従来マーカーの統合により、将来的にはより高精度なサーベイランスが可能になると期待されています。
患者向けには、AFPは「異常の手掛かり」であり単独で病名を決める検査ではないという理解を広め、適切なフォローアップと共有意思決定に繋げる教育が重要です。
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