血中シスタチンC
目次
定義と基本的な性質
シスタチンCは、ヒトを含む哺乳類の全ての有核細胞で恒常的に産生される低分子量(約13kDa)のシステインプロテアーゼ阻害タンパク質です。血中を循環し、腎糸球体で自由に濾過され、近位尿細管でほぼ完全に再吸収・分解されるため、尿中へはほとんど排泄されません。
この特性から、血中シスタチンC濃度は腎臓の糸球体濾過量(GFR)を反映し、濃度が上がるほど実質的なGFRは低下していると解釈されます。筋肉量、年齢、性別の影響を比較的受けにくく、クレアチニンの欠点を補う指標として臨床で広く利用されています。
分子学的にはCST3遺伝子にコードされ、蛋白分解酵素であるカテプシン群の活性を抑制することで、細胞外マトリックスの恒常性維持や炎症反応の調整にも関与すると考えられています。腎機能マーカーであると同時に、生理的役割を持つ機能タンパクでもあります。
測定単位は通常mg/Lで、免疫比濁法や免疫散乱法などの免疫学的定量法により測定されます。国際的にはIFCCの参照物質(ERM‑DA471/IFCC)により標準化が進み、施設間・試薬間での整合性が向上しています。
参考文献
臨床的意義と利点
血中シスタチンCは、クレアチニンに比べ筋肉量や食事の影響が小さく、特に高齢者、低栄養、サルコペニア、四肢切断患者などで真の腎機能をより正確に反映しやすいとされています。これにより、過小評価されがちな腎機能低下を早期に捉えることが可能となります。
CKDの診断と重症度分類では、クレアチニンベースのeGFRに加えてシスタチンCを用いたeGFR(eGFRcys)、あるいは両者を組み合わせた式(CKD‑EPI 2012/2021)による確認が推奨される状況があります。特にeGFRcr 45–59 mL/min/1.73m²で他の腎障害所見が乏しい場合、シスタチンCでの確認は再分類精度を高めます。
シスタチンCは慢性腎臓病のみならず、心血管イベントや全死亡のリスクとも関連することが報告されており、腎外の予後予測にも一定の有用性を示します。腎機能低下の病態生理が全身の血管・代謝に波及する背景が示唆されています。
急性腎障害(AKI)の場面でも、クレアチニンに先行して上昇する可能性があるとする報告があり、重症患者の早期リスク層別化ツールとしての研究が進んでいます。ただし、実臨床への広範な実装には、測定体制やカットオフの最適化など更なる検証が必要です。
参考文献
- KDIGO 2024 Clinical Practice Guideline for the Evaluation and Management of CKD
- Inker et al., NEJM 2012: Estimating GFR from Serum Creatinine and Cystatin C
測定法と標準化
現在広く使われる測定法は、粒子強化免疫比濁法(PETIA)と粒子強化免疫散乱法(PENIA)です。いずれもシスタチンCに対する特異抗体を用い、抗原抗体反応に伴う濁度や散乱光の変化量を光学的に検出して濃度を求めます。
測定系の違いやキャリブレーターの差は、同一検体でも結果のばらつきを生む可能性があります。そのためIFCCが参照物質ERM‑DA471/IFCCを整備し、各メーカーの試薬を国際標準にトレーサブルに校正する取り組みが行われてきました。
標準化の進展により、eGFR推算式の妥当性も向上しました。特にCKD‑EPIのシスタチンC単独式や併用式は、標準化済みアッセイを前提に構築・検証されており、施設間比較や経時的追跡に適しています。
一部研究ではLC‑MS/MSなどの質量分析を用いた参照測定法の検討もありますが、ルーチン検査としてはコストとスループットの面で免疫学的方法が主流です。検査室は内部精度管理と外部精度評価を通じて測定の信頼性を担保します。
参考文献
- IFCC WG Cystatin C: Standardization resources
- Grubb et al., CCLM 2010: Standardization of cystatin C immunoassays
解釈と参考範囲
血中シスタチンCは高値ほど腎糸球体濾過能の低下を示唆しますが、具体的な腎機能の評価にはeGFR推算式で換算することが推奨されます。単位はmg/Lで報告され、通常0.6–1.0 mg/L程度が成人の参考範囲として用いられることが多いです。
ただし参考範囲は測定法や施設により異なり、年齢や背景の影響も受けるため、検査報告書に記載された施設固有の範囲に従うことが重要です。小児や妊娠中など特殊集団では別の基準が必要になることがあります。
解釈の際には、甲状腺機能異常、全身炎症、喫煙、糖質コルチコイド投与など腎機能と無関係にシスタチンCに影響し得る因子を考慮します。これらは偽の高値や低値をもたらす可能性があります。
臨床的には、eGFRcysとeGFRcrの差異が大きい場合、体組成や薬剤、検体の問題を点検し、必要に応じて併用式で再評価するか、一定期間後に再検することが望まれます。
参考文献
影響因子と遺伝
血中シスタチンCには環境・生理要因の影響が存在します。甲状腺機能亢進や炎症、喫煙、肥満、ステロイド治療などで上昇しうる一方、体液量や食事の短期的影響はクレアチニンに比べ小さいとされます。これらは解釈時の重要な交絡となります。
遺伝学的にはCST3を含む複数遺伝子座が血中シスタチンCやeGFRcysに関連すると報告されています。大規模GWASでは腎機能関連形質のSNP遺伝率が一部で10–20%程度と推定され、遺伝要因の関与が示唆されています。
双生児研究などから、総遺伝率は概ね40–60%と見積もる報告もあり、残余は生活習慣や併存疾患など環境要因に起因すると考えられます。ただし集団や解析法により推定値は変動する点に留意が必要です。
臨床上は、遺伝背景を個別に測定せずとも、シスタチンCの測定結果そのものを適切な文脈で解釈し、必要時に反復測定や他指標との併用で判断の信頼性を高めることが重要です。
参考文献

