血中アラニンアミノトランスフェラーゼ活性
目次
定義と基礎
アラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT、旧称GPT)は、アミノ酸アラニンとα-ケトグルタル酸の間でアミノ基転移反応を担う酵素で、主に肝細胞の細胞質に存在します。血中ALT活性は、肝細胞が障害を受けて細胞内容物が血中に漏れ出た際に上昇するため、肝細胞障害の敏感なマーカーとして広く利用されています。ALTはASTよりも肝特異性が高く、骨格筋や心筋など他臓器の影響を比較的受けにくい点が特徴です。
ALTが触媒する反応は、アラニン+α-ケトグルタル酸⇄ピルビン酸+グルタミン酸という可逆反応で、糖代謝とアミノ酸代謝をつなぐ重要な役割を果たします。特に筋肉から肝臓へアラニンとして窒素と炭素骨格を運ぶ「アラニンサイクル(Cahillサイクル)」において中心的です。この生理機能ゆえに、ALT活性は代謝状況や栄養状態の影響も受けます。
臨床検査でのALT測定は、IFCC(国際臨床化学連合)が標準化した37℃、ピリドキサール-5′-リン酸(P-5′-P)活性化条件の参照法に基づき、実務ではNADHの340nm吸光度減少を追うカップリング法(LDH経由)で行われます。これにより各施設間で測定の再現性が確保されます。
日常診療では、ALTは単独ではなくAST、ALP、γ-GTP、ビリルビン、アルブミン、PT-INRなどと併せて総合的に評価されます。ALT優位の上昇は肝細胞障害型を示唆し、胆汁うっ滞型や合成能低下の所見と区別することが重要です。
参考文献
- MedlinePlus: Alanine aminotransferase (ALT) blood test
- IFCC reference procedure for ALT at 37°C
- AASLD: How to approach elevated liver enzymes
測定と臨床的意義
ALTは薬剤性肝障害、ウイルス性肝炎、非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD/NASH)、アルコール関連肝障害、虚血性肝障害などで上昇します。ALT>ASTのパターンはNAFLDや急性ウイルス性肝炎で、AST>ALTや2以上の比はアルコール関連障害でしばしば見られます。
ALTの上昇度はしばしば重症度の目安になります。軽度(上限の3倍未満)、中等度(3~10倍)、高度(>10倍)といった区分が用いられ、1000 U/L超の高度上昇は虚血性肝障害、劇症肝炎、重篤な薬剤性肝障害などを示唆します。ただしALTは病因特異的ではなく、背景情報と画像・他検査の総合判断が必須です。
ALTは健診やスクリーニングで、メタボリックシンドロームや2型糖尿病リスクの指標としても用いられます。脂肪肝ではALTが正常域でも病変が存在することがあり、反復測定と体重・代謝指標の評価が有用です。
薬剤治療中の安全性モニタリングでもALTは重要で、スタチン、抗結核薬、メトトレキサート、免疫チェックポイント阻害薬などで定期的測定が推奨されます。持続的な上昇や症状の出現時には中止や減量、専門医紹介を検討します。
参考文献
遺伝と環境の影響
ALT活性の個人差には遺伝と環境がともに関与します。双生児研究では、ALTの遺伝率(表現型の分散のうち遺伝要因で説明される割合)は概ね30~50%と報告され、残余は生活習慣や感染、薬剤、体格などの環境要因で説明されます。
近年のゲノム研究ではPNPLA3(I148M)、TM6SF2、GCKR、HSD17B13などの多型がALTや肝脂肪化と関連することが示されています。これらはALT上昇の素因を与え、肥満や飲酒と相互作用して発現が強まることがあります。
一方、SNPベースの“狭義”遺伝率(共通多型で説明される割合)はUKバイオバンク解析でおよそ10~20%と見積もられており、希少変異や遺伝子-環境相互作用、測定誤差が残差に寄与します。
したがって平均的には、ALT活性の変動は遺伝30~40%、環境60~70%程度と考えるのが妥当で、体重管理、飲酒の節制、運動、薬剤の適正使用など環境面の介入が臨床的に大きな影響を及ぼします。
参考文献
- Whitfield et al. Genetic and environmental influences on AST, ALT
- Sinnott-Armstrong et al. Genetics of 35 blood and urine biomarkers (PLoS Genet)
- MedlinePlus Genetics: PNPLA3 gene
正常範囲と解釈
ALTの基準範囲は施設・方法で異なりますが、多くの一般的な参考範囲は約7~55 U/Lです。一方、健康な献血者データに基づく提案では、男性およそ30 U/L、女性およそ19 U/Lを上限とする厳格な基準が妥当とする意見もあります。
ALTは年齢、性別、体格、民族、採血条件、ビタミンB6(P-5′-P)欠乏、運動直後などで変動します。したがって単回の軽度上昇は再検で確認し、臨床症状やほかの検査所見と合わせて解釈することが重要です。
ALTがASTより優位で軽~中等度の上昇を示す場合、NAFLDや慢性ウイルス性肝炎が鑑別に上がります。AST/ALT比>2はアルコール関連肝障害を示唆しますが、確定ではありません。
進行した肝硬変ではALTが正常~低値のことがあり、「正常だから問題ない」とは限りません。合成能マーカー(アルブミン、PT-INR)や画像所見と合わせた総合評価が必要です。
参考文献
- Testing.com: ALT reference ranges
- Prati et al. Updated normal ranges for ALT (NEJM 2002)
- AASLD approach to elevated liver enzymes
異常時の対処と予防
ALT異常が見つかったら、まず問診(飲酒、薬剤・サプリ、漢方、感染リスク、既往)、身体所見、再検(数週~数か月)を行います。持続する場合はウイルス肝炎、自己免疫、代謝性、胆道系、薬剤性などの鑑別を進めます。
画像(腹部超音波など)や追加血液検査(HBs抗原、HCV抗体、自己抗体、鉄代謝、甲状腺機能など)を状況に応じて実施します。ALTが高度に上昇し黄疸や凝固異常を伴う場合は緊急対応・専門医紹介が必要です。
NAFLDが疑われる場合、5~10%の体重減少、運動習慣化、糖質・脂質の質的改善、飲酒の制限がALT改善と肝脂肪減少に有効です。薬剤性が疑われるときは中止・代替を検討し、ベネフィットとリスクを医療者と相談します。
予防として、適正体重の維持、節酒・禁酒、ワクチン(A・B型肝炎)、安全な医療行為と衛生、定期健診が有用です。慢性肝疾患の既往がある方は、定期的なフォローと生活管理が重要です。
参考文献

