血中アディポネクチン濃度
目次
定義と概要
アディポネクチンは脂肪組織から分泌されるタンパク質(アディポカイン)で、血中を循環し、全身の糖・脂質代謝、血管内皮機能、炎症反応などに影響します。血中アディポネクチン濃度はこのホルモン様物質の量を示し、肥満やインスリン抵抗性、動脈硬化との関連がよく研究されています。
血中では低分子(トリマー)、中分子(ヘキサマー)、高分子(HMW)といったマルチマー構造で存在し、特にHMWアディポネクチンがインスリン感受性や抗動脈硬化作用と強く関連すると報告されています。測定は総量(トータル)とHMWの両方が用いられます。
一般的に肥満、とくに内臓脂肪の蓄積では血中アディポネクチンが低下し、逆に体重減少や持久的運動、チアゾリジン薬(ピオグリタゾンなど)の使用で上昇します。喫煙は低下要因、女性は男性より高値で、加齢や腎機能低下で高値を示すこともあります。
臨床的には糖尿病やメタボリックシンドローム、脂肪肝、心血管疾患のリスク指標として注目されてきました。低値は将来の2型糖尿病発症や冠動脈疾患の独立したリスクと関連しますが、高齢者や慢性心不全・慢性腎臓病では“高アディポネクチン-予後不良”という逆説的関連が観察される場面もあります。
参考文献
- Kadowaki & Yamauchi. Adiponectin and adiponectin receptors in insulin resistance, diabetes and the metabolic syndrome. Nat Rev Mol Cell Biol (2005)
- Ouchi et al. Adiponectin as an anti-inflammatory and cardioprotective adipokine. Nat Rev Immunol (2011)
遺伝・環境要因
血中アディポネクチン濃度は遺伝と環境の両方により規定されます。家族・双生児研究では中等度から高い遺伝率(概ね40〜70%)が報告され、ADIPOQ遺伝子座の多型や関連経路(インスリン感受性、脂質代謝)に関わる多遺伝子が濃度の個人差に寄与します。
ゲノムワイド関連解析(GWAS)ではADIPOQを含む複数座位が同定され、これらの遺伝的バリアントが血中レベルの差異とメタボリックリスクに結び付くことが示されました。ただし単一のバリアントが説明できる分散は小さく、総合的な遺伝的寄与は多数の小効果の集積です。
環境要因としては体脂肪量・分布、食事パターン(地中海食、n-3脂肪酸の摂取など)、身体活動、喫煙、睡眠、薬剤(インスリン増感薬など)が主要です。減量や有酸素運動での上昇効果が一貫して示され、喫煙は低下に関連します。
実務的には遺伝要因40〜70%、環境要因30〜60%と理解されますが、ライフスタイル介入の効果は大きく、遺伝素因があっても環境調整で改善が可能です。民族差や性差も存在し、女性やアジア人で相対的に高値傾向が報告されています。
参考文献
- Heid et al. Genome-wide association analysis of adiponectin levels. Nat Genet (2010)
- Dastani et al. Novel loci for adiponectin levels and their pleiotropic associations. PLoS Genet (2012)
測定法と理論
臨床・研究で最も一般的なのはサンドイッチELISA法で、アディポネクチンに特異的な2種類の抗体で抗原を挟み、酵素反応の発色強度から濃度を定量します。標準曲線との比較によりμg/mL(μg/dLではない)単位で報告されます。
HMWアディポネクチンは選択的抗体を用いたELISA、もしくは前処理(変性・再会合)やゲルろ過/電気泳動を併用して定量します。測定キットにより認識エピトープが異なるため、施設間差・キット間差が生じうる点に注意が必要です。
臨床検査室では自動分析に適したラテックス凝集比濁法も利用されます。アディポネクチンに対する抗体でコートしたラテックス粒子が抗原と結合し凝集、透過光の散乱変化を光学的に測定して濃度を求めます。迅速・高スループットが利点です。
前分析的要因としては空腹/食後の影響は比較的小さく、日内変動も限定的ですが、長期保存・凍結融解回数、溶血、強い炎症状態などは測定値に影響し得ます。総量とHMWのどちらを測るかは目的により選択します。
参考文献
- Thermo Fisher Scientific. Sandwich ELISA principles
- FUJIFILM Wako. Total and HMW Adiponectin assays (latex turbidimetric)
臨床的意義と参考範囲
低アディポネクチン血症はインスリン抵抗性、2型糖尿病、脂質異常、非アルコール性脂肪性肝疾患、冠動脈疾患のリスク上昇と関連します。日本人男性で4 μg/mL未満が冠動脈疾患と関連した報告など、疫学的証拠が蓄積しています。
一方で高齢者や慢性心不全、慢性腎臓病では高アディポネクチンが予後不良と関連する“アディポネクチン・パラドックス”が報告されています。これはクリアランス低下や代償的上昇、アディポネクチン抵抗性などが背景にあると考えられます。
参考範囲は測定法や集団により異なりますが、成人で総アディポネクチン約3〜20 μg/mL、男性は低め、女性は高めが一般的です。HMWの割合(HMW/総量)は0.3〜0.5程度が報告されています。解釈は検査室のリファレンスに従います。
単独での診断マーカーというより、体格、血糖・脂質、肝腎機能、血圧、炎症マーカーなどと合わせて代謝・心血管リスクの層別化や生活習慣介入のモニタリングに活用されます。
参考文献
- Kumada et al. Association of hypoadiponectinemia with CAD in men. Arterioscler Thromb Vasc Biol (2003)
- Sente et al. Adiponectin paradox in cardiovascular disease. Int J Mol Sci (2020)
解釈と介入
低値(例:男性<4–6 μg/mL、女性<6–7 μg/mL)はインスリン抵抗性増大の示唆となり、体重減少(5–10%)、有酸素・レジスタンス運動、禁煙、食事の質改善(地中海食、魚介・豆類・食物繊維の増加)での改善が期待できます。
薬理学的にはチアゾリジン薬(ピオグリタゾン)がアディポネクチン、とくにHMW分画を上昇させ、肝脂肪やインスリン感受性を改善します。ただし体重増加や浮腫など副作用を考慮し、主治医と相談のうえで適応を判断します。
高値の背景としては高齢、腎機能低下、心不全、甲状腺機能亢進、急性炎症後の変動などがあり得ます。臨床症状や他の検査所見と統合し、必要に応じて腎機能評価や心機能評価を追加します。
検査の再検タイミングは介入後8–12週間程度が目安です。同一法での縦断フォローが望ましく、HMW/総量比の変化もあわせてみると解釈が安定します。
参考文献

