脳前動脈の閉塞と狭窄
目次
概要
脳前動脈(ACA)は前大脳動脈と訳され、前頭葉・頭頂葉の内側面、帯状回、脳梁の前方などに血流を供給しています。ACAが狭窄あるいは閉塞すると、その支配領域に虚血が生じ、下肢優位の片麻痺や感覚障害、発動性の低下(アブリア)、尿失禁、把握反射の出現など、特徴的な神経症状をきたします。
ACA領域梗塞は全虚血性脳卒中のうち比較的まれで、0.5〜3%程度と報告されます。機序は内頚動脈系・ウィリス動脈輪からの塞栓、ACA起始部やA2以遠の粥状動脈硬化、頚動脈解離や稀な血管炎、そして東アジアで頻度が高いもやもや病など多様です。
診断には拡散強調MRIでの急性梗塞検出、MRA/CTAでの血管狭窄・閉塞の描出、必要に応じ経頭蓋ドプラや脳血管造影が用いられます。急性期は再灌流療法の適応判断が重要で、慢性期は再発予防と機能回復を目指した包括的管理が中心となります。
治療は時間依存性が高く、発症早期のrt-PA静注や、近位の大血管閉塞が疑われる場合の機械的血栓回収が検討されます。ACAはしばしば遠位枝閉塞であり、血栓回収は症例選択が必要です。内頚〜遠位ACAの動脈硬化性狭窄では抗血小板薬と危険因子是正が基本で、ステント治療は限定的に行われます。
参考文献
症状
ACA閉塞・狭窄の症状は、対側下肢優位の運動・感覚障害が典型です。中心前回・中心後回の内側面が灌流低下すると足に強い麻痺やしびれが出ます。広範に及ぶと体幹や上肢にも波及し得ますが、手より足で強いのが特徴です。
帯状回・前頭葉内側の虚血は自発性の低下、アブリア、注意・実行機能障害、感情の平板化として表れます。優位半球前部では超皮質性運動失語、脳梁前部障害では離断症候群(左手失書など)もみられます。
補足運動野の虚血は無言・運動開始困難、前頭葉内側の損傷は把握反射や模倣反射の解放、両側障害では無動無言(akinetic mutism)に至ることもあります。前大脳動脈と中大脳動脈境界領域の虚血で混合像を呈する場合もあります。
急性発症の尿失禁は前頭葉内側の膀胱抑制経路の障害を反映します。右半球病変では病識低下や注意障害が強く、転倒リスクが高まります。これらの症状は病変部位と広がりで異なり、画像と神経学的所見の突合が重要です。
参考文献
- Anterior Cerebral Artery Stroke - StatPearls
- Bogousslavsky et al. Anterior cerebral artery territory infarction
発生機序
ACA領域虚血の機序には、①心原性・動脈原性塞栓が遠位ACAに飛ぶパターン、②ACA起始部〜A2の粥状動脈硬化性狭窄・プラーク破綻、③頚動脈解離からの塞栓、④もやもや病や血管炎などの非動脈硬化性狭窄が含まれます。
東アジアでは頭蓋内動脈硬化(ICAS)の頻度が高く、内頚終末部〜中大脳・前大脳動脈近位の狭窄が比較的多いことが知られています。高血圧、糖尿病、喫煙、脂質異常、メタボリックシンドロームが粥状硬化の主要因です。
もやもや病は内頚終末部〜前・中大脳動脈近位の進行性狭窄と側副血行の異常増生を特徴とし、日本人での頻度が高い疾患です。RNF213遺伝子変異が強く関連し、家族歴を伴う若年例ではACA系の狭窄が原因となることがあります。
微小塞栓が反復すると無症候性ラクナや白質病変が進行し、遂行機能低下を助長します。境界領域の低灌流は脱水・降圧過多などで悪化しやすく、急性期管理では血圧・体液管理が重要です。
参考文献
治療
超急性期には発症時間と画像で適応を判断し、4.5時間以内でrt-PA静注、選択例でテネクテプラーゼも選択肢です。前循環大血管閉塞では機械的血栓回収が推奨されますが、遠位ACAは解剖学的に到達性・リスクを勘案して個別判断となります。
頭蓋内動脈硬化によるACA狭窄では、アスピリン+クロピドグレルの短期二剤併用(例:90日)と高強度スタチン、厳格な危険因子管理が再発予防の中心です。SAMMPRIS試験は、侵襲的ステント留置よりも集約的内科治療の優越性を示しました。
もやもや病に伴う虚血は禁煙・抗血小板薬・血圧管理に加え、症候性かつ血行力学的に脆弱な場合は間接・直接血行再建術が検討されます。理学・作業・言語療法を含む早期リハビリは機能回復を促進します。
二次予防では、長期の抗血小板単剤、スタチン、血圧・糖代謝・脂質の最適化、心房細動があれば抗凝固療法が柱です。睡眠時無呼吸や飲酒・喫煙の是正も再発低減に寄与します。
参考文献
予防と早期発見
一次予防の中心は高血圧の厳格管理、禁煙、適正体重の維持、運動習慣、糖尿病・脂質異常のコントロール、減塩と地中海食に近い食事です。これらは頭蓋内動脈硬化の進展を抑制します。
心房細動のスクリーニング(脈の自己チェックや家庭用機器、必要時ホルター心電図)は塞栓性脳梗塞の予防に有用です。もやもや病や早発性脳卒中の家族歴がある場合は、症状がなくてもMRAなどの評価が推奨されるケースがあります。
急性発症の対側下肢優位の脱力やしびれ、言葉が出にくい、急な尿失禁・無関心などはACA領域の警戒サインです。発症時刻を確認し、直ちに救急要請してrt-PAや血栓回収のチャンスを逃さないことが重要です。
無症候の頭蓋内狭窄は人間ドックのMRAで見つかることがありますが、過剰診断・過剰治療を避け、個々のリスクに応じてフォローと生活改善を組み合わせることが推奨されます。
参考文献

