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血中総ビリルビン

目次

用語の定義と概要

血中総ビリルビンとは、血液中に存在する非抱合型(間接型)ビリルビンと抱合型(直接型)ビリルビンの総和を示す臨床検査項目です。ビリルビンは主として赤血球ヘモグロビンの代謝産物として生じ、脾臓などでヘムがビリベルジンに分解された後、ビリルビンへと還元されます。非抱合型ビリルビンは脂溶性でアルブミンと結合して肝臓へ運ばれ、肝細胞内でUGT1A1酵素によりグルクロン酸抱合を受けて水溶性の抱合型となり、胆汁として排泄されます。

この一連の流れのどこかに障害が生じると血中ビリルビンが上昇し、皮膚や眼球結膜が黄色く見える黄疸が出現します。臨床では総ビリルビン値と、直接・間接の分画の比率をみることで、肝細胞障害、胆汁うっ滞、溶血などの原因鑑別に役立てます。一般的に目で黄疸が分かるのは総ビリルビンが約2〜3 mg/dLを超える頃とされますが、個人差や照明条件で見え方は変わります。

総ビリルビンは単独ではなく、AST・ALT・ALP・γ-GTPなどの肝胆道系酵素、血算や溶血指標(LDH、ハプトグロビン、網赤血球)と合わせて評価するのが基本です。食事・運動・薬剤・脱水など非病的要因でも軽度に変動するため、解釈には測定条件の確認が欠かせません。

ビリルビンは単なる老廃物ではなく、体内で抗酸化作用を示すことが知られています。適度な範囲の上昇は酸化ストレス関連疾患のリスク低下と関連する観察研究もありますが、重度の高ビリルビン血症、とくに新生児では神経毒性の危険があるため、文脈に応じた慎重な評価が求められます。

参考文献

測定と基準範囲

総ビリルビンの測定には古典的なジアゾ法(Jendrassik–Grof法)が広く用いられます。抱合型ビリルビンはジアゾ試薬と迅速に反応してアゾ色素を形成し、非抱合型は加速剤(カフェインや界面活性剤)を加えてから反応させます。総ビリルビンは加速剤存在下での発色強度を比色定量し、直接型は加速剤なしで測定、間接型は両者の差分で求めます。近年は酵素法やバナジン酸酸化法、HPLCなども使われます。

成人の基準範囲はおおむね0.2〜1.2 mg/dL(約3.4〜20.5 μmol/L)ですが、施設や機器により範囲がわずかに異なります。空腹・脱水・激しい運動・採血溶血・光曝露などの前分析要因は測定値に影響しうるため、前提条件の統一と適切なサンプル取り扱いが重要です。

新生児では生理的黄疸により総ビリルビンが一過性に高くなるのが一般的です。これはUGT1A1活性の未熟性、胎児型赤血球の崩壊増加、腸肝循環の元進などが背景にあります。とはいえ、閾値を超える上昇は黄疸の危険があるため、ガイドラインに沿った監視と治療(光療法など)が必要となります。

測定結果の信頼性には内部精度管理と外部精度評価が不可欠です。黄疸指数が高い試料や溶血・白濁の強い試料は干渉を生じやすく、測定法によっては過小・過大評価が起こりえます。臨床解釈では、同一法・同一機器での経時変化を見ることが推奨されます。

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遺伝学と環境要因

総ビリルビン値の個人差には強い遺伝的寄与が認められ、双生児研究やゲノムワイド関連解析(GWAS)で裏付けられています。UGT1A1遺伝子領域(プロモーターTAリピートのUGT1A128や東アジアで多いUGT1A16など)の多型は、抱合能を左右し、健常域での総ビリルビンのばらつきの大部分を説明します。

GWASではUGT1A1近傍の主座が最も強い関連を示し、代表的SNPが総ビリルビンの分散の相当部分(概ね15〜20%前後)を説明することが報告されています。一方、双生児研究の全体遺伝率はしばしば0.6〜0.8と見積もられ、遺伝要因の寄与が環境要因を上回ることを示唆します。

