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血中カルシウム濃度

目次

用語の定義と全体像

血中カルシウム濃度とは、血液中に含まれるカルシウムの量を指し、一般的には総カルシウム(血清中でタンパクに結合した分画と、自由に存在するイオン化カルシウムの合計)として報告されます。単位はmg/dLまたはmmol/Lで表され、臨床では8.6〜10.2 mg/dL程度が成人の基準範囲とされます。カルシウムは体内で骨・歯の主要構成成分であり、同時に細胞内外のシグナル分子でもあります。

血中では約40%がアルブミンなどのタンパクに結合し、約10%がリン酸やクエン酸などと複合体を形成し、残り約50%が生理活性をもつイオン化カルシウム(iCa)として存在します。イオン化カルシウムは神経伝達、筋収縮、血液凝固といった生命維持に直結する機能を担うため、臨床的に特に重要です。

カルシウム濃度は、骨、腎臓、消化管の相互作用と、副甲状腺ホルモン(PTH)・活性型ビタミンD(カルシトリオール)・カルシトニンなどのホルモンにより厳密に調節されています。これらの調節機構により、食事摂取や短期的な変化があっても、血中濃度は狭い範囲に保たれます。

臨床検査では総カルシウムとイオン化カルシウムのどちらも測定可能ですが、酸塩基平衡やアルブミンの影響を受けにくいのはイオン化カルシウムです。一方で、総カルシウムは採血や保管が容易で、多くの場面でスクリーニング的に利用されます。

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生理的役割と重要性

カルシウムは骨格のミネラル化に不可欠で、体内カルシウムの99%以上が骨と歯に貯蔵されています。残りの微量が血液や細胞外液、細胞内小器官に分布し、そこでは酵素活性の調節や遺伝子発現の制御など多岐にわたる役割を担います。

神経筋接合部では、カルシウムは神経末端からの神経伝達物質放出を誘導し、筋細胞内ではカルシウム濃度の上昇がアクチンとミオシンの相互作用を促進して収縮を生み出します。この微細な濃度変化は厳格に制御され、異常は痙攣や筋力低下の原因になります。

血液凝固系においてもカルシウムは補因子として不可欠で、複数の凝固因子の活性化に関与します。したがって重度の低カルシウム血症は出血傾向を助長し得ます。また内分泌系では、ホルモン分泌や受容体シグナル伝達のステップにカルシウムが深く関与しています。

このような重要性のため、体は血中カルシウム濃度を狭い範囲に保とうとします。急性変動は心筋の電気的安定性にも影響し、不整脈やQT時間の変化を引き起こしうるため、集中治療や救急の現場ではイオン化カルシウムの迅速測定が重視されます。

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調節機構(PTH・ビタミンD・カルシトニン)

副甲状腺ホルモン(PTH)は血中カルシウム低下を感知して分泌が増え、骨からのカルシウム動員、腎臓での再吸収促進、腎での活性型ビタミンD産生促進を通じて濃度を回復させます。PTH分泌はカルシウム受容体(CaSR)により厳格に感知されます。

活性型ビタミンD(1,25-ジヒドロキシビタミンD)は小腸でのカルシウム吸収を増やし、骨や腎にも作用します。ビタミンD欠乏や慢性腎臓病では活性化が障害され、低カルシウム血症や二次性副甲状腺機能亢進を引き起こします。

カルシトニンは甲状腺のC細胞から分泌され、高カルシウム時に骨吸収を抑制します。ただしヒトではPTHやビタミンDに比べ役割は限定的と考えられています。一方、マグネシウムはPTH分泌や作用に必要で、低マグネシウム血症は低カルシウム血症を悪化させます。

CaSRの遺伝子変異は家族性低カルシウム尿性高カルシウム血症(FHH)や常染色体優性低カルシウム血症(ADH)などの遺伝性疾患を引き起こし、基準範囲の設定や解釈に影響します。これらは遺伝的調節の重要性を示す代表例です。

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臨床的意義と測定の活用

血中カルシウムは、多くの健康診断パネルや入院時検査に含まれ、骨代謝異常、副甲状腺疾患、腎疾患、栄養状態、がん関連高カルシウム血症のスクリーニングに活用されます。異常は無症候でも重大な疾患のサインとなり得ます。

症状としては、高カルシウム血症では口渇・多尿・便秘・倦怠感・精神症状・不整脈など、低カルシウム血症ではしびれ・筋痙攣・テタニー・痙攣・QT延長などが挙げられます。重症例では救急対応が必要です。

総カルシウムはアルブミンの影響を受けるため、低アルブミン血症では見かけ上低値となることがあります。アルブミン補正計算式や、イオン化カルシウムの直接測定が解釈に有用です。酸塩基平衡の変化、特にアルカローシスはイオン化カルシウムを低下させ症状を誘発します。

臨床では、異常の程度、PTH・ビタミンD・腎機能・尿中カルシウムなどの追加検査を組み合わせ、原因を鑑別します。薬剤歴(チアジド、リチウム、ビタミンD製剤など)や癌の有無も重要な手掛かりです。

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異常値の原因と代表的疾患

高カルシウム血症の主因は原発性副甲状腺機能亢進症と悪性腫瘍関連高カルシウム血症です。前者はPTH過剰、後者は腫瘍由来PTHrPや骨転移に伴う骨吸収亢進が関与します。ビタミンD中毒、肉芽腫性疾患、甲状腺機能亢進、サルコイドーシス、薬剤(チアジド、リチウム)なども原因です。

低カルシウム血症は低PTH(術後副甲状腺機能低下、自己免疫)やPTH抵抗性、ビタミンD欠乏・吸収障害、慢性腎臓病、低マグネシウム血症、急性膵炎、敗血症、輸血に伴うクエン酸負荷など多彩な原因で生じます。臨床像は原因と重症度により大きく異なります。

家族性低カルシウム尿性高カルシウム血症(FHH)や常染色体優性低カルシウム症(ADH)など、CaSR関連の遺伝性疾患では、血中カルシウム値の設定点が変化し、通常の解釈が当てはまらないことがあります。これらでは尿中カルシウム排泄や家族歴の確認が重要です。

重症の高カルシウム血症では意識障害、腎機能悪化、致死的不整脈に至ることがあり、低カルシウム血症では喉頭痙攣やけいれんなどの救急事態が起こり得ます。迅速な評価と治療が予後に直結します。

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測定法と測定上の注意

総カルシウムは比色法(o-クレゾールフタレイン・コンプレクソン法やアルセナゾIII法)で測定され、標準化が進んでいるため多くの臨床検査室で利用されています。イオン化カルシウムはイオン選択性電極(ISE)により直接測定され、酸塩基やアルブミンの影響を受けにくい利点があります。

イオン化カルシウム測定では、採血時の空気混入でCO2が逸散しpHが上昇すると、測定値が見かけ上低下するため、ヘパリン化全血を用い、速やかに気泡を除き密閉・迅速測定するなどの前分析的管理が重要です。

総カルシウムの解釈ではアルブミン濃度の影響を考慮し、補正式(例:補正Ca=実測Ca+0.8×{4.0-アルブミン[g/dL]})が暫定的に用いられますが、必ずしも全例で正確ではないため、臨床状況に応じてイオン化カルシウムの測定が推奨されます。

各検査室の基準範囲や試薬・機器の違いにより参照値に差があるため、報告書の参照範囲を確認することが重要です。妊娠中はアルブミン低下により総カルシウムが低めに出ますが、イオン化カルシウムは概ね保たれます。

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