脱毛症タイプ1
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概要
「脱毛症タイプ1」は、臨床現場の病型分類というより、遺伝学データベースで用いられる表記で、主に円形脱毛症(Alopecia areata, AA)の感受性座位1(AA1:HLA領域)を指す用語として解釈されます。自己免疫が毛包を標的とし、斑状の脱毛を起こす疾患群の遺伝的リスクの“第一”の座位という意味合いです。
AAでは免疫関連遺伝子の多型が複合的にリスクを高めますが、AA1はヒト白血球抗原(HLA)クラスII領域に位置し、抗原提示の個人差が疾患の発症感受性に強く関わることを示しています。これは疾患の自己免疫性を裏付ける重要な発見でした。
ただし「タイプ1」という語は医療機関での診断名や重症度分類ではありません。患者さん個々の診断や治療方針は臨床像(脱毛の範囲、活動性、併存疾患など)で決まり、この遺伝的ラベルが直接の治療選択になるわけではありません。
同時に、AAは自然に再生することもある可逆性の疾患で、遺伝素因に加えて環境因子(感染、ストレス、薬剤、機械的刺激など)が重なって発症・再燃します。遺伝学的理解は、病因解明と新規治療標的の探索に寄与してきました。
参考文献
- OMIM: Alopecia Areata, Susceptibility To, 1; AA1
- GARD/NIH: Alopecia Areata
- MedlinePlus Genetics: Alopecia areata
遺伝と環境の比率
双生児研究や家族研究では、円形脱毛症の遺伝率は概ね40〜60%と推定され、残りは環境因子の影響と解釈されます。完全に決定的な数値ではなく、集団や解析方法により幅がありますが、遺伝と環境がほぼ拮抗すると理解すると実臨床と整合的です。
一卵性双生児の一致率が二卵性より高いことは遺伝要因の強さを示しますが、完全一致ではないため環境の寄与も大きいことが分かります。感染やストレス、自己免疫の活性化、微小な皮膚炎症などが引き金になり得ます。
また、ポリジェニック(多遺伝子)な素因の上に外的要因が重なる「閾値モデル」で説明されます。個々のSNPは小さな効果しか持たず、累積してリスクが上がるため、生活習慣や併存疾患管理が発症・再燃リスクを左右します。
したがって「遺伝50%:環境50%前後」という実務上の目安は有用ですが、個々人ではこの比率が前後し得ます。家族歴がなくても発症する人が多いことも、この二元性を裏づけています。
参考文献
- Petukhova et al., Genome-wide association study in alopecia areata, Science (2010)
- Gilhar et al., Alopecia Areata, N Engl J Med (2012)
意味・解釈
「タイプ1」は重症度や臨床型(全頭型・普発型など)を示す記号ではなく、最初に強い関連が見つかった感受性座位(HLAクラスII)を表す遺伝学的ラベルです。したがって、患者さんに“タイプ1です”と告げる診断語ではありません。
この表記は主にOMIMのような遺伝学カタログに由来し、以後に発見された他の感受性座位(例:ULBP3、IL2/IL21、CTLA4、PTPN22など)と区別するための便宜的な番号付けです。
臨床の場では、斑状型、全頭型、普発型、びまん型といった病型、活動性(黒点毛・感受性毛など)、爪病変や自己免疫疾患の併存の有無が治療選択と予後推定により直結します。
一方で、この遺伝学的枠組みは病態理解(抗原提示、T細胞活性化、JAK-STAT経路)を深め、新規治療(JAK阻害薬など)開発の理論基盤を提供しました。研究と臨床は相補的に進歩しています。
参考文献
- OMIM overview on AA susceptibility loci
- Clynick et al., Advances in alopecia areata pathogenesis, J Invest Dermatol (Review)
関与遺伝子と変異
AA1はHLA-DRB1/DQA1/DQB1などクラスII遺伝子座のハプロタイプと強く関連します。これらは“変異”というより頻度の高い多型(SNP)やハプロタイプ差で、抗原提示の特性差を通じてリスクに影響します。
GWASではHLA以外にもIL2/IL21領域、CTLA4、PTPN22、Eos関連、NKG2DリガンドであるULBP3など免疫調節に関わる座位が同定され、自己免疫疾患と共有する回路が可視化されました。
各座位の効果量は小さく、単独での予測力は限定的です。ポリジェニックスコアは研究段階で、臨床診断や予後予測に直接使うには検証が不十分です。あくまで病態解明と創薬標的探索が主な用途です。
また、家族性の先天性乏毛症や先天性無毛症のようなモノジェニック疾患(HR, DSG4, LIPHなど)とは異なり、AAは多因子性です。「タイプ1」をモノジェニック変異と混同しないことが重要です。
参考文献
- Petukhova et al., Science (2010)
- Johnston et al., Genome-wide association meta-analysis in AA, Nat Commun (2016)
- MedlinePlus Genetics: Alopecia areata (genes)
その他の知識
病態の免疫回路理解から、JAK阻害薬が有望視され、バリシチニブの大規模第III相試験が有効性を示し、米国では2022年に重度円形脱毛症で承認されました。日本でも適応が拡大し、選択肢が増えています。
従来療法には局所・全身ステロイド、局所免疫療法、外用ミノキシジルなどがあり、年齢、病型、活動性で選択します。再発は珍しくなく、長期のフォローと副作用管理が重要です。
自己免疫疾患の併存(甲状腺疾患、アトピー、ビチラゴなど)の評価は治療計画に役立ちます。心理的負担が大きいため、説明とサポート、カムフラージュやウィッグなどの実用的支援も大切です。
研究面では、HLAと自己抗原の特定、レジデントメモリーT細胞、毛包免疫特権の破綻などが注目領域です。バイオマーカーや個別化治療の確立が今後の課題です。
参考文献