環境要因としては、断食・発熱・ストレス・激しい運動・アルコール摂取・脱水・薬剤(例:アタザナビル、インダナビル、ゲムフィブロジルなど)や溶血、肝炎・胆道疾患が挙げられます。これらは生成、取り込み、抱合、排泄の各段階に影響を与え、短期的にも総ビリルビンを変動させます。

したがって、個人の総ビリルビンは「高め」になりやすい体質(例:Gilbert症候群)と、生活状況・併用薬・並存疾患といった外的因子の相互作用で決まります。解釈時には、遺伝的素因の有無と可逆的な環境因子の切り分けが重要です。

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臨床的意義と解釈

総ビリルビン上昇は、非抱合型優位か抱合型優位かで鑑別が大きく変わります。非抱合型優位では溶血や無効造血、UGT1A1活性低下(Gilbert症候群、Crigler–Najjar症候群)、薬剤性UGT1A1阻害(アタザナビルなど)を考えます。抱合型優位では肝細胞障害(ウイルス性・アルコール性・非アルコール性脂肪性肝疾患など)や胆汁うっ滞(総胆管結石、腫瘍、薬剤性胆汁うっ滞)、稀にDubin–Johnson/Rotor症候群を鑑別します。

総ビリルビンは単独では限定的で、AST/ALT(肝細胞障害)、ALP・γ-GTP(胆汁うっ滞)、プロトロンビン時間(合成能)、血算・LDH・ハプトグロビン(溶血)などと組み合わせることで診断的価値が高まります。尿中ビリルビン陽性は抱合型の上昇を示唆し、尿ウロビリノーゲンは溶血や肝疾患で増えることがあります。

臨床の目安として、目で黄疸を認識しやすいのは約2〜3 mg/dL以上です。軽度上昇で他の肝機能が正常、症状もない場合は、Gilbert体質や一過性の環境因子が疑われ、経過観察や再検で十分なことが多いです。ただし、急激な上昇、強い全身倦怠感、黄疸の進行、灰白色便や濃褐色尿、出血傾向、意識障害などがあれば、緊急評価が必要です。

新生児では未熟性のため総ビリルビンが高値でも多くは生理的ですが、閾値を超える場合は核黄疸予防のため光療法や交換輸血を考慮します。成人と異なり神経毒性のリスクがあるため、専門ガイドラインに従った管理が必須です。

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異常時の対応と予防

総ビリルビンが軽度に高い場合、まず採血条件(空腹、運動、脱水、採血溶血、採血時刻)と薬歴を見直し、必要に応じて数日〜数週間で再検します。持続する上昇や症状を伴う場合は、分画測定(直接・間接)と肝胆道系酵素、血算、溶血マーカー、ウイルス肝炎検査、腹部超音波や胆道評価を段階的に行います。

薬剤性の可能性がある場合は、担当医と相談し中止や代替を検討します。UGT1A1阻害で知られる抗HIV薬アタザナビルは、無害な体質性高ビリルビン血症様の間接型上昇を起こしうるため、臨床症状や他の肝機能異常の有無で区別します。強い黄疸や胆道閉塞が疑われる所見があれば、早期の画像診断と専門医介入が重要です。

予防の観点では、過度の断食・脱水・過激な運動・大量飲酒を避け、肝炎ウイルス対策や代謝性疾患の管理、ポリファーマシーの整理が役立ちます。Gilbert体質の人はストレスや空腹で一過性に上がりやすいことを理解し、必要以上に不安にならないことも大切です。

なお、観察研究では中等度に高いビリルビンが心血管疾患リスクの低下と関連するとの報告がありますが、意図的に上げることは推奨されません。原因の精査と基礎疾患の適切な治療が優先されます。

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