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虫歯

目次

定義と基礎知識

虫歯(う蝕、英: dental caries)は、歯の硬組織が口腔内の細菌が産生する酸で脱灰され、進行すると歯に穴が開く疾患を指します。歯垢(プラーク)内で糖が代謝されることで酸が生じ、エナメル質や象牙質の無機成分が溶けることが本態です。

初期う蝕は白斑(白濁)として観察され、表面が崩壊する前なら再石灰化により可逆的です。進行すると知覚過敏や自発痛、温冷痛が生じ、さらに進むと歯髄炎、根尖性歯周炎へと波及します。

疫学的には世界で最も有病者数の多い疾患群の一つで、特に未治療の永久歯う蝕は数十億人規模に影響を与えています。小児の乳歯う蝕も依然として公衆衛生上の重要課題です。

診断は視診・触診(ICDAS基準など)に加え、咬翼法X線写真や光学的う蝕検出機器を用いて、象牙質までの進行や隣接面病変を把握します。リスク評価と併せて管理方針を決めます。

参考文献

発生機序(病因・病態生理)

虫歯は細菌、宿主(歯と唾液)、食事(特に遊離糖)、時間の相互作用で成立します。プラーク内のミュータンス菌やラクトバチルス菌が糖を代謝し酸を産生、臨界pH(エナメル質で約5.5)を下回ると脱灰が進行します。

唾液は重炭酸塩による緩衝作用やカルシウム・リン酸供給で再石灰化を促しますが、唾液分泌低下やpH低下が持続すると再石灰化が追いつかず、表層崩壊に至ります。ステファンカーブは飲食後の急速なpH低下と回復を示します。

エナメル質形成関連遺伝子の多型や唾液蛋白の違いは酸への抵抗性やプラーク形成に影響し得ますが、効果量は小さく、生活習慣やフッ化物曝露など環境要因の寄与が大きいと考えられています。

根面う蝕は歯肉退縮で象牙質が露出しやすい高齢者で増え、象牙質の臨界pH(約6.2〜6.5)が高いため進行しやすい点が特徴です。

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症状と進行段階

初期(C0〜C1相当)では自覚症状に乏しく、白斑や褐色変化、表面の艶消失などが見られます。適切なフッ化物とプラークコントロールで再石灰化が期待できます。

中等度(C2)で象牙質に達すると、冷水痛や甘味痛、噛んだときの違和感が現れます。病変はX線で隣接面に三角形状の透過像として見えることが多いです。

重度(C3)では歯髄炎の発症により自発痛、夜間痛、温熱痛が出現し、持続痛に移行します。放置すると壊死し根尖性歯周炎となり、咬合痛や腫脹、排膿に至ります。

根面う蝕は歯頚部の楔状欠損様の見た目や着色を伴い、進行が速いことがあります。高齢者やドライマウス患者では特に留意が必要です。

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予防戦略

一次予防の柱はフッ化物応用、糖摂取頻度の管理、機械的プラークコントロールです。1,000〜1,500ppmのフッ化物配合歯磨剤の1日2回使用が推奨されます。

高リスク者には年2〜4回のフッ化物ワニス、シーラント、食事指導が有効です。地域レベルでは水道水フロリデーションが有効とされますが、実施の可否は地域政策に依存します。

キシリトールは代替甘味料としてう蝕リスク低減に寄与する可能性がありますが、効果の大きさは研究間でばらつきがあり、歯磨剤のフッ化物ほど一貫していません。

定期歯科健診と個別のリスク評価(CAMBRAなど)に基づく管理が、早期発見と非侵襲的介入の機会を増やします。

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治療と管理

初期病変には再石灰化療法(高濃度フッ化物、CPP-ACPなど)や非切削管理が可能です。進行病変にはレジン修復、グラスアイオノマー修復、インレー・クラウンが適応となります。

歯髄に達した場合は根管治療が必要です。感染源の除去と根管充填を行い、上部修復で歯冠を保護します。予後は残存歯質量と修復の質に依存します。

高齢者や協力困難な症例では、38%ジアミンフッ化銀(SDF)によるう蝕の進行抑制が有効で、非侵襲的・低コストの選択肢となります。

治療選択は患者のリスク、生活背景、審美要求、費用対効果を総合して決めます。メインテナンスで再発予防を図ることが重要です。

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