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血中多価不飽和脂肪酸濃度

目次

定義と基本概念

血中多価不飽和脂肪酸濃度とは、血液中に存在するn-3系やn-6系などの多価不飽和脂肪酸(PUFA)の量または組成を示す指標です。測定対象は血漿、血清、赤血球膜などの脂質画分で、単位はμg/mLのような濃度や、総脂肪酸に対する百分率(%)で表されます。どの画分と単位で評価するかにより、結果の意味合いが異なります。

PUFAは脂肪酸鎖に二重結合を2つ以上持つ脂肪酸の総称で、代表的なn-6系にはリノール酸(LA)やアラキドン酸(AA)、n-3系にはエイコサペンタエン酸(EPA)やドコサヘキサエン酸(DHA)があります。これらは細胞膜の構成やシグナル伝達、炎症や止血の調節に関与します。

血中のPUFAは食事からの摂取、体内の合成と代謝、組織からの動員、分解と排泄といった動態で決まり、短期から中期の摂取状況や生理的状態を反映します。赤血球膜は過去数か月、血漿は数日から数週間の影響を比較的強く反映します。

一般的に健康評価では、個々の脂肪酸(EPA、DHA、AAなど)や、比(AA/EPA、n-6/n-3)を用いて炎症傾向や心血管リスクの推定を試みます。ただし解釈は測定法や人種、生活習慣に左右されるため、標準化と背景情報の確認が重要です。

参考文献

測定対象と時間窓

血漿・血清中のPUFAは食直後の影響を受けやすく、数日から数週間の摂取変化を反映します。短期介入試験では増減の把握に適しますが、日内変動や食事の影響を避けるために空腹時採血が望まれます。

赤血球膜中PUFAは赤血球寿命(約120日)の影響で、より長い時間窓の平均的な摂取と生体内代謝を反映します。特にEPA+DHAの割合(オメガ3指数)は心血管リスクのマーカーとして用いられてきました。

全血の乾燥血滴(DBS)法は在宅採取に適し、物流面の利点がありますが、水分や酸化、温度管理の影響を受け、厳密な品質管理が必要です。いずれのマトリクスでも前処理や保存条件が結果に影響するため標準化が重要です。

測定値は絶対量(濃度)と相対量(%)で解釈が異なります。濃度は脂質輸送や空腹時中性脂肪の影響を受けやすく、%は構成比を示しますが総脂質量の変化を反映しません。臨床的には双方の指標を総合して理解することが望まれます。

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主な測定法と理論

ガスクロマトグラフィー(GC)はPUFA測定の標準技術で、脂肪酸をメチルエステル化(FAME化)した後、カラムで炭素数と不飽和度によって分離し、FID検出器で定量します。ピーク面積比から相対割合を、内部標準を用いて絶対量を求めます。

試料は有機溶媒で抽出(Folch法やBligh-Dyer法)後、酸触媒や塩基触媒でトランスメチル化します。Lepage & Roy法のように総脂質から直接FAME化する方法も広く用いられ、回収率と再現性の確保が要です。

質量分析(GC-MS、LC-MS)は同定の特異性を高め、同位体希釈法により正確な絶対定量が可能です。酸化を受けやすいPUFAでは抗酸化剤の添加、低温・遮光、迅速処理が精度維持に役立ちます。

測定の信頼性には参照物質と外部精度管理が不可欠です。NIST SRMや国際ラウンドロビンでの比較によりバイアスの把握と補正が行え、施設間の整合性を確保できます。

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影響因子:遺伝と環境

血中PUFAはFADS1/2などの脂肪酸不飽和化酵素遺伝子群の多型に強く影響され、特にn-6系アラキドン酸やn-3系の長鎖化に関連します。GWASではこれらの座位が血中PUFAのばらつきの一部を説明することが示されています。

一方で食事性摂取(魚介類、植物油、ナッツ、種子)、エネルギー収支、アルコール、喫煙、体組成、炎症・代謝疾患、薬剤など環境要因の寄与も大きく、日常の食習慣が短中期の値を大きく左右します。

民族差や文化的食習慣は基準範囲の設定にも影響します。例えば魚摂取の多い集団ではEPA・DHA割合が高く、AA/EPA比が低い傾向があります。従って解釈には対象集団に適した参照範囲が必要です。

遺伝と環境は相互作用し、同じ摂取量でも遺伝的背景により変換効率や血中反映度が異なります。個別化栄養の観点からは、測定値と遺伝情報、食事記録を統合して評価することが理想です。

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臨床的意義と解釈上の注意

PUFAの測定は、心血管、代謝、炎症、妊娠や神経発達などの文脈で活用されます。特に赤血球EPA+DHA(オメガ3指数)は心血管リスクの層別化に用いられ、疫学的に死亡リスクとの関連が報告されています。

ただし単独で診断に用いるものではなく、他のリスク因子や臨床所見と組み合わせた総合評価が必要です。測定画分や単位、前処理、食事・投薬状況などのメタデータが伴って初めて比較可能性が担保されます。

正常範囲は測定法・集団依存で一律ではありません。例としてオメガ3指数では4%未満が低値、8%以上が望ましい範囲とされることがありますが、これは特定の方法とエンドポイントに基づく提案値です。

異常値が見つかった場合の介入は、食事改善(魚介類や植物性n-3の増量、過剰なn-6や反式脂肪の抑制)、生活習慣の是正、必要に応じたサプリメントの検討などが基本です。医療者と相談の上で個別化することが推奨されます。

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