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花粉症/アレルギー性鼻炎

目次

用語の定義と疫学的背景

花粉症/アレルギー性鼻炎は、吸入された花粉やダニ、動物のフケなどのアレルゲンに対して、免疫系がIgE抗体を介して過敏に反応することで起こる鼻粘膜の慢性炎症性疾患です。くしゃみ、鼻汁、鼻閉、鼻や眼のかゆみを主症状とし、季節性(主に花粉)と通年性(ダニやカビなど)の2型に大別されます。

疫学的には世界で人口の1〜3割が罹患するとされ、地域や年代で幅があります。日本ではスギ・ヒノキ花粉症の増加が著しく、全国調査で有病率が近年大きく上昇していることが示されています。都市化、気候変動、生活様式の変化が背景にあります。

本疾患は生命予後に直結することは稀ですが、睡眠障害、学業・労働能率低下、気分障害の併発など生活の質(QOL)への影響が大きい点が特徴です。また副鼻腔炎、中耳炎、喘息と合併しやすく、気道全体の疾患管理の観点から重要です。

診断と管理には国際的にはARIA(Allergic Rhinitis and its Impact on Asthma)といった実践ガイドが広く参照され、わが国でも耳鼻咽喉科領域のガイドラインが整備されています。

参考文献

症状と日常生活への影響

代表的症状は反復する発作的なくしゃみ、水様性鼻汁、鼻閉、鼻・眼のかゆみです。季節性では花粉飛散期に一致して悪化し、通年性では屋内環境への曝露で持続・増悪します。眼症状や咽喉頭の違和感、咳などを伴うこともあります。

症状は時間帯や環境で変動し、朝方に強い「モーニングアタック」や屋外活動後の増悪がみられます。重症例では口呼吸・いびき、嗅覚低下、日中の眠気や集中力低下が問題となります。

小児では学習成績や行動に影響し、成人では労働生産性の低下や欠勤の増加に直結します。睡眠の質の低下、頭痛、耳閉感、上顎歯痛など周辺症状もQOL低下に寄与します。

アレルギー性鼻炎は不安・抑うつの有病率上昇とも関連し、適切な症状コントロールが心身双方の健康維持に重要です。患者教育とセルフケアの支援は臨床効果を高めます。

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発生機序(免疫学的背景)

初回感作では、吸入アレルゲンが鼻粘膜上皮を通過し樹状細胞に取り込まれ、所属リンパ節でTh2分化を促進します。IL-4/IL-13によりB細胞はクラススイッチを起こしてアレルゲン特異的IgEを産生し、肥満細胞や好塩基球のFcεRIに結合します。

再曝露時には、アレルゲンが細胞表面のIgEを架橋し、肥満細胞からヒスタミン、ロイコトリエン、トリプターゼなどのメディエーターが即時放出され、くしゃみや鼻汁、鼻粘膜浮腫を引き起こします。これが早期相反応です。

遅発相では、IL-5やeotaxinの作用で好酸球が遊走・活性化し、サイトカインや蛋白分解酵素により粘膜炎症が持続します。上皮バリア機能低下、神経感受性の亢進、鼻腔過敏性の増強が慢性化に関与します。

アレルギー性鼻炎は喘息と病態を共有し、上気道と下気道の連関(one airway, one disease)が提唱されています。TSLPやIL-33など上皮由来因子、HLA領域などの遺伝要因も反応性に影響します。

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遺伝学的背景と遺伝率

家族集積性が知られ、双生児研究ではアレルギー性鼻炎の遺伝率は概ね30〜70%の範囲と報告されています。遺伝率は疾患素因の分散に占める遺伝要因の割合であり、個人のリスク確率ではありません。

ゲノムワイド関連解析(GWAS)では、HLA領域(6p21)、IL13/IL4/IL5の存在する5q31、STAT6(12q13)、TSLP、IL33、FCER1Aなど、Th2応答やIgE経路に関わる多数の感受性座位が同定されています。

皮膚バリア遺伝子FLGのロスオブファンクション変異はアトピー素因と関連し、鼻炎合併リスクも上昇することが示されています。遺伝子間および遺伝子×環境相互作用が表現型に影響します。

これらの遺伝子は効果量が小さく、多遺伝子リスク(polygenic risk)の重なりが疾患発症に寄与します。したがって予防や治療では環境制御と薬物療法、免疫療法の組み合わせが重要です。

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環境因子と社会的変化

スギ・ヒノキ花粉飛散量の年次変動、都市化、暖冬化・CO2増加による花粉生産の増加が、季節性鼻炎の患者数や重症度に影響を与えています。飛散開始の前倒しや飛散期間の延伸も報告されています。

大気汚染(ディーゼル粒子、NO2、PM2.5)は鼻粘膜炎症を増強し、アレルゲンのアジュバントとして感作や症状を重くします。屋内ではダニ、カビ、ペット、受動喫煙、加湿過多などが通年性症状の増悪因子です。

感染症流行やマスク着用など社会的行動の変化は曝露量を変え、短期的に症状や流行パターンに影響します。換気や空気清浄機、寝具管理など環境介入は一定の効果が示されています。

生活全般では睡眠、ストレス、運動、体重なども免疫応答や症状知覚に関与し得ます。個別のトリガーを記録し、曝露低減と薬物治療を併せることが実用的です。

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