臍ヘルニア
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定義と概要
臍ヘルニアは、へその下にある腹壁の筋膜・筋肉のすき間(臍輪)が十分に閉じず、腹腔内の脂肪や腸の一部が皮下へ突出して「でべそ」のように見える状態を指します。新生児・乳児に多く、成長とともに自然に閉鎖する例が大半ですが、成人にも後天的に発生します。
小児の臍ヘルニアは出生直後から目立つことが多く、泣いたりいきんだりすると膨らみが強調され、安静で小さくなるのが特徴です。多くは痛みが乏しく、日常生活に支障をきたさないため経過観察が基本です。
成人の臍ヘルニアは、妊娠・肥満・腹水・慢性の咳や便秘などに伴う腹圧上昇を背景に、臍部の組織が弱くなって生じます。小児と異なり自然閉鎖は期待しにくく、サイズや症状に応じて手術が検討されます。
臍ヘルニアは、胎生期に腹壁が形成される過程と出生後の臍輪閉鎖に関係します。これが十分でないとヘルニア門が残存し、突出が生じます。腹壁正中の別の弱点で起こる上腹部ヘルニア(腹直筋解離や白線ヘルニア)とは区別されます。
参考文献
- American Academy of Pediatrics: Umbilical Hernia
- NHS: Umbilical hernia
- StatPearls: Umbilical Hernia (NCBI Bookshelf)
症状と合併症
典型的な症状は、へそ周囲の柔らかい膨らみです。泣く、咳をする、立つ・いきむなどで膨らみは大きくなり、横になると小さくなるか消失します。皮膚は通常正常で、日常的な痛みを訴えないことが多いです。
注意すべき合併症は、ヘルニア内容が戻らなくなる嵌頓や、血流が障害される絞扼です。強い痛み、吐き気・嘔吐、膨らみの硬化・発赤、発熱などを伴う場合は緊急受診が必要です。小児ではまれですが、成人では相対的にリスクが上がります。
膨らみに伴う皮膚の伸展や色素沈着、衛生面のトラブルが見られることがあります。大きなヘルニアでは衣服の圧迫による不快感や、体幹運動時の違和感・軽度の痛みを自覚する場合もあります。
自然経過で多くが改善する小児と異なり、成人では症状が軽度でも慢性的に持続しやすく、労作や体位で変動する鈍痛や違和感が生活の質に影響することがあります。
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原因・発生機序
小児では、臍帯が脱落した後に臍輪が結合組織と筋層で閉鎖していく過程が不十分な場合にヘルニア門が残存します。早産や低出生体重では組織成熟が未発達で、臍輪閉鎖が遅れやすいと考えられています。
成人では、妊娠・肥満・腹水・慢性咳嗽・便秘など腹圧を長期に押し上げる条件が加わり、もともとの臍部の弱点が拡大してヘルニアが出現します。結合組織の質的変化や白線の脆弱性も関与します。
発生学的には、胎生期に腸管が生理的臍ヘルニアとして一時的に腹腔外に出ますが、通常は戻って腹壁が閉鎖します。この過程や出生後の修復が不完全だと臍輪の弱さが残り、臍ヘルニアの素地となります。
組織学的には、コラーゲン線維の配列や量の変化が腹壁の強度に影響することが示唆されています。結合組織疾患(例:Ehlers-Danlos症候群)ではヘルニア全般のリスクが上がることが知られ、臍部も例外ではありません。
参考文献
診断と鑑別
診断は多くが視診・触診で可能です。立位や腹圧をかけた状態で膨らみが増大し、仰臥位で縮小する所見が典型で、還納の可否を確認します。必要に応じて超音波検査でヘルニア門の大きさや内容物を評価します。
鑑別として、臍部の皮下脂肪の局所膨隆、臍肉芽腫、腹壁の他のヘルニア(白線ヘルニア、上腹壁ヘルニア)、腹直筋離開などが挙げられます。皮膚病変が主である場合は皮膚科的評価が有用です。
成人で診断が不明瞭、または肥満で触診困難なときには、超音波やCTが有用です。嵌頓・絞扼が疑われるときは、緊急性を評価するため速やかな画像検査と外科コンサルトが推奨されます。
小児では経過観察が基本であるため、定期健診や小児科受診時にサイズの推移、還納性、皮膚の状態を確認します。保護者への注意点(嵌頓徴候、テーピングの非推奨など)の説明も重要です。
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治療と経過
小児では、ほとんどが自然閉鎖するため、無症状の臍ヘルニアは経過観察が第一選択です。生後1~2年で縮小し、4~5歳までに多くが閉鎖します。テーピングや圧迫は皮膚障害のリスクがあり推奨されません。
手術適応は、嵌頓・絞扼の疑い、皮膚合併症、非常に大きいヘルニア、学童以降も残存する場合などです。手術はヘルニア門の縫縮が基本で、成人ではサイズに応じてメッシュ補強が選択されます。
成人では自然閉鎖が見込みにくく、症状、サイズ、生活への影響、合併症リスクを考慮して待機的手術を検討します。術式には開腹法と腹腔鏡法があり、再発リスクや創部合併症、回復の速さなどで選択します。
日本では公的医療保険の適用があり、自己負担は年齢や所得で異なります。子ども医療費助成や高額療養費制度などの支援が利用でき、費用面の負担軽減が期待できます。
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