血中オレイン酸濃度
目次
- 血中オレイン酸濃度の概要
- 血中オレイン酸濃度の遺伝的要因と環境的要因の比率(%)
- 血中オレイン酸濃度を調べる意味
- 血中オレイン酸濃度の数値の解釈
- 血中オレイン酸濃度の正常値の範囲
- 血中オレイン酸濃度が異常値の場合の対処
- 血中オレイン酸濃度を定量する方法とその理論
- 血中オレイン酸濃度のヒトにおける生物学的な役割
- 血中オレイン酸濃度に関するその他の知識
血中オレイン酸濃度の概要
オレイン酸(C18
n-9)は代表的な一価不飽和脂肪酸で、オリーブ油や菜種油、ナッツ、豚肉などに多く含まれます。ヒトの体内ではステアリン酸(C18)からステアロイルCoAデサチュラーゼ1(SCD1)により内因性にも合成され、食事由来と内因性合成の双方が血中濃度に寄与します。血中オレイン酸濃度は、血清・血漿の総脂質、トリグリセリド(TG)、リン脂質、コレステロールエステルなどの分画、または赤血球膜(RBC)など測定対象によって値の解釈が異なります。短期の食事で変動しやすい分画(例:血漿TG)と、数週間の平均を反映するRBCなど時間窓が違う点が重要です。
オレイン酸は膜の流動性や細胞シグナル、エネルギー代謝に関わるため、栄養疫学や代謝疾患研究で頻用されるバイオマーカーです。オメガ3系のような必須脂肪酸ではありませんが、食事パターン(地中海食など)やデサチュラーゼ活性の指標と結びつけて評価されます。
臨床的には単独で診断マーカーとするよりも、他の脂肪酸組成(飽和・多価不飽和)や比(18
/18:SCD指数)、代謝指標(インスリン抵抗性、肝脂肪)と組み合わせて健康リスクや栄養状態の推定に用いられます。参考文献
- PubChem: Oleic Acid
- FAO/WHO. Fats and fatty acids in human nutrition (2010)
- López‑Miranda et al. Role of MUFA in health (Prog Lipid Res, 2010)
血中オレイン酸濃度の遺伝的要因と環境的要因の比率(%)
オレイン酸は食事からの直接摂取に加え、SCD1により飽和脂肪酸から不飽和化されて産生されます。双生児・家系・ゲノム研究から、血中脂肪酸組成には中等度の遺伝率があることが示され、酵素活性(SCD指数)に関わる遺伝子の寄与も示唆されています。
大規模ゲノム関連研究(GWAS)は、脂肪酸組成に影響する遺伝座(例:SCD、FADSクラスターなど)を同定し、血中代謝物全般の遺伝的影響が中等度であることを示しています。ただし、オレイン酸そのものへの遺伝座の影響は人種・分画・食事状況で差異があります。
疫学データを総合すると、血中オレイン酸濃度の変動に対する遺伝的要因の寄与は概ね30〜50%、環境的要因(主に食事、体格、喫煙・飲酒、身体活動など)の寄与は50〜70%と見積もられます。個々の集団・測定分画により幅がある点に注意が必要です。
特にSCD1活性に関連する指標(18
/18)は遺伝的影響が比較的強い一方で、食事由来のMUFA摂取量や総エネルギー摂取、炭水化物過多によるデノボ脂肪酸合成など環境要因の影響も大きく、両者の相互作用が生じます。参考文献
- Shin et al. An atlas of genetic influences on human blood metabolites (Nat Genet, 2014)
- Tanaka et al. Genome-wide meta-analysis of plasma fatty acids (Nat Genet, 2009)
- Paton & Ntambi. Biochemical and physiological function of SCD1 (Prog Lipid Res, 2009)
- Vessby et al. Desaturase activities and insulin sensitivity (Diabetologia, 2002)
血中オレイン酸濃度を調べる意味
栄養疫学では、食事調査の記憶バイアスを補うために血中脂肪酸を客観的バイオマーカーとして用います。オレイン酸はオリーブ油や高オレイン酸食品の摂取の指標となり、地中海食パターンの遵守度や脂質摂取の質を推定する手がかりになります。
代謝疾患の領域では、オレイン酸比率やSCD指数がインスリン抵抗性、脂肪肝、脂質異常症と関連することが報告されています。過剰なデノボ脂肪酸合成とSCD活性亢進があると、MUFAが相対的に高値となる傾向があり、病態評価の一助となります。
