血中トリグリセリド濃度
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概要
血中トリグリセリド(中性脂肪)は、食事由来の脂質や肝臓で合成された脂質が、キロミクロンやVLDLといったリポ蛋白に搭載されて血液中を運ばれる形態です。エネルギー源として重要で、空腹時と食後で値が変動します。動脈硬化性心血管疾患のリスク指標であると同時に、著明高値では急性膵炎の原因になり得ます。
臨床現場では脂質プロファイルの一部として、総コレステロール、LDL-C、HDL-Cとともに測定されます。多くの施設では酵素比色法により定量され、非空腹時測定も一般化しつつあります。結果解釈においては、二次性の原因(飲酒、糖尿病、甲状腺機能低下症、薬剤など)に注意が必要です。
疫学的には、トリグリセリドが高いほど心血管イベントの発生率が高まることが示されています。特にトリグリセリドリッチリポ蛋白(TRL)残余やアポB含有粒子の負荷が、アテローム形成に寄与すると考えられています。残余コレステロールやnon-HDLコレステロールはリスク把握に有用です。
ガイドラインでは、空腹時トリグリセリド150 mg/dL未満を目標とし、150–499 mg/dLを高トリグリセリド血症、500 mg/dL以上を著明高値として膵炎予防を優先する対応が推奨されます。生活習慣是正が基盤であり、必要に応じて薬物療法が併用されます。
参考文献
- AHA Scientific Statement: Triglycerides and Cardiovascular Disease (2021)
- MedlinePlus: Triglycerides
- 日本動脈硬化学会 動脈硬化性疾患予防ガイドライン
遺伝と環境
トリグリセリド濃度の個人差は、遺伝と環境の双方により規定されます。双生児・家系研究のメタ解析では、トリグリセリドの遺伝率は概ね40〜60%と推定され、残りは食事、体重、運動、飲酒などの環境要因や年齢・性別の影響と解釈されます。
ゲノムワイド関連解析(GWAS)により、APOA5、LPL、ANGPTL3/4、GPIHBP1など多くの座位がトリグリセリド値と関連することが示されました。これらはリポ蛋白代謝の鍵分子で、TRLの生成・分解や末梢での脂肪酸取り込みを調節します。
一方、家族性カイロミクロン血症のような稀な単一遺伝子異常では、極端な高トリグリセリド血症と反復性膵炎がみられます。多くの人では多数の軽微なバリアントの相加的効果(ポリジェニック)が背景にあり、環境因子が上乗せされて表現型が決まります。
実際の臨床では、遺伝的素因を前提に、食事(特に精製炭水化物・砂糖・アルコール)、エネルギー収支、体脂肪分布、インスリン抵抗性、薬剤(エストロゲン、ステロイド、レチノイド、プロテアーゼ阻害薬など)を丁寧に評価することが改善への近道となります。
参考文献
- Meta-analysis of the heritability of human traits (Polderman et al., 2015)
- Discovery and refinement of loci associated with lipid levels (GLGC, 2013)
- AHA Scientific Statement 2021
測定と解釈
臨床検査では、リパーゼでトリグリセリドをグリセロールと脂肪酸に加水分解し、グリセロールを酵素反応で色素に変換して吸光度を測定する酵素比色法(GPO-PAP法など)が用いられます。遊離グリセロール補正を行う試薬もあります。
空腹時測定は食後高脂血症の影響を避ける利点がありますが、近年は非空腹時でも臨床判断に十分有用とされます。非空腹時の基準値はやや高めに設定されることがあります。検体溶血や高度リポ血清は干渉要因となるため注意が必要です。
結果の解釈では、心血管リスクの観点だけでなく、膵炎リスクのしきい値(特に500 mg/dL以上)を意識します。併存症(糖尿病、CKD、甲状腺機能低下症)や薬剤歴、飲酒習慣をスクリーニングし、原因に応じて対策を講じます。
単位換算は、mg/dL ÷ 88.57 = mmol/Lです。トリグリセリドは日内・日差変動があるため、異常値が出た場合は別日に再検し、平均的な水準を把握することが望ましいです。
参考文献
- Lab Tests Online: Triglycerides
- ESC/EAS consensus: Fasting is not routinely required for lipid profile (2016)
- AHA: What Are Triglycerides?
生物学的役割
トリグリセリドは生体の主要なエネルギー貯蔵形態で、脂肪組織に蓄えられ、必要時に脂肪酸として動員されます。食後はカイロミクロンで、空腹時は肝臓由来のVLDLで全身へ配送され、毛細血管内皮のリポ蛋白リパーゼにより加水分解されます。
生成した脂肪酸は筋や脂肪組織で取り込まれ、エネルギー産生や再エステル化に利用されます。代謝残余であるレムナント粒子は小型化し、動脈壁に沈着しやすく、アテローム形成に寄与します。
インスリンはVLDL産生と末梢での脂肪酸取り込みを調節し、インスリン抵抗性ではトリグリセリド上昇とHDL低下が同時に起こりやすく、メタボリックシンドロームの一部として認識されます。
近年、トリグリセリドリッチリポ蛋白自体とその残余コレステロールが、LDLとは独立に動脈硬化の因果的因子である可能性が示され、リスク層別化・治療標的としての重要性が再評価されています。
参考文献
- Triglyceride-Rich Lipoproteins and Remnant Cholesterol in Atherosclerosis (JACC 2014)
- StatPearls: Physiology, Triglyceride
- AHA Scientific Statement 2021
管理と治療
治療の基盤は生活習慣の見直しです。体重の5〜10%減量、糖質(特に精製炭水化物・砂糖)の制限、アルコール節制、飽和脂肪酸から不飽和脂肪酸への置換、習慣的な有酸素運動・レジスタンス運動が推奨されます。
薬物療法では、心血管一次・二次予防の観点からスタチンが第一選択となることが多く、中等度のトリグリセリド低下効果もあります。膵炎リスクが高い著明高値では、フィブラートや高用量オメガ3脂肪酸、必要に応じてニコチン酸が検討されます。
糖尿病や甲状腺機能低下症、腎疾患の是正、トリグリセリド上昇に関与する薬剤の見直しが不可欠です。家族性カイロミクロン血症では極低脂肪食が基本で、専門医療機関での管理が必要です。
近年、EPA製剤(イコサペント酸エチル)の高用量が、スタチン治療下での残余リスク低減に有用であることが示されました。患者のリスクプロファイルに応じて個別化した介入を行います。
参考文献

