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脂漏性角化症

目次

定義と疫学の概要

脂漏性角化症(seborrhoeic/seborrheic keratosis, SK)は、主として中高年以降に出現する良性の表皮性腫瘍で、角化を伴う「貼り付いたような」外観が特徴です。単発から多数発まで幅があり、体幹や顔、頭部などの被日部・非被日部のいずれにもみられます。悪性化は極めてまれで、基本的には美容的・機械的な問題を生じるときに治療対象となります。

世界的に非常に頻度が高く、年齢とともに有病率が増加します。多くの疫学報告で、成人後期には大多数が少なくとも1個の病変を有するとされ、日本を含め人種差は小さいものの、皮膚タイプや日光曝露の程度により出現数には個人差があります。

臨床的に重要なのは、悪性黒色腫や日光角化症、基底細胞癌、扁平上皮癌などの悪性・前がん病変との鑑別です。特に高齢者で新たに急速に多発する場合は、内臓悪性腫瘍に関連するLeser–Trélat徴候を念頭に置く必要があります。

患者教育としては、無症候であれば経過観察が可能であること、しかし形状や色調が急に変化したり、出血・潰瘍・強い掻痒を伴う場合は医療機関で評価を受けることが推奨されます。

参考文献

症状・臨床像

病変は淡褐色から黒色の扁平~隆起性の疣状丘疹・局面で、表面はワックス様・疣贅状・鱗屑性で、角栓や偽囊腫(horn cyst, milia-like cyst)がみられます。指で触れるとざらつきがあり、皮膚に「貼り付いた」ように見えるのが典型です。

部位は顔、頭皮、体幹、四肢近位部に多く、摩擦部位で刺激性変化(紅斑、痂皮、出血、瘙痒)を伴う「irritated SK」となることがあります。通常は無症状ですが、審美的な悩みや引っかかりによる不快感で受診されます。

ダーモスコピーでは、脳回様溝、偽毛包開口、ミリア様嚢胞、蛾に食われたような境界(moth-eaten borders)などが特徴所見です。これらは悪性黒色腫や基底細胞癌との鑑別に有用です。

病理組織では、過角化、表皮肥厚(アカントーシス)、乳頭腫症、角質嚢胞(horn cyst)を認め、亜型としてアカントーシス型、網状型、クローナル型、扁平型などに分けられます。

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発生機序と遺伝学的背景

SKは表皮ケラチノサイトの良性クローン性増殖で、RAS/MAPKやPI3K/AKT経路の活性化が中心的役割を果たすと考えられています。体細胞変異としてFGFR3、PIK3CA、HRAS/KRAS、EGFR、TERTプロモーターなどの変化が高頻度に同定されています。

これらの変異は病変内の体細胞変化であり、通常は遺伝形式で親から子に受け継がれるものではありません。したがって家族性素因は限定的で、一般集団での遺伝率は確立していません。

紫外線や加齢に伴うゲノム損傷・エピジェネティック変化が、こうしたシグナル経路活性化と組み合わさり、ゆっくりとした腫瘍形成に寄与すると推測されます。ヒトパピローマウイルスの関与は一部報告があるものの、現在のところ一貫した因果関係は支持されていません。

突然多数が出現するLeser–Trélat徴候は、腫瘍随伴現象として腫瘍由来増殖因子などの関与が示唆されていますが、真の因果関係や頻度は限定的で、鑑別診断と全身検索が重要です。

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診断・鑑別と検査

多くは視診と触診、ダーモスコピーで臨床診断が可能です。非典型的所見、急速な増大、色調の多様性、潰瘍や出血を伴う場合には、生検・切除による病理組織学的評価が推奨されます。

鑑別には、日光角化症、脂漏性角化症に類似する良性病変(ソラルレントigo、皮脂腺増殖)、悪性病変(基底細胞癌、扁平上皮癌、悪性黒色腫)などが含まれます。ダーモスコピー所見は鑑別精度の向上に寄与します。

患者自身の観察では、ABCDEルール(特に非対称性や境界不整、色の不均一)や「新しく出た・急に増えた・変化した」サインに注意し、該当すれば早めに皮膚科受診を行います。

Leser–Trélatが疑われる場合や全身症状がある場合には、年齢やリスクに応じた癌スクリーニングを検討します。これはSK自体の検査ではなく、関連の可能性がある基礎疾患の評価です。

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治療・予後・生活上の注意

無症候で典型的な病変は治療不要です。審美的理由や刺激症状、鑑別のための病理評価が必要な場合に治療します。局所治療の選択肢には、液体窒素凍結、掻爬・シェービング+電気凝固、CO2/Er

、米国で承認された過酸化水素40%外用(Eskata, 一部市場撤退)などがあります。

色素沈着・色素脱失や瘢痕のリスクは皮膚タイプにより異なり、色黒の方では慎重な出力設定や術式選択が重要です。多数病変の場合は数回に分けて治療を行うことが一般的です。

予後は良好で、切除部位の再発は少ないものの、別の場所から新規病変が生じることはよくあります。原因疾患の治療が必要なケース(Leser–Trélat疑い)では、原疾患の管理が優先されます。

生活上は、日光曝露を減らす紫外線対策、摩擦の回避、皮膚の保湿が推奨されます。完全な予防法はありませんが、これらが新規出現や刺激症状の軽減に役立つ可能性があります。

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