循環器領域では、MUFA摂取が総合的に心血管リスクに与える影響を検討する文献が蓄積しています。血中オレイン酸は単独で予後を決定する指標ではありませんが、食事や他脂肪酸(n-3、n-6、多価不飽和)と合わせて総合的に評価されます。
研究・臨床双方で、RBCと血漿分画の使い分けにより、短期・中期の食事・代謝状態を把握できる点も利点です。例えば介入試験では、RBCの変化が食事介入の遵守を反映するアウトカムとして用いられます。
参考文献
- Estruch et al. PREDIMED trial (NEJM, 2013)
- Riserus et al. Desaturases and metabolic risk (Curr Opin Lipidol, 2010)
- Araya et al. Fatty acid composition in NAFLD (J Nutr, 2004)
血中オレイン酸濃度の数値の解釈
解釈では、測定分画(RBC、血漿総脂質、リン脂質など)と表現単位(%総脂肪酸、μmol/L、mg/L)をまず確認します。一般に%総脂肪酸は組成比を示し、分母が変動する影響を受けにくい一方、絶対濃度は代謝回転や脂質輸送の影響を受けやすくなります。
相対的高値は、MUFAの高摂取(オリーブ油など)か、SCD活性の亢進(インスリン抵抗性、過栄養)で生じることがあります。逆に相対的低値は、PUFA(n-6やn-3)の多い食事や、SCD活性低下の状況でみられることがあります。
RBCは数週間の平均を反映するため、介入前後の変化を評価するのに適します。血漿TG分画は食後の影響が大きく、前処置(空腹時採血)の遵守が不可欠です。指標としては18
/18(SCD1指数)も併せて評価すると病態理解が深まります。なお、オレイン酸単独で疾患診断はできません。他の脂肪酸プロファイル(SFA、PUFA、トランス脂肪酸)や、代謝指標(HbA1c、肝酵素、脂質プロフィール)と総合的に解釈することが重要です。
参考文献
- Paton & Ntambi. SCD1 biology (Prog Lipid Res, 2009)
- Riserus et al. Desaturases and metabolic risk (Curr Opin Lipidol, 2010)
血中オレイン酸濃度の正常値の範囲
国際的な統一基準はなく、測定方法・分画・母集団(年齢、人種、食事)で“正常範囲”は変わります。そのため、結果の解釈は実施ラボの参照区間(Reference Interval)に従うのが原則です。
例として、RBCの総脂肪酸に占めるオレイン酸の割合は健康成人で概ね11〜17%の範囲に収まるとの報告が多く、血漿リン脂質ではおよそ8〜15%、血清総脂質では10〜30%程度と報告されています(母集団により差異)。
標準物質(NIST SRM 2378など)や大規模コホートの報告値は、ラボ間差を補正し品質管理に利用されます。具体値の比較は、同一分画・同一単位・同等の前処理条件(空腹・保存条件)で行ってください。
参考範囲は時間とともに更新される可能性があり、特に高オレイン酸作物の普及や食生活の変化によって集団平均が変動しうる点にも留意が必要です。
参考文献
- NIST SRM 2378: Fatty Acids in Human Serum
- NHANES RBC fatty acids lab manual
- OmegaQuant (RBC fatty acid panel, reference information)
血中オレイン酸濃度が異常値の場合の対処
相対的高値が食事由来であれば、全体の脂肪エネルギー比と脂肪酸バランス(SFA・MUFA・PUFA)の是正を検討します。MUFA自体は有益な場合も多いですが、極端な偏りは他の必須脂肪酸不足を伴うことがあるため、n-3/n-6の適正化も重要です。
SCD指数の上昇やオレイン酸高値にインスリン抵抗性や脂肪肝が疑われる場合、体重管理、身体活動の強化、精製炭水化物の削減、総エネルギー制限、飲酒是正など生活習慣介入が推奨されます。基礎疾患の評価(甲状腺、肝機能、脂質異常)も行います。
相対的低値では、PUFA比率が高すぎる場合やエネルギー不足、吸収障害、重度炎症・悪液質が背景にある可能性があります。臨床状況に応じて栄養評価(必須脂肪酸、たんぱく質、微量栄養素)を行い、必要に応じて管理栄養士・専門医に相談します。
