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血中リパーゼ

目次

定義と背景

血中リパーゼとは、主として膵臓から分泌される消化酵素(膵リパーゼ)が血液中に存在し、その酵素活性や濃度を臨床検査で評価する概念を指します。リパーゼは中性脂肪を脂肪酸とグリセロールに分解する重要な役割を担い、膵外分泌機能の指標として用いられてきました。

一般的に臨床で「リパーゼ」という時は膵由来のリパーゼを意味しますが、体内には胃リパーゼや肝性リパーゼ、リポタンパクリパーゼなど複数のリパーゼが存在します。それでも、血中測定は主に膵病態の把握に活用されます。

急性膵炎では膵細胞の障害によりリパーゼが血中に逸脱し、数時間で上昇、24時間前後でピークに達し、数日から2週間程度高値が持続することが知られています。こうした時間的推移は診断や経過観察で重要です。

アミラーゼと比較して、リパーゼは膵特異度がより高いとされ、唾液腺疾患などの影響を受けにくい利点があります。一方で、腎機能低下や消化管疾患など膵外の要因でも上昇しうるため、臨床症状や画像所見との統合評価が不可欠です。

参考文献

臨床における利用

血中リパーゼは急性膵炎の診断における主要な検査の一つで、上腹部痛や嘔吐、膵炎を示唆する所見がある場合に測定されます。上限値の3倍を超える上昇が、臨床像と合致すれば急性膵炎を強く示唆します。

診断には通常、臨床症状、血清膵酵素(リパーゼまたはアミラーゼ)上昇、画像所見の3要素のうち2つ以上を満たすことが推奨されます。したがって、検査結果は単独ではなく、病歴や身体所見と組み合わせて解釈されます。

慢性膵炎や膵外分泌機能不全では、血中リパーゼが正常または低値となることもあります。この場合、便中エラスターゼや画像検査、機能検査が診断補助として用いられます。

また、膵炎以外でも腎不全、腸閉塞、胆道疾患、糖尿病性ケトアシドーシス、敗血症などで高値となり得ます。そのため、非特異的上昇の鑑別には腎機能評価や腹部画像検査が重要です。

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検査と測定法

現在の臨床検査では、発色性または蛍光性の合成基質(例:DGGRなど)を用いた比色法が広く用いられています。リパーゼが基質を加水分解すると色素が遊離し、その速度を吸光度変化として測定する原理です。

他にも、基質エマルションの濁度変化を測る比濁法や、pH-スタット法などが歴史的に用いられてきました。免疫測定法で膵リパーゼ蛋白そのものを測るアプローチもありますが、日常検査では活性測定が一般的です。

測定法間の差異により基準範囲や感度・特異度が異なるため、施設ごとの基準値に従うことが重要です。溶血、強い高脂血症、薬剤などの干渉要因にも注意が必要です。

検体は血清またはヘパリン血漿が用いられ、通常は空腹を厳格には要しません。ただし採血タイミングや前処置が解釈に影響しうるため、検査室の指示に従うことが望まれます。

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解釈と異常値の原因

急性膵炎では症状発現後3〜6時間で上昇し24時間前後でピーク、8〜14日持続することがあります。上限の3倍以上の上昇は診断を強く支持しますが、絶対値は重症度を直線的には反映しません。

軽度〜中等度上昇は非特異的で、腎機能低下によるクリアランス低下、胆道疾患、腸疾患、糖尿病性ケトアシドーシス、薬剤(GLP-1受容体作動薬やDPP-4阻害薬、オピオイドなど)でもみられます。

著明高値でも膵炎以外の原因(腸管虚血、穿孔など)が隠れていることがあるため、臨床文脈と画像の併用が重要です。反対に、慢性膵炎や重度の膵実質破壊では正常〜低値のこともあります。

稀に免疫複合体を形成して検査上高値となるマクロリパーゼ血症があり、ポリエチレングリコール沈殿などで見分けられます。くり返す無症候性高値ではこの鑑別が有用です。

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限界と注意点

血中リパーゼ単独では急性膵炎の診断は確定できず、症状や画像と併せた包括的判断が必要です。特に腹痛の性状、飲酒歴、胆石リスク、トリグリセリド高値などの情報が重要です。

検査法による差や施設ごとの基準範囲の違いがあるため、他院の値と単純比較するのは避けるべきです。連続測定での変化や臨床経過と照らし合わせて評価するのが望まれます。

腎不全ではリパーゼのクリアランスが低下し高値に出やすく、無症候でも上昇し得ます。この場合は腎機能指標と併せた解釈が必要になります。

薬剤性の軽度上昇や良性反復性膵酵素高値(Gullo症候群)など、必ずしも病的意義が大きくないケースもあります。過剰な検査や治療を避けるためにも、専門医と相談して方針を決めることが大切です。

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