脳卒中
目次
脳卒中とは
脳卒中は、脳の血管が詰まる、もしくは破れることで脳の一部に血流が届かなくなり、神経細胞が障害される病気の総称です。脳梗塞、脳出血、くも膜下出血の三つが主な病型で、それぞれ原因と治療が異なります。
脳は酸素とブドウ糖を絶えず必要とするため、数分の血流遮断でも不可逆的な障害が生じます。この時間依存性の性質から、脳卒中は救急医療において最も迅速な対応が求められる疾患の一つです。
世界的には心血管疾患群の主要構成要素であり、死亡と障害の大きな原因です。加齢とともに罹患率が高まりますが、若年者にも起こり得ます。生活習慣や基礎疾患、遺伝など多因子の相互作用で発症します。
近年は救急搬送体制の整備、血栓回収療法の普及、リハビリテーションの強化により、機能予後の改善が進んでいます。一方で高齢化に伴い患者数の負担はなお大きく、予防と早期対応が重要です。
参考文献
- WHO Stroke fact sheet
- 日本脳卒中学会 脳卒中ガイドライン
- AHA/ASA Guidelines for Early Management of Acute Ischemic Stroke (2019 update)
主な症状と見分け方
典型的な症状は、顔面や手足の片側の麻痺・しびれ、言葉が出ない・ろれつが回らない、片目の視力障害、激しい頭痛、ふらつきや失調などです。症状は突然発症することが特徴です。
一般向けの迅速な見分け方としてFAST(Face, Arm, Speech, Time)、あるいは後頭蓋窩症状を含めたBE-FAST(Balance, Eyes を追加)が推奨されます。異常を認めたら直ちに救急要請が必要です。
発作が短時間で消える一過性脳虚血発作(TIA)も重要です。TIAは本格的な脳梗塞の前触れで、48時間以内の再発リスクが高く、救急受診と早期の原因精査が予後を左右します。
高齢者や失語のある患者では本人の訴えが難しく、周囲の気づきが鍵になります。発症時刻の特定(ラストノーンウェル)も治療適応に直結するため、同伴者の情報提供が重要です。
参考文献
発生機序(虚血性・出血性)
脳梗塞は動脈硬化による血栓形成(アテローム血栓性)、心房細動などに由来する塞栓(心原性塞栓症)、細い穿通枝の閉塞(ラクナ梗塞)などで生じます。いずれも動脈の閉塞により虚血が起こります。
虚血部位の周辺には、まだ可逆的な障害にとどまる虚血半暗帯が存在します。時間を争う再灌流治療はこの半暗帯を救うことを目的としており、治療遅延は救える脳の減少に直結します。
脳出血は高血圧で脆弱化した穿通枝の破綻、アミロイドアンギオパチー、抗凝固療法関連出血などが原因です。くも膜下出血は脳動脈瘤の破裂が主因で、急激な頭痛と致死率の高さが特徴です。
微小出血や白質病変などの小血管病の所見は、将来の出血性・虚血性イベント双方のリスクと関連します。画像診断ではCTが迅速鑑別、MRIが病型や病態の精査に有用です。
参考文献
危険因子(遺伝・環境)と寄与割合
脳卒中のリスクは多因子性で、加齢、高血圧、糖尿病、脂質異常症、喫煙、心房細動、肥満、運動不足、過量飲酒、睡眠時無呼吸などの環境要因が大きく寄与します。最も強固な修飾可能因子は高血圧です。
遺伝の寄与(遺伝率)は病型や集団により異なりますが、おおむね20〜40%と報告されています。残りの大半は環境・生活習慣や基礎疾患の管理状況によって説明されます。
単一遺伝子異常が原因の稀な脳卒中(例:NOTCH3変異のCADASIL、HTRA1変異のCARASIL、COL4A1/2関連血管病)では家族性の早発例が目立ちます。
一方、一般的な脳卒中は多くの遺伝子の小さな効果が重なる多因子性で、HDAC9、PITX2、ZFHX3、ABO、LPAなどの多型が病型別に関連し、ポリジェニックリスクスコアの研究も進んでいます。
参考文献
診断と急性期治療
発症直後はCTで出血の有無を鑑別し、必要に応じてMRI・MRAで血管閉塞や虚血範囲を評価します。心電図で心房細動を確認し、血液検査で出血リスクや代謝異常を把握します。
虚血性脳卒中では、発症4.5時間以内にアルテプラーゼによる静注血栓溶解療法(tPA)が適応となり得ます。また、大血管閉塞例では6〜24時間まで選択基準下で機械的血栓回収療法が有効です。
出血性では血圧管理、抗凝固薬の拮抗、脳浮腫対策、必要に応じて動脈瘤クリッピングやコイル塞栓術、血腫除去術を検討します。全病型で早期からのリハビリが機能予後改善に重要です。
二次予防として、抗血小板薬や抗凝固薬、スタチン、血圧・糖代謝の管理、喫煙中止、生活習慣介入が基本です。原因病態に応じて頸動脈内膜剥離術やステントも選択肢になります。
参考文献
予防と早期発見
一次予防の柱は高血圧対策で、家庭血圧の継続測定と減塩、適正体重、運動、禁煙、節酒、バランスのよい食事が基本です。糖尿病・脂質異常症の治療も厳格に行います。
心房細動のスクリーニングは高齢者で重要です。脈の不整に気づいたら受診し、必要に応じてホルター心電図やウェアラブルでの検出も活用します。リスク評価に基づき抗凝固療法を導入します。
頸動脈狭窄や睡眠時無呼吸などの高リスク病態は、専門医の評価と治療が再発予防に寄与します。TIAは緊急疾患であり、発作後速やかな受診と原因精査が必須です。
市民向けにはBE-FASTの普及と、症状出現時の早期通報(119番)が最も重要です。発症時刻の把握や内服歴の情報提供は治療適応を広げ、救える脳を増やします。
参考文献
疫学(世界と日本)
世界では毎年数千万人規模が脳卒中を発症し、多くが死亡または長期の障害を残します。人口の高齢化と危険因子の蔓延が負担を押し上げていますが、管理の改善で年齢調整死亡率は一部で低下しています。
日本では年間およそ数十万人が新規発症し、要介護の主要原因です。高血圧や糖尿病の管理改善で死亡率は長期的に低下しましたが、高齢化に伴う患者総数の増加が課題です。
男女差として、罹患率は一般に男性で高めですが、寿命が長い女性では生涯リスクや重症例の比率が高くなる傾向もあります。年齢が上がるほど発症率は指数関数的に増加します。
地域差もみられ、食塩摂取や医療アクセス、社会経済状況が影響します。精度の高い登録や救急搬送体制の整備は、地域全体の転帰改善に結びつきます。
参考文献

