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胎盤成長因子(PlGF)血清濃度

目次

定義と基礎知識

胎盤成長因子(placental growth factor: PlGF)は、血管内皮増殖因子(VEGF)ファミリーに属するサイトカインで、主に胎盤の絨毛細胞や血管内皮で産生され、受容体VEGFR-1(Flt-1)に結合して血管新生や血管の成熟を調節します。妊娠していない成人では血中濃度はきわめて低値か測定限界以下ですが、妊娠とともに上昇し、とくに第二三半期から後半にかけて生理的に高値となることが知られています。

PlGFは単独で作用するだけでなく、VEGF-Aのシグナルを修飾し、胎盤血流の確保や胎児発育に関わる重要な生理学的役割を担います。胎盤機能が障害される病態(子癇前症、胎児発育不全など)では、可溶性VEGFR-1(sFlt-1)の上昇によりPlGFの生物学的利用可能性が低下し、循環血中のPlGF濃度そのものも低下することが一般的です。

臨床では、PlGF単独、またはsFlt-1/PlGF比を用いた検査が、妊娠20~34+6週の「子癇前症疑い」の診断補助や短期予後予測に用いられます。国際的なガイドライン(NICEなど)はPlGFベースの検査を、除外診断やトリアージの一助として推奨しており、結果は妊娠週数に依存する基準で解釈されます。

PlGFの測定は免疫学的サンドイッチ法(ELISA、化学発光免疫測定、蛍光免疫測定、ラテラルフローによる迅速検査など)で行われ、測定系やキャリブレーションが異なるため、施設・アッセイ固有の基準範囲と妊娠週数補正(MoM)に基づく解釈が不可欠です。

参考文献

臨床的意義と適応

PlGFは「胎盤由来の血管新生シグナルの指標」として、子癇前症(高血圧と臓器障害を特徴とする妊娠特異的疾患)や胎児発育不全のリスク評価に役立ちます。PlGFが低値であることは、胎盤の形成や灌流が不十分である可能性を示し、短期間の有害転帰(入院、分娩介入、母体合併症など)の予測に一定の性能を示します。

とくに妊娠20~34+6週の子癇前症疑い症例では、PlGF単独やsFlt-1/PlGF比の測定が推奨され、陰性的中率が高いことから「除外」に有用とされます。NICEはPlGFベースの検査が入院や不要な介入の削減、医療資源の適正化につながる可能性を示すエビデンスを整理しています。

一方で、PlGFは単独で最終診断を確定する検査ではありません。母体の血圧測定、尿蛋白、肝腎機能、血小板数、胎児の発育評価やドプラ検査などと組み合わせ、総合的に判断することが重要です。

妊娠初期のスクリーニングでは、母体因子補正を行ったPlGF(MoM)がアルゴリズムの一部として用いられ、低用量アスピリンの予防投与対象を選別する取り組みも行われています。ただしこれは地域や施設のプロトコルによって運用が異なります。

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基準値・解釈と限界

PlGFの血清(または血漿)濃度は妊娠週数に大きく依存し、第一三半期に低く、第二三半期で上昇し、後期にはやや低下傾向を示す「曲線」を描きます。このため絶対値ではなく、週数別の基準範囲やMoMを用いた相対評価が一般的です。非妊娠時は多くのアッセイで測定限界近傍です。

PlGFが基準の下位パーセンタイル(例:5パーセンタイル未満)に入る、あるいは特定のカットオフ(検査系依存、例として100 pg/mL未満など)より低い場合、子癇前症や胎盤機能不全の可能性が高まります。逆に十分なPlGFは短期的な有害転帰のリスクが低いことを示唆しますが、将来リスクをゼロにはしません。

解釈の際は、測定法の違い、前処理(血清と血漿)、生物学的ばらつき(喫煙、体格、年齢、多胎、糖尿病など)の影響を考慮します。これらはMoM補正で取り込まれることが多いものの、完全には補正できません。

PlGFは病態生理の一側面を捉えるバイオマーカーです。結果は臨床症状・所見、他の検査(sFlt-1、血圧、尿蛋白、肝腎機能、胎児超音波)と統合して、継続的に再評価することが重要です。

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測定法と分析学的ポイント

PlGF測定は二重抗体サンドイッチ免疫測定が基本です。捕捉抗体がPlGFを固相に捕捉し、別の検出抗体が結合、酵素反応や化学発光・蛍光でシグナル化して定量します。標準物質による校正曲線から濃度を算出します。

プラットフォームにはELISA(研究向け)、自動化化学発光測定(Roche Elecsysなど)、蛍光免疫測定(Kryptorなど)、ラテラルフロー型の迅速定性・半定量(救急・ベッドサイド向け)があります。各系で測定範囲、精度、カットオフ、妊娠週数別の参照域が異なるため、同一アッセイでの追跡が望ましいです。

分析の誤差要因として、試料の種類(血清/血漿)、前処理・保存、ヘモリシスやリピーム、ヘテロフィル抗体による干渉、プロゾーン効果などが挙げられます。報告値の信頼性は内部精度管理と外部精度管理(EQA)で担保します。

臨床現場では、測定の周回時間(TAT)やアベイラビリティも重要です。PlGF単独検査は迅速なトリアージに、sFlt‑1/PlGF比はより病態生理に直結した情報を与えますが、施設の運用やコストに応じて選択されます。

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生物学的役割と関連疾患

PlGFは胎盤の血管新生を促進し、母体子宮動脈からの血流を確保する役割を果たします。VEGFR‑1を介して単球・マクロファージ機能や炎症応答の調整にも関与し、妊娠以外の病態(虚血、腫瘍、網膜疾患)でも発現動態が変動します。

子癇前症では胎盤虚血・酸化ストレスによりsFlt‑1が過剰産生され、PlGFの自由型が減少し、血中PlGFが低下します。このアンジオジェニック・アンバランスが内皮障害を惹起し、臨床症状へつながると考えられています。

胎児発育不全や胎盤早期機能不全でもPlGF低値がみられることがあり、ドプラ血流異常や発育遅延と併せて評価されます。多胎妊娠や喫煙、母体BMIなどはPlGFに影響するため、解釈には補正が必要です。

非妊娠時のPlGFは通常低値ですが、虚血や炎症、腫瘍微小環境で上昇することがあり、研究領域では治療標的としての検討も行われています。ただし、一般診療での用途は主に妊娠関連に限られます。

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