Forest background
バイオインフォの森へようこそ

血中亜鉛濃度

目次

定義と概要

血中亜鉛濃度とは、主に血清や血漿中に存在する亜鉛イオンの量を指し、通常はμg/dL(またはμmol/L)で表されます。体内亜鉛の大半は細胞内や骨、筋肉に存在し、血中は全体のごく一部で動的平衡を反映する指標にすぎません。したがって、血中濃度は亜鉛の全身ストアの完璧な代理ではないものの、臨床現場で最も広く用いられる指標です。

血中亜鉛は、アルブミンやα2-マクログロブリンなどのタンパク質に結合して運搬されます。炎症時には急性期反応により運搬タンパクや分布が変化し、見かけ上の低下が生じやすいことが知られています。このため採血条件や併存疾患の評価が解釈に不可欠です。

血中亜鉛は1日の中でも変動し、食後の一過性低下や早朝の相対的な安定など、日内変動と食事の影響を受けます。検査の標準化には、朝の空腹時採血や溶血回避など前分析的条件の統一が推奨されます。

臨床的には、亜鉛欠乏のスクリーニングやモニタリング、栄養療法の評価、特定疾患(吸収不良、慢性肝疾患、腸疾患など)でのリスク評価に用いられます。一方で、単独の血中濃度だけで欠乏を断定せず、症状やリスク因子、炎症の指標と合わせて総合判断することが勧められます。

参考文献

測定法と前分析的注意点

血中亜鉛の定量には、誘導結合プラズマ質量分析法(ICP-MS)、原子吸光分析(AAS)、ICP-OESなどの機器分析が用いられます。これらは高感度で微量元素の測定に適しており、臨床検査室では主としてICP-MSやAASが採用されています。

採血管の選択や器材汚染の防止は極めて重要です。通常は亜鉛フリーの採血管を用い、溶血は赤血球内の亜鉛流出により偽高値を招くため厳重に回避します。血清と血漿のどちらを用いるか、分離時間や保存条件も結果に影響します。

日内変動と食事の影響を最小化するため、朝の空腹時採血が望ましいとされます。また、急性炎症・感染・手術後などでは肝への再分配により血清亜鉛が低下しやすく、CRPなどの炎症マーカーを併せて解釈します。

検査法の違いにより基準範囲が異なることがあるため、結果の解釈では実施した検査室の参照範囲に従う必要があります。外部精度管理や標準物質の利用は、施設間差を小さくするうえで不可欠です。

参考文献

正常範囲と解釈のポイント

多くの施設での血清(または血漿)亜鉛の参照範囲は、おおむね70〜120 μg/dL(10.7〜18.4 μmol/L)程度ですが、機器や母集団により変動します。必ず報告書に示された施設固有の参照範囲で評価してください。

明らかな欠乏を示唆する目安としては、しばしば60〜70 μg/dL未満が用いられますが、炎症の有無、アルブミン濃度、採血条件を考慮しないと偽低値の可能性があります。症状や食事歴、リスク因子と合わせた総合評価が重要です。

妊娠・小児・高齢者では生理的変化により参照範囲が異なることがあります。妊娠では希釈や結合タンパクの変化で低めに出ることがあり、年齢階層に応じた基準の採用が望まれます。

軽度の低値であっても、味覚異常、皮膚炎、脱毛、創傷治癒遅延、食欲不振、免疫低下などの症状と一致する場合には臨床的意義が高まります。逆に無症候で炎症高値の場面では二次性低下の可能性を検討します。

参考文献

臨床的意義と検査の使いどころ

血中亜鉛は、疑われる欠乏症のスクリーニングや、補充療法のモニタリング、長期経腸・静脈栄養患者、吸収不良、慢性肝疾患、炎症性腸疾患、腎疾患、アルコール依存、妊婦・授乳婦などのハイリスク群での評価に用いられます。

重篤な先天性吸収障害であるアクロデルマチチス・エントロパチカ(SLC39A4変異)では、乳児期から重度の亜鉛欠乏を呈し、早期診断と高用量の補充で予後が改善します。遺伝性要因が関与する代表例です。

一方で、一般集団の血中亜鉛は主として食事摂取、フィチン酸などによる吸収阻害、炎症や感染、ホルモン環境、肝機能など環境要因の影響を受けます。検査は原因探索の糸口として位置づけられます。

補充療法では、症状と検査値の両面から至適投与量を調整します。過剰補充は銅欠乏や鉄代謝への影響を招く可能性があるため、定期的なフォローが推奨されます。

参考文献

異常値が見つかった場合の対応

低値の場合は、まず炎症や溶血、採血条件といった前分析要因を確認し、臨床症状・食事歴・併存疾患を総合して評価します。必要に応じて再検や炎症沈静化後の再評価を行います。

食事からの改善では、牡蠣、赤身肉、鶏、豆類、ナッツ、全粒穀物などを取り入れ、フィチン酸の多い食品は発酵や浸漬で吸収阻害を軽減できます。栄養士の介入が有用です。

サプリメント補充は一般成人で1日数10 mg元素亜鉛が用いられますが、長期での上限量(UL)は40 mg/日(成人)とされ、過量では銅欠乏・胃腸症状のリスクが高まります。医療者の管理下で行います。

高値はまれで、多くは過剰摂取、検体汚染、溶血が原因です。真の高亜鉛血症が疑われる場合には、原因薬剤・サプリの確認、銅代謝への影響評価などを行います。

参考文献

遺伝的要因と環境要因

血中亜鉛の個人差には遺伝と環境の双方が関与します。遺伝的には、SLC39/SLC30ファミリーのトランスポーターの変異が吸収や細胞内輸送に影響し、先天性疾患(例:SLC39A4変異のアクロデルマチチス・エントロパチカ)では重篤な低亜鉛血症を呈します。

一般集団における遺伝的寄与は中等度以下とみられ、双生児・ゲノム解析の知見から、環境(食事、炎症、感染、肝機能、薬剤、採血条件)による影響が相対的に大きいと考えられます。ただし定量的な遺伝率は研究により幅があります。

環境要因の中では、摂取量とバイオアベイラビリティが主要な決定因子で、フィチン酸や鉄・カルシウムの同時摂取、低アルブミン血症、炎症性サイトカインによる肝への再分配などが血清濃度に影響します。

特定の遺伝子多型が微量元素の血中濃度に及ぼす影響を示す報告もあり、SLC39A8など金属トランスポーターの変異はマンガンを中心に、場合によっては亜鉛代謝にも波及しうることが示唆されています。

参考文献

広告を取得中...