血中アポリポタンパク質B濃度
目次
定義と背景
アポリポタンパク質B(apoB)は、LDL、VLDL、IDL、リポ蛋白(a)[Lp(a)]など動脈硬化につながる“アテロジェニック”な粒子の骨格となるタンパク質です。肝臓で作られるapoB100は各粒子に1分子だけ存在するため、血中apoB濃度はそれら粒子数の総量を反映すると理解されています。
一方、小腸で作られるapoB48はカイロミクロンに存在しますが、空腹時の循環血中ではapoB100が主要であり、臨床検査での「apoB」は主としてapoB100を指します。この“1粒子=1分子”という特性が、コレステロール量ではなく粒子数こそがリスクを規定するという近年の概念を支えています。
LDLコレステロール(LDL-C)は粒子内のコレステロール量を示す指標に過ぎず、同じLDL-Cでも粒子数が多い場合と少ない場合があり得ます。apoBは粒子数の代理として、LDL-Cやnon-HDL-Cと比べ心血管リスクの予測精度が高い場面があると報告されています。
こうした背景から、欧州および北米の脂質管理ガイドラインでは、特に高トリグリセリド血症や糖尿病、メタボリックシンドロームなど“ディスコーダンス”(LDL-Cと粒子数の不一致)が起こりやすい状態で、apoBの活用が推奨・容認されています。
参考文献
- 2019 ESC/EAS dyslipidaemia guidelines
- Cleveland Clinic: Apolipoprotein B (ApoB) Test
- eLife 2020: Apolipoprotein B underlies the causal association of LDL-C with CHD
測定と臨床的意義
apoBは主に免疫比濁法や免疫ネフェロメトリー(散乱光)で測定され、国際標準物質にトレーサブルな校正により定量されます。採血は空腹でなくてもよい場合が多く、日常診療での利便性も高い検査です。
臨床的には、心血管リスク層別化、治療目標の設定、治療反応性の評価に用いられます。特に高トリグリセリド血症やインスリン抵抗性があると、LDL-C単独ではリスクの過小評価が起こりやすく、apoBが補完的価値を示します。
家族性複合型高脂血症など、アテロジェニック粒子数が増える病態の把握にも有用です。薬物療法(スタチン、エゼチミブ、PCSK9阻害薬、ベンペド酸、フィブラート等)は総じてapoBを低下させ、粒子数の減少を反映します。
研究レベルでは、Mendelian randomizationの解析で、LDL-Cやnon-HDL-CよりもapoB(=粒子数)の上昇が冠動脈疾患の因果的ドライバーとしてより直接的である可能性が示されています。
参考文献
- ACC/AHA 2018 Cholesterol Guideline (Made Simple Tool)
- eLife 2020: Apolipoprotein B underlies the causal association of LDL-C with CHD
- Labcorp: Apolipoprotein B test
値の解釈と目標値
apoBはmg/dL(またはg/L)で報告されます。一般的な基準範囲は検査室により異なりますが、成人で約60〜120 mg/dL程度の設定がよく用いられます。解釈では、個々のリスクと“ディスコーダンス”の有無を考慮することが重要です。
欧州(ESC/EAS)ガイドラインでは、リスク区分に応じたapoB目標値が示され、きわめて高リスクで<65 mg/dL、高リスクで<80 mg/dL、いくつかの文脈で<100 mg/dLなどが提案されています。これらはLDL-C/non-HDL-C目標と整合するよう設計されています。
米国(ACC/AHA)では、apoBは主にリスク増強因子として位置づけられ、特にトリグリセリド≥200 mg/dLの状況でapoB≥130 mg/dLが治療介入を後押しする所見とされています。これにより、LDL-Cが“見かけ上”良好でも粒子数過多を見逃さない設計です。
カットオフはあくまで総合判断の一部であり、年齢、併存疾患、喫煙、血圧、家族歴、Lp(a)、炎症指標などとの統合評価が推奨されます。
参考文献
- 2019 ESC/EAS dyslipidaemia guidelines
- ACC/AHA 2018 Cholesterol Guideline (Made Simple Tool)
- Cleveland Clinic: Apolipoprotein B (ApoB) Test
遺伝・環境要因
apoB濃度には遺伝と環境の双方が寄与します。双生児・家族研究ではapoBや関連脂質の遺伝率はおおむね40〜60%と報告されてきましたが、推定値は集団や手法で変動します。
ゲノム全体関連解析(GWAS)から推定されるSNP遺伝率(共通変異で説明される割合)はapoBで概ね20〜30%程度と報告され、全遺伝率より低めになります。これは希少変異や遺伝子×環境相互作用の寄与が残るためです。
環境側の要因には、食事の質(飽和脂肪・簡単糖質)、体重・内臓脂肪、運動、飲酒、喫煙、甲状腺機能低下症、ネフローゼ症候群、薬剤(ステロイド、レチノイドなど)による二次性影響が含まれます。
したがって実臨床では、遺伝素因を背景に持ちつつも、生活習慣や併存疾患の是正でapoBを大きく改善できる余地がしばしば存在します。
参考文献
- Nat Genet 2021: Genetics of 35 blood and urine biomarkers in UK Biobank
- Global Lipids Genetics Consortium 2013
- Cleveland Clinic: Apolipoprotein B (ApoB) Test
生物学的役割と疾患との関連
apoB100は肝細胞内で超低比重リポ蛋白(VLDL)の組み立てに必須で、分泌後はトリグリセリドの加水分解を経てIDL、LDLへと変換されます。LDL受容体との相互作用を通じて末梢組織へのコレステロール供給に関わります。
apoB48は小腸で産生され、食事由来脂質を運ぶカイロミクロンの必須構成要素です。生理的には、食後脂質代謝に重要であり、脂質吸収の障害や異常が生じると栄養状態や動脈硬化リスクに影響します。
遺伝性疾患として、アポB遺伝子の変異による受容体結合能低下型家族性高コレステロール血症、ミクロソームトリグリセリド転送タンパク(MTTP)異常による無βリポ蛋白血症などが知られ、いずれもapoB関連経路の破綻が臨床像を規定します。
臨床疫学・遺伝疫学の蓄積は、粒子数を代表するapoBが動脈硬化性心血管疾患のリスクとより密接に関連することを示唆しており、治療標的としての位置づけが強まっています。
参考文献

