血中エイコサペンタエン酸(EPA)濃度
目次
概要
エイコサペンタエン酸(EPA)はn-3系多価不飽和脂肪酸の一種で、主に青魚や魚油に豊富に含まれます。血中EPA濃度は、食事やサプリメント摂取、代謝、遺伝的背景の影響を受けて変動し、全身の炎症調節や心血管系の健康と関連します。測定は血漿や赤血球膜など検体により意味合いが異なり、短期・長期の摂取状況を反映する度合いが変わります。
EPAはアラキドン酸系エイコサノイドの基質競合や、解決期メディエーター(Eシリーズ・レゾルビンなど)の前駆体として機能します。これにより、血小板凝集、血管内皮機能、炎症性サイトカインの産生に影響を与えます。血中濃度の把握は、こうした生物学的作用のポテンシャルを推定する一助となります。
臨床や疫学の場では、EPA単独よりもEPA+DHAの総和(オメガ3インデックス)やEPA/アラキドン酸(AA)比なども併用されます。EPAは変動性が高い血漿中濃度と、より長期状態を反映する赤血球中割合の双方で評価され、目的に応じたマトリクス選択が推奨されます。
血中EPA濃度には標準化の課題が残っており、検査法、単位表示(重量濃度、総脂肪酸に占める割合)、採血条件などにより基準値が異なります。従って、解釈には検査室が提供する参照区間と、対象集団の食習慣を踏まえた文脈依存的な判断が不可欠です。
参考文献
- NIH Office of Dietary Supplements: Omega-3 Fatty Acids Fact Sheet
- Calder PC. Omega-3 fatty acids and inflammatory processes
遺伝・環境要因
血中EPAの個人差には遺伝と環境の双方が寄与します。FADS1/2やELOVL2など脂肪酸不飽和化・伸長化に関わる遺伝子多型は、長鎖n-3脂肪酸の体内レベルに影響することがGWASで示されています。これらの遺伝的差異は、同じ摂取量でも血中レベルが異なる一因になります。
双生児や家族研究では、赤血球や血漿の長鎖n-3脂肪酸に中等度の遺伝率が報告されており、概ね数十%の遺伝的寄与が示唆されています。ただし、脂肪酸種(EPA, DHA)や検体、集団により推定値は変動します。
一方、食事からの摂取量と頻度、魚種の選択、調理法、総エネルギーと脂質摂取のバランス、さらには生活習慣(喫煙、飲酒、身体活動)や体組成、消化吸収能などの環境的要因が大きく寄与します。
総じて、EPAのばらつきは遺伝と環境の交互作用の産物であり、遺伝的バックグラウンドに応じた個別化栄養の可能性が示されています。臨床的には、遺伝情報が無くとも食事介入で実用的な改善が得られることが多い点も重要です。
参考文献
- Tanaka T et al. Genome-wide association study of plasma polyunsaturated fatty acids
- Lemaitre RN et al. Genetic loci associated with circulating levels of very long-chain n-3 fatty acids
測定法と理論
血中EPAは、ガスクロマトグラフィー(GC)やGC-MSにより脂肪酸メチルエステル(FAME)として定量されるのが標準的です。採取した血漿や赤血球から脂質を抽出し、メチル化反応でFAME化した後、内部標準を用いて定量します。
赤血球膜脂肪酸の組成(総脂肪酸に占める割合)は120日前後の赤血球寿命を反映して、過去数カ月の摂取状態を示します。血漿中濃度はより短期の摂取や食後変動、トリグリセリドの影響を受けやすい特徴があります。
測定の標準化には、前処理の一貫性、キャリブレーション、品質管理試料の活用が不可欠です。LC-MS/MSはエイコサノイドやレゾルビンなど派生代謝物の定量に有用で、EPAの機能的側面評価に役立ちます。
結果はμg/mLなどの重量濃度、あるいは総脂肪酸に占める%で報告されます。異なる単位やマトリクス間の直接比較はできないため、同一法での縦断的追跡が推奨されます。
参考文献
- Ichihara K, Fukubayashi Y. Preparation of fatty acid methyl esters for GC
- AOAC Official Method 996.06 Fat (Total, Saturated, and Unsaturated) in Foods
解釈と臨床的意義
EPAの高低は心血管リスクや炎症の指標として補助的に使われます。特に赤血球中のEPA+DHA(オメガ3インデックス)は冠動脈疾患リスクとの関連が報告され、8〜12%が望ましい範囲と提案されています。
日本ではEPA/AA比が虚血性イベントのリスク指標として検討され、低比率がハイリスクと関連づけられています。ただし、カットオフは集団背景とエンドポイントにより異なり、単独で診断に用いるべきではありません。
EPAは抗炎症・抗血小板作用を通じて生理機能に関わる一方、高用量補充では心房細動リスクの上昇が報告された試験もあり、個別のベネフィット・リスク評価が欠かせません。
医療現場では、食事評価、脂質プロフィール、炎症マーカー、薬物療法歴などと併せて総合的に判断し、必要に応じて栄養介入や用量調整、再測定を行います。
参考文献
- Harris WS, Von Schacky C. The Omega-3 Index: a new risk factor for sudden cardiac death?
- Bhatt DL et al. REDUCE-IT trial
その他の知見
EPAはメンブレン流動性、受容体シグナリング、遺伝子発現の調節を通じ、代謝・免疫機能に作用します。SPM(レゾルビンEシリーズなど)の前駆体として炎症の収束を促進し、慢性炎症性疾患での役割が研究されています。
摂取源としてはサバ、イワシ、サンマ、サケなどの脂の多い魚が代表的で、週2回以上の魚摂取で血中レベルが上昇します。ALAからのEPA生合成は限定的で、効率は個人差が大きく一般に低いとされます。
妊娠・授乳期、老年期、慢性疾患では必要量や応答が変わることがあり、サプリメント利用時には安全性(出血傾向、相互作用)に留意します。抗凝固薬併用や高用量摂取では医療者の管理下が望まれます。
公衆衛生的には、魚摂取促進と環境汚染物質(メチル水銀など)のバランスを取りつつ、持続可能な海産資源の活用が課題です。濃縮魚油や藻由来EPAなど代替ソースの技術開発も進んでいます。
参考文献

