腰のくびれ(ウエスト/ヒップ比)
目次
定義と意義
ウエスト/ヒップ比(waist-to-hip ratio: WHR)は、腰回り(最小部)の周径をヒップ(殿部最大囲)の周径で割った値で、いわゆる「腰のくびれ」の度合いを数量化します。体重や身長に依存しにくく、体脂肪の分布様式—腹部(内臓脂肪・腹部皮下脂肪)と臀・大腿部(臀大腿皮下脂肪)—の偏りを反映するのが特長です。
WHRは肥満度の代表指標であるBMIと相補的な情報を提供します。BMIが同じでも、腹部優位に脂肪が蓄積した人はWHRが高く、臀大腿部優位に蓄積した人はWHRが低くなります。この違いは代謝リスクの差につながるため、臨床・疫学で重視されています。
疫学研究では、WHRの高さが心血管疾患、2型糖尿病、全死亡のリスクと強く関連します。特に同じBMIの中でのリスク層別化能力に優れ、健康診断での追加指標として推奨されます。
一方で、文化的・審美的に語られる「くびれ」と、医療・公衆衛生でのWHRは目的が異なります。健康指標として利用する際は、見た目ではなく、標準化された測定法とカットオフを用いることが重要です。
参考文献
- WHO: Waist Circumference and Waist-Hip Ratio (2011)
- Harvard T.H. Chan – Abdominal Obesity and Health
測定方法と基準値
ウエストは通常、下位肋骨と腸骨稜の中点で、軽く息を吐いた状態で柔らかいメジャーを水平に回して測定します。ヒップは殿部の最も広い部分を水平に測定します。衣類を薄くし、メジャーを皮膚に食い込ませないことが再現性向上に重要です。
WHOは、WHRの健康リスク評価において、男性>0.90、女性>0.85を腹部肥満の目安として提示しています。ただし人種・民族や年齢で最適な閾値が異なる可能性があり、地域のガイドラインも参照が必要です。
測定誤差を減らすため、同一の測定者・手順・時間帯での繰り返し測定が推奨されます。食後や運動直後は一時的な変動があり得るため避けます。
ウエスト周囲径単独の指標も広く使われますが、身長や骨盤幅の影響をより打ち消せる点でWHRは有用です。両者を併用し、個人の体格・背景を踏まえて解釈するのが実務的です。
参考文献
遺伝と環境の寄与
WHRは遺伝と環境の双方の影響を受けます。双生児・家系研究から遺伝率(表現型の個人差のうち遺伝要因が占める割合)は中等度とされ、個々人の違いの多くは生活環境・行動要因で説明されます。
ゲノムワイド関連解析(GWAS)では、WHR(特にBMIで補正したWHRadjBMI)に関連する数百の遺伝子座が同定され、女性で効果が強い座位が多いなど明確な性差が示されています。SNPベースの遺伝率は概ね20%前後と推定されます。
環境要因としては、摂取エネルギーと食質、身体活動・レジスタンストレーニング、喫煙、飲酒、睡眠不足、ストレス、女性の更年期や加齢に伴うホルモン変化などが脂肪分布を通じてWHRに影響します。
したがって集団レベルでは、遺伝3〜6割・環境4〜7割程度の幅で寄与すると総括できますが、これは研究デザインや集団により変動します。個人レベルでは生活の工夫によりWHRを改善できる余地が大きい点が重要です。
参考文献
- Pulit et al. Meta-analysis of GWAS for body fat distribution (Nat Genet 2019)
- Shungin et al. New genetic loci link adipose and insulin biology (Nature 2015)
- Harvard T.H. Chan – Abdominal Obesity and Health
生物学的機序(性ホルモンと脂肪分布)
WHRは主に脂肪組織の分布—腹部(特に内臓脂肪)と臀・大腿部皮下脂肪—の相対量を反映します。内臓脂肪は門脈を介し肝臓へ遊離脂肪酸や炎症性サイトカインを供給し、インスリン抵抗性や動脈硬化を促進します。
エストロゲンは臀大腿部への脂肪蓄積を促し、閉経後にはその保護的効果が低下して腹部脂肪が増えやすくなります。アンドロゲンや副腎ホルモン、成長ホルモン軸も脂肪細胞の分化・リモデリングに関与します。
脂肪組織は部位ごとに前駆脂肪細胞の性質や遺伝子発現(例:HOXクラスター、TBX15など)が異なり、これが個体差や性差の基盤になります。
これらの機序が合わさり、WHRが高いほど代謝疾患リスクが高いという疫学的関連が説明されます。機構的理解は、予防・介入の標的探索にもつながります。
参考文献
- Manolopoulos et al. Gluteofemoral body fat and metabolic health (J Lipid Res 2010)
- Karastergiou & Fried. Sex differences in human adipose tissue (Obes Rev 2012)
- Lovejoy. The menopause transition and body composition (Am J Clin Nutr 2008)
健康リスクと予防・管理
WHRは心筋梗塞、脳卒中、2型糖尿病、全死亡などのリスクと独立に関連し、特にBMIが同程度の人の中でのリスク層別化に有用です。臨床や健診での簡便な指標として価値があります。
予防・管理では、総エネルギー制限に加え、地中海食や高品質たんぱく・食物繊維の増加が腹部脂肪の低減に寄与します。反対に過度のアルコールや超加工食品は腹部脂肪を増やし得ます。
運動は有酸素運動150–300分/週と筋力トレーニング2日/週が推奨され、内臓脂肪低減とWHR改善に効果があります。禁煙、十分な睡眠、ストレス対処も重要です。
自宅での定期測定と記録、ウェアラブルの活用、専門職との相談は、行動変容を支えます。体重だけでなくWHRやウエスト周囲径を併せて追うことが実践的です。
参考文献

