血中ドコサヘキサエン酸(DHA)濃度
目次
定義と基本概念
血中ドコサヘキサエン酸(DHA)濃度とは、ヒトの血液中に存在するオメガ3系多価不飽和脂肪酸の一つであるDHAの量を示す指標です。測定は全血、血漿、血清、または赤血球膜中の脂肪酸組成として行われ、単位は百分率や質量濃度が用いられます。
DHAは22個の炭素と6つの二重結合を持つ長鎖脂肪酸で、細胞膜の流動性と機能に影響します。特に脳、網膜、心筋に多く存在し、神経伝達、視覚機能、心リズム安定化などに関与します。
血中濃度は最近の摂取状況や体内代謝、遺伝的背景の影響を受けます。血漿は数日単位、赤血球は数週間から数ヶ月単位の摂取反映指標として知られ、評価目的に応じて測定部位が選ばれます。
臨床や研究では、DHA単独の割合に加え、EPAと合わせた総オメガ3指標(Omega-3 Index)が用いられることがあります。これは心血管リスク評価に応用され、目標範囲の提案も存在します。
参考文献
測定法と理論
一般的な定量法は、脂肪酸をメチルエステル化した後にガスクロマトグラフィー(GC-FID)で分離・検出する方法です。内標準物質を用いて定量し、結果は総脂肪酸に占める割合または濃度で報告されます。
赤血球膜脂肪酸は膜リン脂質に富み、長期の摂取や恒常的な代謝状態を反映します。一方、血漿は食事に敏感で短期変動が大きく、最近の摂取評価に適します。
質量分析(GC-MSやLC-MS/MS)を併用すると、同定の確度が上がり、酸化代謝産物(DHA由来のレゾルビンやプロテクチン)などの解析も可能です。
迅速法や指先採血を用いた郵送検査も普及しつつありますが、前処理の回収率、酸化防止、標準化など品質管理の徹底が正確性に不可欠です。
参考文献
- Lepage & Roy, Direct transesterification of all classes of lipids
- Hodson et al., Fatty acid composition of human blood fractions
生理的役割
DHAはニューロンやシナプス膜の主要構成脂質で、受容体の配置、膜タンパク質の機能、シナプス可塑性に影響します。胎児・乳児期の脳や視覚の発達に不可欠で、母体から胎児への移行が生理的に促進されます。
心血管系では不整脈抑制、心筋膜の安定化、抗炎症作用、トリグリセリド低下などが示唆されています。エイコサノイドやスペシャライズドメディエーターを介した炎症収束も注目されています。
網膜の視細胞外節はDHAが非常に豊富で、視機能の維持に寄与します。不足は視覚応答や認知機能の低下と関連する可能性が報告されています。
遺伝子発現制御にも関与し、PPARやSREBP経路を通じて脂質代謝関連遺伝子に影響します。これらの作用は血中濃度や膜組成の変化として現れます。
参考文献
変動要因
食事からの摂取(魚・魚油・藻類油)が最大の要因で、摂取量と血中DHAには用量反応関係が認められます。継続摂取により赤血球DHAは数週間から数ヶ月で上昇します。
遺伝的要因として、FADSやELOVL2などの脂肪酸合成・伸長関連遺伝子の多型が血中DHAに影響します。双生児研究やGWASから中等度の遺伝率が示されます。
年齢、性別、喫煙、肥満、糖代謝、炎症状態、薬物(例:スタチン、フィブラート)なども濃度に影響することがあります。
妊娠・授乳期は母体DHAが胎児・乳児へ移行するため、母体側の指標は低下傾向を示すことがあり、栄養管理が推奨されます。
参考文献
- Lemaitre et al., Genetic loci for long-chain PUFA
- Wojczynski et al., Heritability of plasma fatty acids
臨床応用と解釈
心血管リスク評価では、赤血球EPA+DHAの合算(Omega-3 Index)が8%以上で低リスク、4%未満で高リスクと提案されます。DHA単独も生体膜機能の指標として有用です。
妊娠期や小児発達において、母体および乳児のDHA状態を把握することは、栄養指導やサプリメンテーションの判断材料になります。
うつ症状、認知機能、加齢黄斑変性などとの関連が研究されていますが、因果関係や介入効果の大きさには領域差があり、解釈には文脈依存性が伴います。
測定法、検体、単位、基準範囲は施設で異なるため、同一法での経時比較と臨床背景の総合判断が推奨されます。
参考文献

