血中グルコース
目次
定義と基礎
血中グルコースとは、血液中に溶けて存在するブドウ糖のことで、ヒトの主要なエネルギー源です。食事由来の炭水化物が消化管で単糖に分解され、小腸から吸収されて門脈を通じ肝臓へ運ばれます。肝臓はグルコースを貯蔵(グリコーゲン化)したり、必要に応じて放出したりして、全身の臓器へ供給します。
空腹時や食後などの状態によって血中グルコース濃度は動的に変動します。この恒常性は主にインスリンとグルカゴンといったホルモンにより精密に調節されます。インスリンは血糖を細胞内へ取り込ませ、グルカゴンは肝臓からの放出や新生を促して濃度を維持します。
臨床では血中グルコースは主にプラズマ(血漿)中の濃度で表され、単位はmg/dLまたはmmol/Lが用いられます。日常の検査や自己測定、連続測定(CGM)など様々な方法が存在し、それぞれに特性や測定精度の規格があります。
血中グルコース値は糖尿病の診断と管理に不可欠であるだけでなく、低血糖や重症敗血症、内分泌疾患、栄養状態の評価など多くの臨床状況で重要なバイオマーカーです。適切な前処理と測定法の理解が結果の信頼性を左右します。
参考文献
- ADA Standards of Care in Diabetes—2024: Classification and Diagnosis
- WHO Definition and diagnosis of diabetes mellitus and intermediate hyperglycaemia (2006)
- MedlinePlus: Glucose Test
調節機構と生理
血糖調節は膵島β細胞から分泌されるインスリンと、α細胞から分泌されるグルカゴンの拮抗作用で成り立ちます。食後はインスリンが上昇して筋・脂肪組織への取り込みと肝臓でのグリコーゲン合成を促し、空腹時はグルカゴンが上昇して肝糖放出と糖新生を促進します。
副腎ホルモン(アドレナリン、コルチゾール)や成長ホルモン、甲状腺ホルモンなどのカウンターホルモンも血糖を上げる方向に作用し、低血糖時の防御反応に重要です。これらのホルモンの異常は顕著な血糖変動を引き起こします。
脳は通常、グルコースを主な燃料とし、血糖の急激な低下に敏感です。赤血球もミトコンドリアを持たないためグルコース解糖に依存します。長期の高血糖はタンパクの非酵素的糖化や酸化ストレスを介して組織障害を引き起こします。
腸管での吸収はSGLT1、腎臓での再吸収はSGLT2などのトランスポーターが担い、これらは薬理学的標的にもなっています。生理の理解は治療の選択と副作用の予測に直結します。
参考文献
- Guyton and Hall Textbook of Medical Physiology (reference overview)
- NIDDK: Insulin Resistance and Prediabetes
測定法と理論
臨床検査室での基準法はヘキソキナーゼ法で、グルコースをATP存在下でG6Pへリン酸化し、G6PD反応で生じるNADPHを340nmで測定します。特異性と直線性に優れ、標準化の主力です。
グルコースオキシダーゼ法はグルコースと酸素からグルコン酸と過酸化水素を生じさせ、発色反応や電極で検出します。簡便で自動分析装置や自己測定機で広く用いられますが、酸素分圧や干渉物質の影響を受け得ます。
自己測定器ではGDH-PQQ法など脱水素酵素法も用いられ、乳糖やマルトース等の還元糖で偽高値を示しうる機種があるため注意が必要です。ISO 15197は精度要件を規定し、校正や操作の遵守が重要です。
検体前処理ではグリコリシスによる見かけの低下を防ぐため、採血後速やかな遠心やフッ化ナトリウム添加、冷却が推奨されます。全血と血漿、静脈と毛細血の違いも解釈に影響します。
参考文献
- Sacks DB et al. Guidelines for laboratory analysis in diabetes (Diabetes Care 2011)
- ISO 15197 In vitro diagnostic test systems—requirements for blood-glucose monitoring systems
- ARUP Consult: Glucose, Plasma/Serum
臨床的意義と解釈
糖尿病の診断基準には空腹時血糖、経口ブドウ糖負荷試験(OGTT)2時間値、随時血糖、HbA1cが用いられます。いずれかが診断閾値を超え、別日に再検で確認することが一般的です。症状を伴う高血糖は即時の対応が必要です。
空腹時70–99mg/dLが一般的な基準範囲で、100–125mg/dLは境界域(前糖尿病)を示唆し、126mg/dL以上で糖尿病が疑われます。OGTT2時間値140–199mg/dLは耐糖能異常、200mg/dL以上で糖尿病域です。
低血糖は通常70mg/dL未満で認識され、54mg/dL未満は臨床的に重要な閾値とされます。症候性低血糖では速効性糖質の補給が推奨され、意識障害時は救急要請が必要です。
慢性的な高血糖は心血管疾患、腎症、網膜症、神経障害のリスクを高めるため、生活習慣と薬物療法を組み合わせた厳密な管理が推奨されます。検査値だけでなく文脈と再現性が重要です。
参考文献
遺伝と環境
血中グルコースや糖尿病関連形質の遺伝率は複数の双生児・家族研究で中等度と推定され、研究により30–50%程度と報告されています。残りは環境要因や遺伝子×環境相互作用が占めます。
GWASで同定された多型は個々の効果量が小さく、説明される分散は限定的です。生活習慣(食事、運動、睡眠、ストレス)や薬剤、加齢、妊娠などが血糖に顕著な影響を及ぼします。
家族歴を有する人も、体重管理や身体活動の増加、バランスのよい食事によりリスクを大幅に減らせることが示されています。環境介入の効果は遺伝的バックグラウンドにかかわらず再現性があります。
したがって「遺伝●割・環境●割」と単純化するより、個人差と相互作用を前提に、モニタリングと生活改善を組み合わせる戦略が現実的です。
参考文献

