蜂窩織炎
目次
概要
蜂窩織炎(ほうかしきえん、cellulitis)は、皮膚とその下の皮下組織に細菌が侵入して起こる急性の感染症です。多くは下肢に発生し、赤み、熱感、腫れ、痛みを伴い、ときに発熱や悪寒を引き起こします。原因菌としては溶血性レンサ球菌(A群など)や黄色ブドウ球菌が代表的で、擦り傷や足の水虫などの「小さな入口」から侵入します。感染が進むとリンパ管炎や敗血症へ移行することがあり、迅速な診断と治療が重要です。
この疾患は日常診療で頻繁に遭遇し、外来治療で完治する例が大半ですが、基礎疾患を持つ方や高齢者、免疫抑制状態では重症化のリスクが高まります。適切な抗菌薬による治療に加え、患肢挙上、安静、皮膚バリアの修復などの支持療法が並行して求められます。
蜂窩織炎は伝染病のように人から人へ直接うつることは通常ありませんが、同居者間で共通のリスク(皮膚の小外傷や水虫、共有カミソリなど)があると繰り返し発生することがあります。家庭内での皮膚ケアや衛生対策が予防に役立ちます。
医療現場では、蜂窩織炎と膿瘍(うみのたまり)の鑑別が重要です。膿瘍は切開・排膿が不可欠で、抗菌薬の選択も異なります。身体診察に超音波検査を組み合わせることで見逃しを減らせます。ガイドラインは、膿のない非化膿性蜂窩織炎ではレンサ球菌を主目標とした抗菌薬を推奨しています。
参考文献
症状と合併症
典型的な症状は、境界が比較的はっきりしない赤いはれ(発赤・腫脹)、熱感、圧痛です。患部を触ると温かく、体重をかけると痛むことが多く、歩行困難を訴える方もいます。急速に広がる場合やリンパ管に沿って赤い筋がみられる場合は、感染が進んでいるサインです。
全身症状としては、発熱、悪寒、倦怠感、頭痛、悪心などがあります。重症化すると頻脈、低血圧、意識障害などの敗血症の兆候が現れることがあり、救急受診が必要です。糖尿病や慢性腎臓病、肝疾患、免疫抑制状態では合併症が増えやすく注意が必要です。
局所合併症には、皮下膿瘍、壊死性軟部組織感染症(まれだが致死的)、リンパ管炎や蜂窩織炎の再発があります。特に下肢の慢性浮腫やリンパ浮腫があると再発率が高まります。慢性的な皮膚の色素沈着や線維化が残ることもあります。
症状がに似る疾患として、丹毒、深部静脈血栓症、痛風・偽痛風、接触皮膚炎、静脈うっ滞性皮膚炎、薬疹などがあり、診断には病歴、診察、超音波などの所見を総合して見極めます。
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原因と発生機序
多くの蜂窩織炎は、A群溶血性レンサ球菌(Streptococcus pyogenes)や黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)によって引き起こされます。水虫(足白癬)による趾間の亀裂、小さな切り傷、擦過傷、虫刺され、湿疹の掻破、注射部位などから細菌が侵入します。
侵入した細菌は皮膚と皮下組織で増殖し、宿主の免疫反応を引き起こして炎症を生じます。レンサ球菌はヒアルロニダーゼなどの酵素で組織間隙を拡げ、ブドウ球菌は毒素や侵襲因子で局所組織破壊や膿瘍形成を促します。これが疼痛、熱感、腫脹といった症状の基盤です。
リンパ循環の障害(静脈不全、慢性浮腫、リンパ浮腫など)があると、組織内の免疫細胞や抗菌因子のアクセスが低下し、細菌が定着しやすくなります。また、糖尿病や肥満は皮膚バリア機能の低下や免疫応答の変調を通じてリスクを高めます。
メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)は化膿を伴う皮膚感染の原因として重要ですが、膿のない典型的な蜂窩織炎ではレンサ球菌が主体であることが多く、地域疫学や個別の危険因子(穿刺傷、注射薬物使用、既往)を加味して抗菌薬を選択します。
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診断と検査
蜂窩織炎の診断は主に臨床診断で、発赤、熱感、腫脹、圧痛といった所見の組み合わせで行います。発赤の周囲にペンで境界線を描き、広がりの速度を観察すると治療反応の評価に役立ちます。
血液検査では白血球増多やCRP上昇がみられることがありますが、特異的ではありません。膿瘍が疑われる場合は、ベッドサイド超音波検査で液体貯留の有無や深達度を評価し、切開・排膿の要否を判断します。
培養は膿や穿刺液が得られる場合や、免疫抑制、咬傷、動物接触、浸水歴など特殊状況で有用です。典型例の表在擦過での培養は感度が低く、ルーチンでは推奨されません。重症例では血液培養を検討します。
鑑別診断として深部静脈血栓症や壊死性筋膜炎は見逃せません。圧痛の強さに不釣り合いな激痛、皮膚の水疱や壊死、全身中毒症状が目立つ場合は緊急評価が必要です。
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治療と予防
治療は重症度と原因菌推定に基づく抗菌薬と支持療法が基本です。膿のない軽症例では、レンサ球菌を標的とした経口β-ラクタム系(例:ペニシリン系、第一世代セフェム系)を5日程度投与し、反応により延長します。膿瘍がある場合は切開・排膿が必須で、MRSAリスクに応じて薬剤選択を調整します。
支持療法として、患肢挙上、安静、鎮痛、保湿による皮膚バリア回復が有効です。再発予防には、足白癬の治療、爪囲炎や鶏眼・胼胝のケア、浮腫管理(弾性ストッキングや圧迫療法)、体重管理が重要です。
再発を繰り返す患者では、生活・皮膚ケア介入に加えて、ペニシリン系内服の予防投与を一定期間行うと再発率が減ることがランダム化試験やシステマティックレビューで示されています。ただし、抗菌薬曝露のデメリット(耐性、薬疹)も勘案して個別に判断します。
受診の目安として、赤みが急速に拡大する、強い痛みや発熱がある、糖尿病・免疫不全がある、膿がたまっている疑いがある場合は早期受診が勧められます。早期治療は入院や合併症のリスク低下につながります。
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