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膝の靭帯損傷

目次

定義と概要

膝の靭帯損傷は、膝関節を安定させる前十字靭帯(ACL)、後十字靭帯(PCL)、内側側副靭帯(MCL)、外側側副靭帯(LCL)などの線維組織に生じる伸び過ぎや部分断裂、完全断裂を指します。スポーツ中の急な停止や方向転換、転倒、交通外傷などで発生し、捻挫のような軽度障害から手術を要する断裂まで幅があります。

損傷の重症度は一般にGrade I(微小損傷)からGrade III(完全断裂)に分類され、単独損傷のほか多靭帯損傷として同時に複数の靭帯が損なわれる場合もあります。半月板損傷や骨挫傷、軟骨損傷を合併することも少なくありません。

初期対応としてはRICE(安静、冷却、圧迫、挙上)が推奨され、疼痛や腫脹のコントロールとともに適切な診断が重要です。治療は保存療法(装具、理学療法)と手術療法(再建術・修復術)があり、年齢、活動レベル、合併損傷などを踏まえ個別に選択します。

疫学的には、ジャンプや切り返しを多用する競技に多く、特に若年〜若年成人で発症が目立ちます。女性競技者では特定の状況で非接触性ACL損傷のリスクが男性より高いことが知られています。

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発生機序(メカニズム)

ACL損傷の多くは非接触性で、減速や着地、方向転換時に膝が軽度屈曲位で外反(ニーイン)と脛骨の内旋が同時に起こる状況で発生します。体幹の前傾や股関節のコントロール不良が関与し、瞬間的に靭帯へ過大な剪断力が加わります。

接触性外傷では相手や物体からの外力が膝に外反や回旋ストレスを加え、MCL損傷や半月板損傷を合併しやすくなります。PCLは膝屈曲位での脛骨後方への強い力(ダッシュボード外傷など)で損傷することがあります。

ビデオ解析研究では、受傷直後に膝の急激な外反モーメントと脛骨の内旋が観察され、わずかな時間内に損傷が起こることが示されています。これらは着地角度や足部の接地位置、筋の反応遅延と関連します。

予防の観点では、股関節外転筋・膝屈筋群の強化や、ジャンプ着地動作のトレーニングにより外反や過度な前方剪断力を抑制できることが介入研究で示されています。

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症状と診断の要点

典型的には受傷時に「ブチッ」という断裂音や感覚があり、直後から膝の痛みと腫れ(関節内血腫)が数時間以内に進行します。可動域は低下し、荷重困難や歩行障害を来すことがあります。

急性期を過ぎると不安定感(膝崩れ、giving way)が前景となり、日常の階段や方向転換で膝が抜ける感覚が出ます。反復すると二次的な半月板・軟骨損傷につながることがあります。

身体診察ではLachmanテスト、前方引き出しテスト、Pivot shiftテストが有用で、感度・特異度に関する系統的レビューで信頼性が示されています。急性期の痛みや筋緊張で判定が難しいこともあります。

画像診断ではMRIが靭帯断裂の確認、合併損傷の評価に有用です。X線は骨片(Segond骨折など)の評価に、超音波は補助的に用いられます。適切なタイミングでの整形外科受診が重要です。

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予防(一次予防)

神経筋トレーニング(着地動作のフィードバック、ハムストリング強化、体幹・股関節の安定化、バランス訓練)を週2〜3回、シーズンを通して実施するとACL損傷リスクが有意に低下します。

FIFA 11+やPEPなどの標準化プログラムは指導者が導入しやすく、女子青少年競技者で特に効果が大きいと報告されています。チーム単位での定着と遵守率の維持が鍵です。

メタアナリシスでは、適切な頻度・内容で実施した場合にACL損傷が30〜50%程度減少するとの推定があります。導入時はフォームの質と段階的負荷が重要です。

装具の一次予防効果は限定的で、特定状況や既往例での二次予防に有用な可能性があります。シューズ・グラウンド条件や疲労管理、試合・練習のスケジュール最適化もリスク低減に寄与します。

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治療の概略

保存療法は腫脹・疼痛の管理、可動域回復、筋力・神経筋制御の再獲得を目的に理学療法を中心に行います。活動性の低い方や部分断裂、安定性が保たれるケースでは有効な選択です。

手術療法の中心は前十字靭帯再建術で、自家腱(ハムストリング腱・膝蓋腱)や他家腱を移植して靭帯機能を再建します。早期修復術は限られた断裂形態で適応が検討されます。

術前リハビリで炎症を抑え関節可動域と筋力を整えること、術後は段階的な荷重・可動・筋力訓練を行い、競技復帰は機能評価と併せて総合的に判断します。単なる時間経過のみを基準にしないことが推奨されます。

ランダム化比較試験(KANON試験)では、若年活動的患者において構造化リハビリ+必要時遅延再建と早期再建の長期成績が同等である可能性が示され、意思決定の個別化の重要性が強調されました。

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