血中フェリチン
目次
血中フェリチンの基礎
血中フェリチンは、体内の鉄を安全に蓄えるタンパク質フェリチンが血液中に存在する量を示す検査項目です。体内の貯蔵鉄量と概ね相関するため、鉄欠乏や鉄過剰の評価に広く用いられます。一方で、フェリチンは急性期反応蛋白でもあるため、炎症や感染、肝障害などでも上昇し、単独の値だけでは必ずしも貯蔵鉄量を正確に反映しないことがあります。
フェリチンはH鎖とL鎖からなる球状のシェル構造を持ち、その内部に鉄をフェリチン鉄として可逆的に蓄えます。細胞内のフェリチンが主で、血中に分泌されるフェリチンは少量ですが、臨床検査としてはこの血清(血漿)中の濃度を測定します。測定値は年齢、性別、月経の有無、妊娠、炎症状態など多くの要因で変動します。
WHOは集団レベルでの鉄欠乏評価の指標として血清フェリチンの閾値を提示しており、成人では一般に15 µg/L未満を鉄欠乏の一つの目安としています。ただし炎症がある場合は閾値の補正やCRP等の併用が推奨されます。臨床現場では、個々の状況に応じてトランスフェリン飽和度や可溶性トランスフェリン受容体などを組み合わせて解釈します。
日常診療では、鉄欠乏性貧血の診断、潜在的な鉄欠乏の早期検出、原因検索(慢性出血、消化管疾患など)、治療効果判定(経口・静注鉄剤、瀉血療法)に活用されます。反対に高フェリチン血症では、炎症性疾患、慢性肝疾患、代謝関連脂肪性肝疾患、悪性腫瘍、ヘモクロマトーシスなど多彩な原因を鑑別します。
参考文献
- WHO guideline: Ferritin concentrations for the assessment of iron status
- MedlinePlus: Ferritin blood test
測定法と結果の解釈
血中フェリチンの定量は、多くの施設で化学発光免疫測定法(CLIA)や酵素免疫測定法(ELISA)などのサンドイッチ免疫測定系が用いられます。抗フェリチン抗体で捕捉・検出し、発光や比色シグナル強度から濃度を算出します。基準範囲やキャリブレーション、試薬の特異性はメーカーや施設で異なります。
免疫測定には異種抗体やマクロフェリチンなどによる干渉が稀に生じ、偽高値や偽低値の原因になります。疑わしい場合は異なる測定系での再測定や、臨床状況・他の鉄指標との整合性を確認します。標準化は進んでいますが、施設間差は依然として考慮が必要です。
解釈では、フェリチンが急性期反応蛋白である点が最重要です。炎症や感染、悪性腫瘍、肝障害では貯蔵鉄が十分でもフェリチンが上がるため、CRPや肝酵素、トランスフェリン飽和度(TSAT)、可溶性トランスフェリン受容体を併用して全体像を評価します。
低フェリチンは炎症がなければ鉄欠乏に対して特異度が高い指標です。高フェリチンでは、まず炎症・肝疾患・代謝疾患を除外し、そのうえで遺伝性ヘモクロマトーシスなどの鉄過剰症を疑います。TSATが45%超で持続高値なら、遺伝学的検査や肝鉄評価を検討します。
参考文献
生物学的役割
フェリチンは細胞内で鉄を無毒化して貯蔵し、必要に応じて供給することで、ヘム合成やミトコンドリア機能、DNA合成などの鉄依存プロセスを支えます。H鎖はフェロキシダーゼ活性によりFe2+をFe3+へ酸化して安全に取り込み、L鎖は鉄の核形成と貯蔵を補助します。
フェリチンは酸化ストレスの抑制にも重要です。遊離鉄はFenton反応を介して活性酸素種を生成し細胞損傷を惹起しますが、フェリチンが鉄を封じ込めることで酸化障害を軽減します。炎症時にはサイトカインによりフェリチン発現が誘導され、防御反応の一部として機能します。
分泌型フェリチン(血中フェリチン)の生理的意義は完全には解明されていませんが、免疫調節や鉄の全身性シグナリングに関与する可能性が示唆されています。肝臓、脾臓、網内系がフェリチン代謝に中心的な役割を果たします。
遺伝学的には、HFE、TMPRSS6、TF、TFR2、SLC40A1(フェロポーチン)などの変異が鉄代謝異常やフェリチン値に影響します。GWASでもフェリチンに関連する多数の座位が同定され、個体差の一因が遺伝にあることが支持されています。
参考文献
- Arosio & Levi. Ferritin, iron homeostasis, and oxidative damage.
- Benyamin et al. Novel loci affecting iron homeostasis (Nat Commun 2014)
異常値の原因と臨床的意義
低フェリチンは最も一般的に鉄欠乏(出血、妊娠、成長、摂取不足、吸収障害)を示唆します。鉄欠乏は必ずしも貧血を伴わず、疲労や労作時息切れ、爪の変化、むずむず脚など非特異的症状のみの場合もあります。早期発見で生活の質改善や妊娠・小児発達への影響軽減が期待できます。
高フェリチンは炎症性疾患(自己免疫、感染症)、慢性肝疾患(アルコール性、代謝関連脂肪性肝疾患)、悪性腫瘍、腎不全、輸血後鉄過剰、遺伝性ヘモクロマトーシスなど多岐にわたります。臨床文脈とほかの鉄指標を組み合わせた鑑別が重要です。
極端な高値(>10,000 µg/L)は、成人Still病や血球貪食症候群(HLH)など重篤な炎症性・免疫関連疾患でみられることがあり、迅速な評価が必要です。これらの病態ではフェリチンが病態ドライバーとしても働く可能性が議論されています。
高値・低値いずれも、原因の同定が治療方針を左右します。低フェリチンでは出血源検索(消化管内視鏡など)や栄養・吸収評価、高フェリチンでは炎症・肝疾患評価、TSATの確認、必要に応じて遺伝子検査や肝鉄評価(MRI)を検討します。
参考文献
対処とフォローアップ
低フェリチン(鉄欠乏)では、原因に応じて経口鉄剤(第一選択)や静注鉄を用います。吸収を高めるには空腹時内服やビタミンC併用が有用ですが、副作用やアドヒアランスを考慮して隔日投与なども選択肢です。治療中は4–8週ごとにヘモグロビンとフェリチンを再評価します。
消化管出血が疑われる成人では、ガイドラインに沿って上部・下部内視鏡検査を含む精査を行います。閉経後女性や男性の鉄欠乏性貧血は特に消化管病変の頻度が高いため注意が必要です。
高フェリチンでTSAT高値かつ遺伝性ヘモクロマトーシスが疑われる場合は、HFE遺伝子(C282Y、H63Dなど)検査を含む評価を行い、診断時には瀉血療法が第一選択です。炎症や肝疾患に起因する高値では、基礎疾患の治療が中心になります。
生活面では、原因に応じて鉄摂取量の調整、アルコール削減、肝にやさしい生活、体重管理、慢性炎症のコントロールが推奨されます。自己判断でサプリメントを開始・中止せず、医療者と相談してモニタリング計画を立てましょう。
参考文献

