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血中ビタミンE濃度

目次

血中ビタミンE濃度の基礎

血中ビタミンE濃度とは、主にα-トコフェロール(ビタミンEの生理活性が高い同族体)の血清または血漿中の量を指します。ビタミンEは脂溶性で、リポタンパク質(キロミクロン、VLDL、LDL、HDL)に結合して体内を循環します。このため、測定値は食事脂肪や血中脂質の影響を受けやすく、解釈には文脈が重要です。一般に5–20 μg/mL(約11.6–46.4 μmol/L)が正常域とされます。

体内では肝臓のα-トコフェロール移送タンパク質(α-TTP)がビタミンEの選択的な取り込みと配分を担い、組織膜の多価不飽和脂肪酸を酸化ストレスから守ります。余剰分はCYP4F2などの酵素で代謝され、胆汁経由で排泄されます。これらの輸送・代謝が血中濃度の個人差に寄与します。

検査は欠乏のリスクがある脂肪吸収不良(胆汁うっ滞、膵外分泌不全、短腸症候群、嚢胞性線維症など)、早産児、長期の完全静脈栄養、あるいは高用量サプリメント内服者のモニタリングに用いられます。測定は通常、空腹時の血清で行い、高脂血症の影響を避ける必要があります。

臨床では絶対濃度(mg/L, μg/mL)に加えて、総脂質あたりや総コレステロールあたりの比で評価することがあります。これは脂質の変動による見かけ上の濃度変化を補正する目的で、特に乳児や脂質異常症の患者で有用です。

参考文献

遺伝要因と環境要因

血中ビタミンE濃度の個人差には、遺伝と環境(食事、吸収、代謝、喫煙、肥満、薬剤など)が複合的に関与します。双生児研究や遺伝学的研究からは、遺伝要因の寄与は中等度で、環境要因が優位という見解が一般的です。具体的な比率は集団や評価法によりばらつきます。

遺伝面では、脂質輸送やビタミンE取り込みに関わるSCARB1、APOA5、LPL、CETP、肝での選択輸送を担うTTPA、代謝に関わるCYP4F2などの遺伝子多型が濃度に影響します。GWASの分散説明率は小さく、既知SNPで説明できる割合は数%にとどまる一方、家系・双生児データからの遺伝率は20–30%程度と報告されています。

環境要因としては、ビタミンEと脂質の摂取量、食事中脂質の質、胆汁酸分泌や膵機能、脂質異常症、アルコール摂取、喫煙、肥満、脂溶性ビタミンの相互作用(ビタミンCなどの抗酸化剤)などが重要です。これらは日常の生活習慣修正や基礎疾患治療により変えられる要素です。

臨床・公衆衛生的には、環境因子の寄与が大きいことから、食事・生活の介入が血中ビタミンEの改善に有効である一方、特定の遺伝背景では反応性が異なる可能性があるため、個別化栄養の視点が有用です。

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測定法と理論

血中ビタミンEの定量は、ヘキサン抽出後にHPLC(高性能液体クロマトグラフィー)で分離し、蛍光検出(Ex 292 nm/Em 330 nm)またはUV検出で測定する方法が標準です。内部標準としてトコール(tocol)を用い、検量線で定量します。LC-MS/MSを用いる施設も増えています。

前処理では、タンパク沈殿や軽度のケン化(エステル体の加水分解)を行い、トコフェロールを遊離させます。脂溶性のため溶媒抽出が必要で、酸化を防ぐために暗所、低温、抗酸化剤添加(BHTなど)で試料を扱います。

理論的には、カラムで同族体(α、γ、δトコフェロール)を分離し、保持時間とスペクトルで同定します。定量の正確性は回収率、内部標準、直線性、マトリクス効果の補正に依存します。標準物質はNISTの参照標準血清が利用されます。

結果解釈では、非空腹や高トリグリセリド血症で見かけの上昇が生じ得るため、必要に応じて総脂質で補正(α-トコフェロール/総脂質比、または総コレステロール比)を用います。

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数値の解釈と正常範囲

一般的な血清α-トコフェロールの基準範囲は約5–20 μg/mL(5–20 mg/L)です。ただし、検査室により範囲は多少異なり、成人で5.5–17 mg/Lを採用する施設もあります。乳児や妊娠中など生理的状態によっても幅があります。

脂質に依存する指標であるため、α-トコフェロール/総脂質比が0.8–1.9 mg/gを正常とする基準や、総コレステロール比(>5.4 μmol/mmol)を用いる方法もあります。脂質異常や非空腹採血では、これらの比を併用するのが妥当です。

低値(<5 μg/mLまたは比での低値)は、脂肪吸収不良、胆汁うっ滞、膵外分泌不全、短腸症候群、遺伝性脂質輸送異常(無βリポ蛋白血症)などを示唆します。早産児では貯蔵が少なく、溶血性貧血や神経障害のリスクになります。

高値は多くがサプリメントの過量摂取によるもので、抗凝固薬(ワルファリンなど)との相互作用で出血傾向を強める懸念があります。長期に非常に高用量を摂ると脳卒中(出血性)のリスク増加が報告されており、UL(上限量)に留意します。

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臨床での活用と対処

測定の意義は、欠乏の早期発見、リスク群のモニタリング、サプリメント介入の過不足の評価にあります。特に脂溶性ビタミン欠乏が疑われる患者や、長期脂肪制限・栄養障害のある患者では有用です。

低値が見つかった場合は、原因精査(脂肪便、胆道疾患、膵機能、脂質異常、薬剤歴)を行い、食事の是正とともに経口または経管での補充(天然型d-α-トコフェロール、または水溶化製剤)を検討します。吸収不良が強い場合は高用量や分割投与が必要になります。

高値では、サプリメント量の見直しと、抗凝固薬内服や出血傾向の有無の確認が重要です。UL(成人1,000 mg/日の合成型α-トコフェロール当量)を超える慢性的摂取は避けるべきです。

フォローアップでは、臨床症状(末梢神経障害、失調、筋力低下、網膜症、溶血性貧血)や脂質プロファイルも合わせて評価し、脂溶性ビタミンA・Kとのバランスに配慮します。

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