蚊に刺されやすさ
目次
蚊に刺されやすさとは
蚊に刺されやすさは、同じ環境にいても人によって蚊が寄って来やすい度合いが異なる現象を指します。主に蚊の嗅覚・視覚・温度感受の仕組みと、人の体から放たれる二酸化炭素や体臭、皮膚常在菌が作る揮発性化合物などの相互作用で決まります。
この差は一時的な要因だけでなく、双生児研究で示されるように遺伝的素因も関与すると考えられています。環境要因としては運動による発汗、飲酒、妊娠、衣服の色、滞在場所や時間帯などが挙げられます。
医学的には疾患ではなく生体—節足動物間相互作用の特性ですが、刺咬回数の差は発疹や掻痒の負担、さらには蚊媒介感染症の曝露機会の差につながり得ます。
「刺されやすさ」を理解することは、個別化された防蚊対策の選択と、過度の不安や誤解の是正に役立ちます。科学的根拠に基づく要因を押さえることが実践的な第一歩です。
参考文献
遺伝要因と環境要因の寄与
双生児を用いた研究では、同卵双生児間で蚊の誘引性が類似しやすいことが示され、遺伝要因の寄与が示唆されます。推定遺伝率はおおむね中等度から高い範囲にあります。
一方、行動や周囲環境は日々変化し、体温、発汗、皮膚常在菌叢、飲酒、妊娠などが短期的に誘引性を増減させます。これらは制御可能なことが多く実践的です。
遺伝と環境は排他的ではなく、体臭成分の遺伝的素因が皮膚微生物叢の構成に影響し、結果として放出される揮発性化合物のパターンが変わるなど、複合的に作用します。
したがって「何%が遺伝、何%が環境」と単純に固定できないものの、遺伝の寄与は半分前後からそれ以上と見積もられる一方、環境介入の余地も大きいと言えます。
参考文献
- LSHTM news: Mosquitoes more attracted to certain people due to genes (2015)
- Verhulst et al. Skin microbiota influences mosquito attraction (2011)
発生機序:蚊が人を見つける仕組み
蚊は数十メートル先から二酸化炭素の増加を感知して接近します。近づくと体温・水蒸気の勾配や対比の強い色を手がかりに着地地点を絞り込みます。
さらに至近距離では皮膚表面から放たれる脂肪酸、乳酸、アンモニア、ケトン類などの混合臭に強く反応します。これらは人の代謝と常在菌が作る代謝産物の相互作用で決まります。
嗅覚受容体や共受容体(Orcoなど)を介した蚊の嗅覚回路が、この化学情報を統合し誘引行動を引き起こします。視覚と嗅覚は相乗的に働きます。
そのため、CO2排出量が多い、体表が温かい、特定の皮膚フローラを持つ人は、相対的に刺されやすくなります。逆に風や送風でCO2のプルームを散らすと接近が抑えられます。
参考文献
- McMeniman et al. Multimodal integration of CO2 and human odor in mosquito (2014)
- Nature Communications: Mosquito color preference (2022)
症状と個人差
刺されると直後に膨疹(みみず腫れ)と紅斑、強い痒みが生じます。これは蚊唾液中のタンパクに対する即時型アレルギー反応が主因です。
感作の程度により反応強度は大きく異なり、子どもや長期に刺されていない人は強く出やすい傾向があります。繰り返し曝露で遅延反応が主体となることもあります。
一部ではSkeeter症候群と呼ばれる大きな局所反応を呈し、発熱やリンパ節腫脹を伴うことがあります。二次感染や色素沈着が問題となることもあります。
対症療法としては冷却、外用ステロイド、経口抗ヒスタミン薬が用いられ、重症例では医療機関での評価が推奨されます。
参考文献
予防と実践策
最も効果的なのは、DEET、イカリジン(ピカリジン)、IR3535、レモンユーカリ油(PMD)など有効成分を含む忌避剤の適切な使用です。製品表示に従い塗布・再塗布します。
衣類で肌を覆い、色は黒や赤など高コントラストを避け、明るい色を選ぶことが推奨されます。夕暮れ〜夜間の活動は蚊の活動時間を意識して対策を強化します。
屋内では網戸や蚊帳、扇風機の送風で接近を妨げ、水たまりをなくして幼虫の発生源を管理します。屋外ではファンの使用やCO2トラップの配置が有用です。
飲酒は誘引を高め得るため野外活動前は控えるとよいでしょう。妊娠中は特に防蚊策を強化し、流行地では長袖長ズボンと忌避剤の併用が勧められます。
参考文献

