血中総トランスフェリン
目次
概要
トランスフェリンは肝臓で作られる糖タンパクで、三価鉄(Fe3+)を結合して血液中を運ぶ役割を担います。血中総トランスフェリンは、このタンパク質の総量を指し、鉄代謝の状態や栄養、炎症の影響を反映します。臨床では鉄欠乏や慢性炎症、肝疾患などの評価に用いられます。
トランスフェリンは陰性急性期反応タンパクでもあります。つまり、炎症や感染、悪性腫瘍などの急性期反応が起こると、血中濃度が低下する傾向があります。この性質が、鉄欠乏の有無を評価する際に結果の解釈を複雑にすることがあります。
鉄とトランスフェリンの相互関係には、トランスフェリン受容体を介した細胞内取り込みや、トランスフェリン飽和度(血清鉄/TIBC×100%)などの関連指標が含まれます。TIBC(総鉄結合能)は多くの施設でトランスフェリン濃度の間接的な指標として扱われます。
健常状態では、トランスフェリンの一部のみが鉄で占有されており、飽和度は通常20~45%の範囲です。妊娠やエストロゲン投与ではトランスフェリンが増加しやすく、逆に栄養不良や肝不全では低下します。これらの背景を押さえることで、検査結果の文脈的理解が可能になります。
参考文献
測定と解釈
血中総トランスフェリンは免疫比濁法や免疫ネフェロメトリーといった免疫学的手法で直接定量されることが一般的です。一方で、TIBCやUIBCからトランスフェリン濃度を換算する間接法もあります。施設間で方法が異なるため、解釈には検査室の手法を確認することが重要です。
高値はしばしば鉄欠乏や妊娠、経口避妊薬・エストロゲン療法でみられます。低値は炎症、慢性疾患、肝機能障害、ネフローゼ症候群、栄養障害、遺伝性鉄過剰症などでみられます。必ず他の鉄関連指標(血清鉄、フェリチン、飽和度)と併せて評価します。
炎症の存在下ではフェリチンが偽高値になり、トランスフェリンは陰性急性期反応で低下しやすいという相反する動きを示します。したがって、CRPなど炎症マーカーと合わせて全体像を把握することが、鑑別に有用です。
小児、妊娠、加齢など生理的条件でも基準値が揺れます。特に妊娠後期ではトランスフェリンが増加し、飽和度は相対的に低くなることがあります。背景情報の聴取・記録は解釈の品質を高めます。
参考文献
- Testing.com: Transferrin
- ARUP Consult: Iron Deficiency Anemia Testing
- UCSF Health: Transferrin blood test
正常値と異常
成人の血中トランスフェリンの基準範囲は概ね200~360 mg/dL(2.0~3.6 g/L)ですが、検査法や施設、年齢、妊娠の有無によって差があります。結果の判定には、報告書に記載された施設固有の基準範囲を優先します。
高値(上限超え)は総じて体内の可利用鉄が不足しているサインであり、早期の鉄欠乏でフェリチンがまだ正常域にある段階でも上昇することがあります。慢性出血(消化管出血、月経過多)や需要増加(妊娠、成長期)を考慮します。
低値(下限未満)は負の急性期反応、低栄養・低アルブミン血症、肝合成能低下、ネフローゼでの尿中喪失、遺伝性や続発性の鉄過剰(ヘモクロマトーシス、反復輸血)などが鑑別に挙がります。
トランスフェリン単独では診断は確定しません。フェリチン、血清鉄、TIBC/UIBC、トランスフェリン飽和度、ヘプシジン、炎症マーカーなどと併せ、臨床症状・身体所見・出血リスクを含めた総合判断が必要です。
参考文献
- Mayo Clinic Laboratories: Transferrin, Serum (Reference values)
- MedlinePlus: Transferrin Test (Results)
定量法と理論
免疫比濁法は、トランスフェリンに対する特異抗体を加えて抗原抗体複合体を形成させ、生成した濁り(散乱光や吸光度)を測定することで濃度を求めます。複合体量は被検物質量に比例し、校正曲線から定量します。
免疫ネフェロメトリーは散乱光を特定角度で検出する手法で、低濃度域の感度が高いのが特長です。一方、比濁法は装置の普及性に優れ、日常検査で広く使われます。両者ともに標準化や校正材の品質が精度を左右します。
間接的にはTIBCを測り、トランスフェリン1 g/Lが鉄を約25 μmol/L(約70 μg/dL)結合するという係数から換算する方法もあります。ただし、蛋白の異常や異常糖鎖があると換算の前提が崩れうるため注意が必要です。
前分析要因として溶血、リポ血症、高ビリルビン血症などの干渉がありえます。採血条件、保存・輸送、凍結融解の回数なども結果に影響するため、検査室の品質管理手順に従うことが求められます。
参考文献
- Siemens Healthineers (General): Immunonephelometry principles
- Beckman Coulter: Immunoturbidimetric assays (overview)
生物学的役割
トランスフェリンは二つの鉄結合部位を持ち、Fe3+を強固に結合して循環し、トランスフェリン受容体(TfR1/TfR2)を介して骨髄の造血細胞や肝細胞などへ鉄を供給します。受容体介在性エンドサイトーシス後、酸性化により鉄が解離し、アポトランスフェリンは再循環します。
この仕組みはヘム合成と赤血球産生を支える中核であり、鉄の過酸化反応から組織を守る役割(栄養免疫)も担います。遊離鉄を低く保つことで、微生物の増殖に必要な鉄を制限する側面もあります。
トランスフェリンは主に肝臓で合成されますが、栄養状態やホルモン、炎症シグナル(IL-6、ヘプシジン)により調節されます。半減期は約8日とされ、血清蛋白のなかでは中等度の更新速度です。
糖鎖のシアル酸含量の違いによりアイソフォームが存在し、炭水化物欠損トランスフェリン(CDT)は慢性大量飲酒のバイオマーカーとして利用されます。これは本来の鉄運搬機能とは別の臨床的応用です。
参考文献
- NCBI Bookshelf: Physiology, Iron Metabolism (StatPearls)
- MedlinePlus: Carbohydrate-deficient transferrin (CDT) test
遺伝と環境
血中トランスフェリンやTIBCには中等度の遺伝的要因が関与するとされ、双生児研究では遺伝率が約40~60%と推定された報告があります。残りは食事、出血、炎症、肝機能、薬剤、妊娠などの環境要因が大きく占めます。
ゲノムワイド関連解析(GWAS)では、TF、HFE、TMPRSS6 など鉄恒常性関連遺伝子座がトランスフェリンや飽和度に影響することが示されています。ただし、個々のSNPの説明分散は小さく、臨床の個人差の多くは環境・生理的要因に依存します。
このため、検査結果の背景解釈では遺伝素因の可能性を念頭に置きつつも、まずは栄養・出血・炎症・肝腎機能・薬剤歴といった修正可能な要因の評価を優先することが合理的です。
家族歴にヘモクロマトーシスや鉄利用障害がある場合は、トランスフェリン飽和度・フェリチンとともに遺伝学的検査や専門医紹介を検討します。
参考文献

