血中第VIII因子濃度
目次
概要
第VIII因子(Factor VIII, FVIII)は、内因系凝固反応において第IX因子a(FIXa)の補酵素として働き、第X因子を活性化する「内因系テナーゼ複合体」の中核を担う糖タンパク質です。血中ではほとんどがフォン・ヴィレブランド因子(vWF)に結合して循環し、vWFによって保護・安定化されることで半減期が維持されています。
第VIII因子は主に血管内皮系(肝類洞内皮、肺・腎などの内皮)で産生され、肝実質細胞ではありません。血中で活性化されると、第VIII因子は第VIIIaとなり、リン脂質表面(活性化血小板など)上でFIXaと複合体を形成して第X因子をFXaへと加速的に活性化します。
第VIII因子は急性期反応物質としても振る舞い、炎症、感染、外傷、妊娠、加齢、エストロゲン投与などで上昇します。一方で、vWFの低下やF8遺伝子の変異、自己抗体の産生(後天性血友病A)などにより低下し、出血傾向の原因となります。
臨床的には、第VIII因子が著しく低いと血友病A(X連鎖劣性)を疑い、軽度低下ではvWFの低下に伴う二次的低下や保因者、後天性血友病Aなどを鑑別します。持続的高値は静脈血栓塞栓症のリスク上昇と関連し得るため、背景因子と併せた解釈が求められます。
参考文献
- GeneReviews: Hemophilia A
- MedlinePlus: Factor VIII Activity Test
- Lenting PJ et al. von Willebrand factor and factor VIII
- StatPearls: Factor VIII Deficiency
遺伝的要因と環境的要因
血中第VIII因子濃度の個人差は、遺伝的要因と環境・生理的要因の双方が寄与します。遺伝学的にはF8遺伝子自体の変異に加え、vWF濃度を左右するVWF遺伝子やABO血液型座位などが重要で、これらがFVIIIの安定性・循環濃度に影響します。
家系・同胞研究や連鎖解析を含む研究では、第VIII因子活性の遺伝率(全変動のうち遺伝により説明される割合)は概ね中等度で、約40~60%の範囲と報告されています。代表的なGAIT(Genetic Analysis of Idiopathic Thrombophilia)研究では、おおむね半分程度が遺伝で説明されることが示されました。
ABO血液型はvWFおよびFVIII濃度の強力な決定因子で、非O型ではO型に比べてvWF・FVIIIが高い傾向があります。これは糖鎖修飾の違いがクリアランスに影響するためで、集団レベルでは有意な差を生みます。
環境・生理的要因としては、加齢、肥満、炎症・感染、ストレス、喫煙、運動、妊娠やエストロゲン製剤の使用などが関与します。これらは急性期反応やホルモン・代謝変化を介してvWF/FVIIIを上昇させ、個人内変動をもたらします。
参考文献
- Souto JC et al. Genetic determinants of hemostasis phenotypes (GAIT)
- Jenkins PV, O’Donnell JS. Elevated factor VIII and thrombosis risk
- O’Donnell J et al. ABO blood group and VWF/FVIII
検査の意義
第VIII因子活性の測定は、出血傾向の評価、とくに血友病Aの診断・重症度分類に不可欠です。軽症から重症までの分類は治療方針(デスモプレシンや第VIII因子製剤、非置換療法など)や予防戦略の決定に直結します。
術前評価や過多月経、鼻出血、抜歯後の出血などの臨床状況で、原因検索の一環として第VIII因子を含む凝固検査を行います。加えて、後天性血友病Aが疑われる高齢者や産褥期出血では、第VIII因子活性低下と阻害因子(インヒビター)の同定が重要です。
一方、持続的な第VIII因子高値は静脈血栓塞栓症(VTE)の独立したリスク因子とされ、初発・再発リスクの層別化に補助的に用いられることがあります。ただし、急性期の測定値は高く出やすく、安定期での再評価が推奨されます。
治療モニタリングとして、デスモプレシン反応性の判定や、第VIII因子製剤投与後のトラフ・ピーク確認、インヒビターの出現監視(ベセスダ法)などにも用いられます。
参考文献
- MedlinePlus: Factor VIII Activity Test
- Kyrle PA et al. High factor VIII and recurrent VTE (NEJM)
- WFH Laboratory Manual for Diagnosis of Hemophilia
測定法と理論
臨床検査では、aPTTを基盤とするワンステージ凝固活性測定が広く用いられます。患者検体を第VIII因子欠乏血漿に混合し、aPTTの短縮度から第VIII因子活性を相対的に算出します。簡便でスループットに優れますが、ループスアンチコアグラントなどの干渉を受けうる点に留意が必要です。
クロモジェニック二段法は、FIXa、FX、リン脂質、Ca2+の組成下で生成されるFXa量を発色基質で定量し、第VIII因子活性を評価します。特定のF8変異ではワンステージ法とクロモジェニック法の乘離が生じることが知られ、診断や重症度評価に影響します。
免疫学的方法(FVIII
)は蛋白量の測定であり、機能低下型変異やインヒビター存在下で活性と抗原量の乖離を捉えるのに有用です。阻害因子の力価はベセスダ法で定量し、治療方針の決定に役立てます。前分析要因として、駆血時間、採血から遠心までの時間、クエン酸濃度、急性期・ストレスの影響が挙げられます。安定期に再検し、検体取り扱い標準化に従うことが、信頼できる解釈の前提となります。
参考文献
- WFH Laboratory Manual for Diagnosis of Hemophilia
- Kitchen S. Factor VIII and IX assays (Haemophilia)
- Favaloro EJ. Laboratory testing of factor VIII
- Lippi G, Favaloro EJ. Preanalytical issues in coagulation
解釈と対処
一般的な基準範囲はおおむね50~150 IU/dLですが、施設・試薬や年齢、妊娠の有無、血液型で変動します。異常高値・低値の判断は、状況依存であり、可能なら安定期に再検し、複数の検査法を組み合わせます。
低値では血友病A(重症<1%、中等症1–5%、軽症5–40%)やvWF低下に伴う二次的低下、後天性血友病Aの鑑別が重要です。治療はデスモプレシンや第VIII因子製剤、バイパス製剤、免疫抑制(後天性)など病態に応じて選択します。
高値(例:150–200 IU/dL超)が持続する場合、VTEリスク増大との関連が示されています。肥満、炎症、エストロゲン曝露など修正可能因子の是正、急性期回復後の再測定、全体的な血栓リスク評価が実務的です。
検査値のみで抗凝固療法の開始・延長を決めることは推奨されず、既往歴、誘因、他の血栓性素因、出血リスクを総合して判断します。専門医(血液内科)への相談が勧められます。
参考文献

