Forest background
バイオインフォの森へようこそ

血中アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ活性

目次

基礎概念と臨床的意義

アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(AST, 旧GOT)は、アミノ酸とα-ケト酸の間でアミノ基を転移する酵素で、肝臓、骨格筋、心筋、赤血球など多くの組織に分布します。血中AST活性は細胞傷害で逸脱して上昇するため、臨床では「組織障害の指標」として用いられます。ただし臓器特異性は低く、単独解釈は禁物です。

ASTには細胞質型(GOT1)とミトコンドリア型(GOT2)のアイソフォームがあり、肝細胞壊死では後者の寄与が相対的に増します。アルコール性肝障害や重症の虚血性肝障害などでは著増し、急性心筋梗塞や筋障害でも上昇し得ます。

現在は肝疾患評価でALTと合わせて用いられ、AST/ALT比が鑑別に役立ちます。比が2を超えるとアルコール性肝障害が疑われ、1未満はNAFLDやウイルス性肝炎に多いとされます。程度(正常上限の何倍か)や併用検査(ALP, GGT, ビリルビン, CK)との組合せが重要です。

ASTは過去、心筋梗塞の診断にも使われましたが、現在は心筋トロポニンに置き換わりました。にもかかわらず、筋障害や薬剤性肝障害のスクリーニング、治療経過のモニタリングなど、一次診療から専門診療まで広く有用です。

参考文献

測定法と原理

臨床検査でのAST定量はIFCC推奨の速度法が主流で、AST反応で生じたオキサロ酢酸をリンゴ酸脱水素酵素(MDH)でリンゴ酸に還元し、その際消費されるNADHの340nm吸光度減少を追跡します。吸光度の減少速度が酵素活性に比例します。

反応式は、L-アスパラギン酸+2-オキソグルタル酸⇄オキサロ酢酸+L-グルタミン酸(AST)、続いてオキサロ酢酸+NADH+H⁺→L-リンゴ酸+NAD⁺(MDH)です。測定単位はU/L(37℃)で、1Uは分子基質1μmol/分の変換活性に相当します。

溶血はASTを偽高値化し得ます。赤血球内にもASTが多いためで、前処理や採血手技が重要です。強い運動や筋注、薬剤(例:スタチン、抗結薬、アセトアミノフェン過量)も影響します。

旧来のカルメン法(DNPH法)などもありますが、特異性・標準化の観点からIFCC法が国際的に推奨されています。検査室間差を抑えるため、キャリブレーションと品質管理が欠かせません。

参考文献

結果の解釈と鑑別

ASTの上昇は肝細胞障害のほか、筋障害や溶血など多因子で起こり得ます。ALT、ALP、GGT、ビリルビン、CKなどと併せてパターン認識するのが基本です。例えば、ASTとALTが主体でALPが正常なら肝細胞障害型、ALP優位なら胆汁うっ滞型を疑います。

AST/ALT比は有用な指標です。2以上はアルコール性肝障害を示唆し、1未満は非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)やウイルス性肝炎で典型的です。ただし進行肝硬変ではALTが低下し比が高くなり得るため、総合判断が必要です。

著増(>10倍上限)は虚血性肝障害、急性薬剤性肝障害、重症ウイルス性肝炎で見られます。一方、軽〜中等度上昇(<5倍)はNAFLD、アルコール、薬剤、代謝症候群関連が多い傾向です。

筋障害が疑われる場合はCKやミオグロビンを確認し、心筋障害はトロポニンで評価します。持続的な単独AST高値では稀なマクロASTも鑑別に挙がります。

参考文献

遺伝と環境の寄与

AST活性の個人差には遺伝と環境の双方が関与します。双生児研究では、ASTの遺伝率は概ね20〜40%と推定され、残りが共有・非共有環境によると報告されています。

肥満、インスリン抵抗性、飲酒、薬剤、身体活動といった生活要因は環境寄与の主要因です。一方、PNPLA3など肝脂肪化関連の遺伝子多型はALTだけでなくASTにも影響し得ます。

遺伝率は集団や年齢、性別、飲酒量により変動します。そのため固定的小数ではなく「幅」をもって理解するのが現実的です。

臨床では、家族歴やライフスタイル情報を併せて評価し、可変な環境因子を是正することが第一選択になります。

参考文献

生物学的役割と関連経路

ASTはアスパラギン酸とオキサロ酢酸の相互変換を触媒し、アミノ酸代謝、糖新生、尿素回路の窒素転送に関与します。細胞質型とミトコンドリア型は代謝経路の橋渡し役でもあります。

特に「リンゴ酸-アスパラギン酸シャトル」は、細胞質のNADH還元力をミトコンドリアへ運ぶ主要経路で、酸化的リン酸化の効率に直結します。ASTはこのシャトルの要です。

GOT2(ミトコンドリア型)遺伝子は胚発生や神経機能で必須であり、モデル生物では欠損が致死的となることが報告されています。

こうした基礎代謝上の重要性が、組織障害時にASTが血中へ逸脱した際、全身状態の手がかりとして有用である理由の一端です。

参考文献