血中鉄分濃度
目次
定義と関連指標
血中鉄分濃度は、血清中に存在する鉄の量を示す指標で、主にトランスフェリンに結合した鉄を測定します。臨床では単独ではなく、総鉄結合能(TIBC)、未飽和鉄結合能(UIBC)、トランスフェリン飽和度(TSAT)、フェリチンなどと併せて評価します。
血清鉄は日内変動があり、採血時間や食事の影響を受けるため、結果の解釈には注意が必要です。フェリチンは貯蔵鉄を反映しますが、炎症時には急性期反応物質として上昇しうるため、併存症の影響も考慮します。
TSATは血清鉄とTIBCから算出され、トランスフェリンにどの程度鉄が結合しているかを示します。鉄欠乏ではTSATが低下し、鉄過剰では上昇します。sTfR(可溶性トランスフェリン受容体)は骨髄での需要を反映し、炎症の影響を受けにくい利点があります。
これらの指標は互いに補完的であり、単一の数値だけでは診断が難しい場合が多いです。貧血の有無、慢性炎症、肝疾患、妊娠など背景要因と合わせて総合的に判断することが推奨されます。
参考文献
調節機構(ヘプシジンと鉄恒常性)
体内の鉄恒常性は主に肝臓で産生されるヘプシジンによって制御されます。ヘプシジンは腸管からの鉄吸収およびマクロファージからの鉄放出を抑制し、血中鉄を低下させます。炎症時にはヘプシジンが誘導され鉄隔離が生じます。
エリスロポエシス(赤血球造血)の需要が高まると、エリスロフェロンなどの因子を介してヘプシジンが抑制され、吸収と動員が促進されます。低酸素や失血、妊娠などでもヘプシジンは低下し、鉄の利用が優先されます。
HFE、TFR2、HJVなどの遺伝子異常はヘプシジン経路を障害し、遺伝性ヘモクロマトーシスを引き起こします。その結果、腸からの鉄吸収過剰と蓄積が進み、肝・膵・心筋への障害が生じます。
鉄は排泄機構が限定的であるため、吸収とリサイクルの制御が決定的です。マクロファージによる老化赤血球の分解と鉄再利用が主要経路であり、ヘプシジン-フェロポルチン軸が要となります。
参考文献
測定法の概要
血清鉄は通常、トランスフェリンから酸で鉄を解離させ、Fe3+を還元してFe2+とし、フェロジン(ferrozine)などの発色試薬で比色定量されます。TIBCはトランスフェリンの鉄結合能を指標化した測定で、UIBCと血清鉄の和で表されます。
フェリチンは免疫測定法(化学発光、ELISAなど)で定量されます。測定系によって標準化の問題があり、施設間差を生む要因となるため、基準範囲の参照が重要です。
高感度で微量元素の定量が必要な場合、誘導結合プラズマ質量分析(ICP-MS)や原子吸光法が用いられることがありますが、日常診療では比色法と免疫法が主流です。
採血条件(空腹、時間帯、溶血の有無)や前処理が結果に影響します。特に溶血は赤血球内鉄の混入で偽高値を示す可能性があるため、検体品質の確保が大切です。
参考文献
臨床的意義と解釈
低い血中鉄やTSAT、低フェリチンは鉄欠乏を示唆しますが、慢性炎症の合併時はフェリチンが正常〜高値でも欠乏が隠れるため、sTfRやCRPと組み合わせた評価が有用です。
高いTSATやフェリチン高値は鉄過剰状態を示し、遺伝性ヘモクロマトーシスや反復輸血、肝疾患などを鑑別します。フェリチンは肝障害や代謝症候群でも上昇するため、背景の把握が必要です。
日内変動を受けやすい血清鉄に比べ、フェリチンやTSATは相対的に安定した情報を与えます。臨床判断では複数指標を時間をおいて再検することが推奨されます。
妊娠や成長期では需要増大により欠乏リスクが上がります。消化管出血、月経過多、吸収障害(セリアック病など)も重要な原因で、原因検索と同時に補充療法を検討します。
参考文献
生活・環境・遺伝の影響
食事からの鉄摂取量とバイオアベイラビリティ(ヘム鉄と非ヘム鉄、ビタミンCやフィチン酸の影響)が血中鉄に直結します。出血や妊娠・授乳など需要の変化も大きな環境要因です。
慢性炎症、感染症、腎疾患、肝疾患、アルコール、運動量なども鉄代謝を変動させます。特に炎症はヘプシジンを介して吸収低下と隔離を促し、機能的欠乏を生じます。
遺伝学的にはHFE変異(C282Yなど)や他の鉄関連遺伝子が鉄指標に影響します。ゲノム研究は複数の座位がフェリチンやTSATの変動に寄与することを示しています。
双生児研究やSNP遺伝率の推定では、鉄指標の遺伝的寄与は中等度で、環境要因の影響も大きいことが示唆されます。人種・性別・年齢による差も存在します。
参考文献

