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血中葉酸(ビタミンB9)

目次

定義と概要

血中葉酸は、水溶性ビタミンである葉酸(ビタミンB9)が血液中にどの程度存在するかを示す指標です。葉酸は一炭素代謝に関与し、DNA合成や修復、メチル化反応、赤血球形成に不可欠で、妊娠初期の胎児の神経管閉鎖にも重要な役割を果たします。

血中葉酸には主に「血清(血漿)葉酸」と「赤血球(RBC)葉酸」という二つの測定対象があり、前者は短期的な摂取状況、後者は数カ月の体内貯蔵状態を反映します。栄養評価や臨床判断では、目的に応じてこれらを使い分けます。

多くの国では穀類への葉酸強化政策が導入され、集団全体の血中葉酸濃度が改善しました。これにより神経管閉鎖障害の発症率低下が観察され、葉酸対策の公衆衛生的な有用性が示されています。

一方で、過剰な葉酸摂取は未代謝葉酸の出現やビタミンB12欠乏の血液学的所見を覆い隠す可能性が指摘されます。従って、適正な評価と必要に応じたB12の併用評価が推奨されます。

参考文献

測定と意義

血清葉酸は最近の食事やサプリメント摂取の影響を数日単位で反映するため、急性の不足や過剰の把握に適しています。一方、RBC葉酸は赤血球の寿命に相当する期間の状態を示し、長期的な充足度の評価に有用です。

妊娠を計画・維持する女性では、神経管閉鎖障害リスク低減の観点から十分な葉酸状態の維持が特に重要です。既往疾患や服薬(抗てんかん薬、メトトレキサート、トリメトプリムなど)により葉酸代謝が影響される場合、測定が診療の一助となります。

貧血の原因鑑別でも測定は重要です。巨赤芽球性貧血が疑われるとき、葉酸とビタミンB12の双方を評価し、どちらの欠乏が主因か、併存はないかを確認します。

公衆衛生や疫学では、強化政策や食生活の変化が集団の血中葉酸に与える影響を追跡し、栄養政策の妥当性や安全性を検討するために活用されます。

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遺伝と環境

血中葉酸の個人差は、食事・強化食品・サプリメント・吸収といった環境要因に大きく左右されます。国や年代で強化政策の有無により分布が大きく変わることが示されています。

遺伝的には、MTHFRなど一炭素代謝関連遺伝子の多型が葉酸やホモシステインに影響しうることが知られています。ただし個々の多型が説明する分散は一般に小さく、集団差の大部分は環境で説明されます。

双生児・家族研究では、血中葉酸(および関連指標)の遺伝率がおおむね中等度(例:30–40%程度)と報告される一方、残りは環境要因が寄与すると示唆されています。

したがって実務上は、まず食事やサプリメント、併用薬・疾患の影響を評価し、必要に応じて遺伝的背景(MTHFR多型など)を参考情報として扱うのが現実的です。

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解釈と基準

血清葉酸は短期指標で、低値は最近の摂取不足、吸収不良、薬剤影響を示唆します。高値はサプリメントや強化食品の影響が多く、臨床症状と合わせて解釈します。

RBC葉酸は長期指標で、低値は慢性的不足や需要亢進(妊娠、溶血)、吸収障害を示唆します。女性の再生産年齢ではNTD予防のため、一定以上(例:>906 nmol/L)が望ましいとされます。

欠乏の判定には閾値が提案されています。一般に血清葉酸10 nmol/L(約4 ng/mL)未満、RBC葉酸340 nmol/L前後未満で欠乏が疑われますが、検査法や施設で差があります。

過剰の懸念として、未代謝葉酸の検出やB12欠乏の血液学的所見のマスキングが挙げられます。B12欠乏のリスクがある場合は両者を同時に評価します。

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異常時対応

低値の場合は食事改善(緑葉野菜、豆類、柑橘、強化穀類)と、必要に応じたサプリメント(一般成人で葉酸400 μg/日)を検討します。並行して原因(吸収障害、薬剤、アルコール、妊娠など)を評価します。

ビタミンB12欠乏が疑われる場合は、神経障害進行を避けるためB12を優先評価・補充します。葉酸のみを補うと貧血所見が改善しても神経障害が進行する恐れがあります。

高値は多くが補充の反映ですが、必要性の再評価、用量調整、B12の併存欠乏確認、未代謝葉酸の懸念を念頭に置きます。上限量(合成葉酸として1,000 μg/日・成人)を超えないよう注意します。

検査の再評価は介入後8–12週間以降に行うと、RBC葉酸の反映も含めた状態変化を捉えやすくなります。

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