腹部のサイズ
目次
定義と測定
腹部のサイズは通常、腹囲(ウエスト周囲径)で評価され、内臓脂肪の蓄積を反映しやすい指標です。日本のメタボリックシンドローム診断では男性85cm、女性90cmが腹部肥満の基準とされます。
腹囲に加え、身長で補正するウエスト身長比(WHtR)や、腰回りとの比であるウエストヒップ比(WHR)も体脂肪分布の評価に用いられます。臨床や疫学研究では複数指標の併用が推奨されます。
内臓脂肪は皮下脂肪と異なり、門脈系を介して肝臓に遊離脂肪酸や炎症性因子が直接流入するため、代謝異常と強く関連します。CTでの内臓脂肪面積測定は精密ですが日常診療では腹囲が実用的です。
測定は立位で呼気終末、臍の高さ(または日本の基準点)で水平にメジャーを当て、皮膚を強く圧迫しないよう実施します。誤差を避けるため、同じ条件・同じ器具で反復測定することが大切です。
参考文献
疫学と健康リスク
腹部肥満は世界的に増加しており、メタボリックシンドロームの構成要素として2型糖尿病、脂質異常症、高血圧、心血管疾患の発症リスクを高めます。特に内臓脂肪型は心血管イベントと強く関係します。
日本では40〜74歳を対象とする特定健診で腹囲基準が導入され、該当者・予備群の把握と介入が進められています。男性では女性より若中年期から腹部肥満が多く、閉経後に女性の頻度も上昇します。
世界人口の約4分の1がメタボリックシンドロームに該当するとの推計があり、地域や人種、生活環境により有病率は大きく異なります。都市化や座位生活の増加が背景にあります。
腹部肥満は無症状のことが多い一方、睡眠時無呼吸、非アルコール性脂肪性肝疾患、痛風、変形性関節症などの多面的な健康問題とも関連し、健康寿命の短縮要因となり得ます。
参考文献
病態生理(発生機序)
過剰なエネルギー摂取と運動不足により内臓脂肪細胞が肥大・増殖し、脂肪組織の炎症が惹起されます。マクロファージ浸潤やサイトカイン産生が増加し、全身性のインスリン抵抗性に関与します。
門脈仮説では、内臓脂肪由来の遊離脂肪酸や炎症性メディエーターが門脈を通じて肝臓に流入し、肝脂肪蓄積、VLDL産生促進、脂質異常を引き起こすとされます。
内臓脂肪は内分泌臓器としてレプチン、アディポネクチン、レジスチンなどを分泌し、そのバランスの破綻が糖・脂質代謝、血管機能、凝固系を攪乱します。睡眠不足や慢性ストレスによるコルチゾール高値も腹部脂肪蓄積を助長します。
加齢や性ホルモン変化(閉経後のエストロゲン低下)は脂肪分布を中枢型へ偏位させます。腸内細菌叢やサーカディアンリズムの乱れも、エネルギー代謝と脂肪蓄積に影響することが示されています。
参考文献
遺伝と環境の寄与
双生児研究では腹囲やWHRの遺伝率は概ね30〜60%と報告され、体脂肪分布には中等度の遺伝的素因が示唆されます。一方、SNPに基づく推定遺伝率は10〜20%程度で、環境の影響も大きいと解釈されます。
ゲノムワイド関連解析(GWAS)では、WHRや腹部脂肪に関与する多数の座位が同定され、性差のある遺伝的効果も報告されています。代表的にはTBX15-WARS2、LYPLAL1、RSPO3、VEGFAなどが挙げられます。
食行動や報酬系に関わるFTO、MC4R、TMEM18などのバリアントは、体重や脂肪分布を通じて腹部のサイズに影響し得ます。ただし個々の効果は小さく、累積的・多因子的です。
遺伝と環境は相互作用し、食環境、身体活動、睡眠、ストレス、アルコールなどの要因が遺伝素因の表現型を修飾します。予防・介入は環境要因の是正が中心となります。
参考文献
予防・診断・治療
一次予防は、エネルギー収支の適正化(食事の質・量の改善)と、週150〜300分の中強度有酸素運動+週2〜3回のレジスタンス運動が柱です。十分な睡眠とアルコールの節制、禁煙も重要です。
スクリーニングは腹囲・BMIの定期測定と、血圧・血糖・脂質の検査を組み合わせます。日本では特定健診・保健指導が制度化され、早期発見と生活習慣介入の機会が提供されています。
薬物療法は肥満症に適応のある薬剤(例:GLP-1受容体作動薬等)を、合併症とリスクを評価しつつ専門医の管理下で検討します。重症例では減量・代謝改善手術が有効で、日本でも保険適用があります。
費用面では特定健診は保険者により原則無料または低負担で受診可能です。手術は高額療養費制度の対象となり、自己負担の上限が設けられています。地域の保健指導や教室の活用も推奨されます。
参考文献

