血中クレアチンキナーゼ濃度
目次
概要
クレアチンキナーゼ(CK)は、骨格筋や心筋、脳などに多く存在するエネルギー代謝酵素で、ATPとクレアチンリン酸の間でリン酸基を受け渡す反応を触媒します。血中CK濃度は通常低値に保たれていますが、筋細胞が傷つくと細胞外へ漏出し上昇します。CKはMM(骨格筋主体)、MB(心筋主体)、BB(脳や内臓)などのアイソ酵素に分かれます。
臨床では、かつて心筋梗塞のマーカーとしてCK-MBが頻用されましたが、現在は高感度トロポニンが第一選択になっています。一方、全CK(CK総活性)は横紋筋融解症や炎症性筋疾患、甲状腺機能低下症、薬剤性筋障害(例:スタチン)などのスクリーニングに広く用いられます。
血中CKは、年齢・性別・人種・筋肉量・運動習慣・採血時期・検査法の差で大きく変動します。そのため、解釈では各検査室の基準範囲と個人背景の考慮が不可欠です。特に激しい運動後24〜72時間は一過性に著明上昇することがあります。
また、稀にマクロCK(免疫複合体などの高分子体)により持続的高値を示すことがあり、臨床症状に乏しい不一致を見た際はアイソ酵素分析やマクロCKの鑑別が有用です。CKは腎排泄により体内から除去されますが、腎機能低下自体はCK上昇の主因ではなく、むしろ横紋筋融解に伴う腎障害のリスク評価が重要です。
参考文献
臨床的意義
CK上昇は、筋損傷の「量」を概ね反映します。日常の筋肉痛や軽度の運動でも軽〜中等度上昇がみられますが、CKが基準上限の5〜10倍を超える場合は横紋筋融解症を疑い、腎障害や電解質異常(高カリウム血症)を念頭に迅速な評価が求められます。
炎症性筋疾患(多発筋炎、皮膚筋炎、免疫介在性壊死性ミオパチー)ではCK高値が持続し、筋力低下や筋痛、嚥下障害などの症状を伴います。自己抗体検査、筋MRI、筋電図、時に筋生検が診断に寄与します。治療によりCKは改善指標となりますが、症状との乘離に注意が必要です。
薬剤性では、スタチンやフィブラート、抗精神病薬、抗HIV薬などがCK上昇を起こし得ます。スタチンでは無症候性の軽度上昇が一般的ですが、筋症状を伴うCK著増や壊死性ミオパチーは中止・切替と精査が必要です。
心筋梗塞ではCK-MBが過去に利用されましたが、現在は高感度トロポニンが感度・特異度ともに優れます。とはいえ、筋疾患の鑑別、運動関連の安全管理、救急での横紋筋融解症評価など、CKは今なお重要な検査項目です。
参考文献
測定法と理論
臨床検査では、国際臨床化学連合(IFCC)標準法に準拠した酵素活性測定が一般的です。CKがクレアチンリン酸+ADPからクレアチン+ATPを生じる反応を起点に、補助反応としてヘキソキナーゼ(HK)とグルコース-6-リン酸デヒドロゲナーゼ(G6PD)を用い、NADPHの生成速度(340nm吸光)を追跡します。
具体的には、生成したATPがHK反応でグルコースをリン酸化し、続くG6PD反応でNADP+がNADPHへ還元されます。NADPHの吸光度上昇はCK活性に比例するため、単位時間あたりの吸光度変化から活性(U/L)を算出します。反応温度は37℃、pHや補酵素濃度は規定されています。
アイソ酵素の識別には、免疫阻害法や電気泳動、質量分析(CK-MB質量測定)などが用いられます。マクロCKの存在が疑われる場合は、ポリエチレングリコール沈殿やゲル濾過などの手法で確認します。
測定結果は溶血や採血から測定までの時間、試薬ロット、機器校正、体温などの影響を受けます。したがって、縦断的フォローでは同一検査室・同一法での比較が推奨されます。
参考文献
- IFCC reference procedure for creatine kinase at 37 °C (Schumann et al., 2002)
- Mayo Clinic Laboratories: CK, Total, Serum
解釈と基準範囲
CKの基準範囲は検査法・施設により差があります。成人では概ね男性が高めで、女性は低めです。人種による差も知られ、アフリカ系集団では基準上限が高い報告があります。解釈の際は、施設が提示する参照範囲と背景要因(筋肉量、運動、薬剤、甲状腺機能など)を合わせて判断します。
一般的に、軽度上昇(基準上限の1〜5倍)は運動や筋注、軽微な筋症状で説明できることが多いです。中等度(5〜10倍)では横紋筋融解の初期や炎症性筋疾患、薬剤性などを疑います。高度(>10倍)は緊急対応が必要で、脱水補正や腎保護、電解質管理を行いながら原因精査を進めます。
運動に関連するCK上昇は、遅れてピークに達し(24〜72時間)、安静で速やかに低下します。症状や他の検査(ミオグロビン、クレアチニン、K、AST/ALT、尿所見)を組み合わせると、臨床的意義が明瞭になります。
なお、基準範囲の具体値は施設依存ですが、例としてMayo Clinic Laboratoriesでは成人男性39–308 U/L、成人女性26–192 U/L(37℃法)と提示されています。
参考文献
高値時の対応と留意点
CK高値が見つかったら、まず症状(筋痛、筋力低下、茶褐色尿)、誘因(激しい運動、けいれん、外傷、熱中症、感染、薬剤・サプリ)とタイミングを確認し、必要に応じて再検(48〜72時間の安静後)します。持続高値や症状を伴う場合は追加検査(電解質、腎機能、尿検査、甲状腺機能、自己抗体など)を行います。
CKが著増し腎障害のリスクがあると判断すれば、早期の輸液、電解質管理、尿量確保を行い、重症例では集中治療の検討が必要です。スタチン関連疑いなら中止・切替を検討し、免疫介在性が疑われる場合は専門医に相談します。
無症候性の軽度高値では、運動や筋注、飲酒、採血条件の影響が多く、経過観察や生活調整で改善することが少なくありません。マクロCKが疑われる場合はアイソ酵素解析で過大評価を避けます。
低値は通常問題となりませんが、進行した筋萎縮や活動性低下、妊娠後期などで観察されることがあります。いずれも臨床的背景と総合的に評価することが重要です。
参考文献