医療現場では、単回測定ではなく再検を行い、分画と前処置条件を統一して経時的に追跡します。生活指導は一般的な心血管一次予防ガイドライン(AHA等)を参考に個別化します。
参考文献
- AHA 2021 Dietary Guidance for CVD Prevention
- EASL–EASD–EASO Clinical Practice Guidelines for NAFLD (2016)
血中オレイン酸濃度を定量する方法とその理論
最も一般的な方法は、脂質を抽出(Folch法やBligh & Dyer法)後、脂肪酸メチルエステル(FAME)へ誘導体化し、ガスクロマトグラフィー(GC-FID/GC-MS)で分離・定量する手法です。キャピラリーカラムで炭素数と不飽和度の違いに基づき分離します。
内部標準(例:C17
)を添加し、ピーク面積比から各脂肪酸の相対・絶対量を算出します。FAME化は酸触媒(BF3-メタノール)や塩基触媒で行い、条件によりトランス異性化や酸化を避ける配慮が必要です。質量分析を用いる場合、同位体希釈法により高精度な定量が可能です。分画(リン脂質、TGなど)の前分離には固相抽出や薄層クロマトが利用されます。NIST標準物質や外部精度管理によりラボ間の比較可能性を高めます。
赤血球膜脂肪酸は膜リン脂質を加水分解後に同様のFAME化・GC分析を行い、数週間の食事・代謝状態を反映します。血漿は採血前の食事影響が大きいため、空腹時採血・標準化手順の遵守が不可欠です。
参考文献
- Folch et al. Lipid extraction method (J Biol Chem, 1957)
- Bligh & Dyer. Lipid extraction (Can J Biochem Physiol, 1959)
- NIST SRM 2378 certificate
- NHANES RBC fatty acids SOP
血中オレイン酸濃度のヒトにおける生物学的な役割
オレイン酸は生体膜の主要構成脂肪酸の一つで、膜の流動性やラフト構造に影響し、受容体・酵素活性、輸送体機能に影響を及ぼします。膜特性の変化はインスリンシグナルや炎症応答にも波及します。
エネルギー代謝ではβ酸化の基質となり、同時に脂肪滴の形成や分解、肝臓でのVLDL分泌など脂質代謝動態に関与します。SCD1によるMUFA供給は中性脂肪合成に不可欠で、SCD1欠損は脂肪肝抑制やインスリン感受性改善をもたらす動物データがあります。
オレイン酸や他の長鎖不飽和脂肪酸はGPR120/FFAR4など受容体を介して抗炎症・インスリン感受性改善シグナルを誘導することが示されています。これは食餌脂質の質が代謝に与える生理作用の一端です。
オレイン酸由来のエタノールアミドであるオレオイルエタノールアミド(OEA)は、小腸で生成され、PPARαを介して食欲抑制・体重調節に関与します。脂肪酸は単なるエネルギー源にとどまらず、シグナル分子としても機能します。
参考文献
- Hulbert. Membrane fatty acids and function (Prog Lipid Res, 2008)
- Paton & Ntambi. SCD1 function (Prog Lipid Res, 2009)
- Oh et al. GPR120 mediates anti-inflammatory effects (Cell, 2010)
- Rodríguez de Fonseca et al. OEA regulates feeding (Nature, 2001)
血中オレイン酸濃度に関するその他の知識
前分析要因として、空腹・採血後の保存温度・時間、抗凝固薬の種類、溶血、酸化防止剤の有無などが結果に影響します。長鎖不飽和脂肪酸は酸化に弱いため、低温・遮光・抗酸化剤添加が推奨されます。
RBCは食事の短期変動の影響が小さく、介入研究や疫学研究に適しますが、貧血や溶血性疾患では解釈に注意が必要です。血漿分画は食後の影響を受けやすい一方で、代謝の短期変化を捉えるメリットがあります。
食事源としては、エクストラバージンオリーブオイル、高オレイン酸菜種油・ひまわり油、アボカド、ナッツ類、豚肉などが主要供給源です。加工食品でも「高オレイン酸」品種が用いられることが増えており、集団レベルの摂取状況に影響します。
オレイン酸はトランス脂肪酸の異性体(エライジン酸)と区別して評価する必要があります。分析ではシス・トランスの分離能を持つカラム・条件を用い、異性体による生理作用の違いを見落とさないことが重要です。
参考文献

