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血中非対称性ジメチルアルギニン濃度

目次

ADMAの定義と背景

非対称性ジメチルアルギニン(ADMA)は、タンパク質中のアルギニン残基がメチル化され、タンパク質分解の過程で遊離して血中に現れる内因性の低分子化合物です。ADMAは一酸化窒素合成酵素(NOS)の競合的阻害物質として作用し、血管内皮機能や血圧調節、動脈硬化の進展に影響します。

ADMAの概念は1990年代に確立し、内皮機能障害の生化学的マーカーとして注目されるようになりました。以降、心血管疾患、慢性腎臓病、糖尿病、敗血症など多くの病態で血中濃度上昇が報告され、予後不良と関連するとする研究が蓄積しています。

SDMA(対称性ジメチルアルギニン)やMMA(モノメチルアルギニン)といった関連分子も存在しますが、NOS阻害作用が最も強いのはADMAです。これらは総称してメチル化アルギニン類と呼ばれ、窒素酸化物(NO)シグナルの制御軸の一部を形成します。

臨床ではADMAは疾患特異的な診断マーカーというより、リスク層別化や病態把握の補助指標として使われます。測定法や基準値は施設差があるため、結果の解釈には背景疾患、腎機能、採血条件を含む文脈情報が重要です。

参考文献

生合成と代謝(PRMT・DDAH・AGXT2)

ADMAは主にタンパク質アルギニンメチルトランスフェラーゼ(PRMT)によりアルギニン残基がメチル化され、タンパク質分解で遊離して産生されます。遊離ADMAは細胞外へ輸送され、血中濃度として検出されます。

ADMAの分解は主としてDDAH(ジメチルアルギニンジメチルアミノヒドロラーゼ)による加水分解経路が担い、シトルリンとジメチルアミンに変換されます。DDAH1/2の活性は酸化ストレスや炎症で低下し、ADMAが上昇します。

AGXT2(アラニン-グリオキシル酸アミノトランスフェラーゼ2)もADMAの代謝に関与し、腎臓で特に重要です。腎機能低下は代謝と排泄の双方を損ない、ADMA/SDMAの上昇をもたらします。

遺伝的多型(例:DDAH1/2、PRMT、AGXT2)や環境要因(喫煙、食事、炎症、腎機能)が複合してADMA濃度を規定します。したがって個人間差は比較的大きく、加齢に伴い平均値が高くなる傾向があります。

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測定法と品質管理

ADMAの測定は、参照法として液体クロマトグラフィー-タンデム質量分析法(LC-MS/MS)が広く用いられ、同位体希釈法により高い特異性と精度が得られます。前処理としてタンパク沈殿や固相抽出が行われます。

代替として蛍光誘導体化を用いたHPLC法や、簡便なELISAキットも存在しますが、交差反応や行列表効果の影響を受けやすく、定量の絶対性や施設間比較には注意が必要です。

前分析的要因として、空腹時採血、抗凝固剤(EDTAなど)、遠心・凍結までの時間、溶血の有無が結果に影響し得ます。長期保存は凍結(−80℃)で安定ですが、凍結融解の反復は避けます。

報告単位はμmol/L(μM)が一般的で、同一個人の追跡では同一法・同一施設での継続測定が望まれます。方法差を超えた解釈には内部・外部精度管理の情報が補助となります。

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臨床的意義とリスク層別化

ADMAは内皮由来NOの生物学的利用能を低下させ、血管拡張障害、血小板活性化、炎症促進を通じて動脈硬化の病態に関与します。観察研究では高ADMAが心血管イベントや全死亡と関連して報告されています。

慢性腎臓病(CKD)ではADMAとSDMAがともに上昇し、腎機能指標(eGFR)と逆相関します。これは腎での代謝・排泄の低下を反映し、CKD患者の心血管リスク増大の一因と考えられます。

糖尿病、メタボリックシンドローム、喫煙、高ホモシステイン血症、炎症性疾患なども高ADMAと関連します。これらはDDAH活性低下や酸化ストレス増加を介した機序が想定されます。

ただしADMAは診断確定マーカーではなく、多因子の影響を受けるリスク指標です。解釈には背景疾患、腎機能、年齢、測定法の差異を考慮し、総合的リスク評価に位置付けることが重要です。

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介入・管理と研究動向

ADMAそのものを直接低下させる承認治療はありませんが、生活習慣改善(禁煙、運動、体重管理)、血圧・脂質・糖代謝の最適化はADMAや内皮機能の改善と関連します。

薬理学的にはスタチン、ACE阻害薬、ARB、葉酸などがADMA低下や内皮機能改善と関連する報告がありますが、効果の大きさは限定的で一貫性に欠ける研究もあります。

栄養介入としてL-アルギニンやL-シトルリン補充が検討されてきましたが、長期アウトカムに関する確定的証拠は乏しく、個別の適応判断が必要です。

遺伝学研究やメタボローム解析ではDDAH1/2やAGXT2などの遺伝子多型がADMA濃度に影響することが示唆され、将来的な個別化医療や新規治療標的の探索が進んでいます。

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