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血中レチノール濃度

目次

概要

血中レチノール濃度は、ビタミンAの主要な循環形であるレチノールが血清または血漿中にどれだけ存在するかを示す指標です。主に肝臓で貯蔵されたビタミンAが、レチノール結合たんぱく質(RBP)と結合して血中を運ばれます。

この濃度は、視覚、免疫、上皮の維持、発生・生殖などの生命維持に関わる作用の基盤であり、欠乏や過剰は臨床的な問題を引き起こします。ただし、恒常性が強く、軽度から中等度の不足では数値が保たれる傾向があります。

測定は主に高速液体クロマトグラフィー(HPLC)や液体クロマトグラフィー・質量分析(LC-MS/MS)で行われ、RBPの免疫学的測定や同位体希釈法など補助的方法も用いられます。

臨床や公衆衛生では、WHOが定めるしきい値(0.70 µmol/L未満など)を用いて集団のビタミンA欠乏の有病割合を推定します。一方で、炎症や感染で一過性に低下する点には注意が必要です。

参考文献

決定要因(遺伝と環境)

血中レチノール濃度は、食事からの摂取量、肝臓の貯蔵量、吸収や胆汁排泄の機能、炎症・感染の状態など多数の環境要因によって変動します。特に急性期反応ではRBPが低下し、肝貯蔵が十分でも血中値が下がることがあります。

遺伝的要因としては、プロビタミンAカロテノイドからレチノールへ変換するBCMO1遺伝子多型、輸送に関わるRBP4やトランスサイレチン(TTR)などが報告されています。これらは個人差の一部を説明します。

双生児・家族研究やゲノムワイド関連解析では、ビタミン関連バイオマーカーの遺伝率は中等度であることが示唆され、血中レチノールでは概ね30〜50%程度と推定する報告がありますが、研究間で幅があります。

一方、食事、サプリメント使用、感染・炎症、肝・腎機能、飲酒、喫煙、妊娠・授乳など環境の寄与は大きく、個体差の半分以上を占めることが一般的です。

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測定と解釈

臨床検査ではHPLC-UVで325nm付近の吸光を検出し、内部標準(例:レチニルアセテート)を用いて定量します。LC-MS/MSは選択性が高く、レチノールとレチニルエステルの同時定量にも用いられます。

血中レチノールは恒常性により中等度の不足では変化が小さいため、欠乏の初期検出には限界があります。反対に過剰でも必ずしも高値にならず、レチニルエステル比率(RE%)の上昇で評価することがあります。

WHOは個人診断よりも集団評価における使用を推奨し、0.70 µmol/L未満を欠乏の指標、0.35 µmol/L未満を重度欠乏の指標としています。炎症時は値を補正・解釈する必要があります。

臨床では、LabCorpなどの基準範囲(約0.70〜2.16 µmol/L)を参考にしますが、検査室により差があります。空腹採血や遮光など前処理も解釈に影響します。

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臨床的意義と対処

低値はビタミンA欠乏、脂肪吸収不全(膵外分泌不全、胆汁うっ滞、炎症性腸疾患など)、重度感染や炎症の急性期反応などで認めます。症状として夜盲、結膜乾燥、感染リスク増加などがあります。

高値やレチニルエステル比率の上昇は、過剰摂取(サプリメント・肝油)、レチノイド薬の使用、まれに肝疾患での異常代謝を示唆します。頭痛、肝機能異常、皮膚剥脱など過剰症状に注意します。

対処は、原因の同定(食事歴、薬剤、基礎疾患、炎症マーカー)と是正です。欠乏ではガイドラインに沿った補充、過剰では摂取中止と専門医管理が基本です。

炎症による一過性低下が疑われる場合は、CRP/AGP等を併測し、回復後の再検を行うことで過小評価を避けます。

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応用とその他の知識

公衆衛生では、集団におけるビタミンA欠乏対策(サプリメント配布、食品強化)の評価指標として用いられます。BRINDAプロジェクトは炎症補正の枠組みを提供しています。

研究では、レチノール同位体希釈法(RID)により体内貯蔵量を推定します。これは安定同位体標識レチノール投与後の比率からコンパートメントモデルで算出する方法です。

検体は遮光・低温で迅速に処理し、酸化・異性化を防ぐ必要があります。採血は通常早朝空腹で行い、食直後の一過性上昇の影響を避けます。

妊娠では循環血漿量増加による希釈やRBPの変動でやや低値に見えることがあり、解釈は産科的背景を踏まえます。

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