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胆嚢癌

目次

胆嚢癌の基礎知識

胆嚢癌は、肝臓の下にある小さな臓器である胆嚢から発生する悪性腫瘍です。早期は無症状のことが多く、胆石症や胆嚢炎の治療中や画像検査で偶然見つかることも少なくありません。進行すると黄疸や腹痛、体重減少などが現れます。地域差が大きく、南米や南アジアの一部で罹患率が高いことが知られています。

病理学的には腺癌が大半を占め、稀に扁平上皮癌や腺扁平上皮癌などもみられます。病期はTNM分類で評価され、筋層浅部にとどまるT1aでは単純胆嚢摘出が根治になり得ますが、より深達したT1b以降では周囲肝切除とリンパ節郭清を含む拡大切除が推奨されます。

胆嚢癌の危険因子には、慢性的な炎症をもたらす胆石、胆嚢ポリープ(とくに10mm以上や増大例)、膵胆管合流異常、胆道拡張症、いわゆるポーセリン胆嚢、慢性チフス保菌などが挙げられます。生活習慣では肥満や喫煙がリスクを高めるとされ、女性に多い傾向があります。

診断は腹部超音波、造影CT、MRI/MRCP、内視鏡的超音波(EUS)などを組み合わせ、切除可能性の評価とともに病期を決定します。腫瘍マーカー(CA19-9、CEA)は補助的で、特異度・感度ともに限定的です。組織学的確定診断は状況に応じて実施されます。

参考文献

疫学と地域差

胆嚢癌は世界的には稀な腫瘍ですが、地理的・民族的な偏在が顕著です。チリ、ボリビア、北インド、パキスタン、韓国などで特に高い罹患率が報告され、女性での罹患が男性より高い傾向があります。これには胆石の有病率や食生活、遺伝的背景、感染症など複合的要因が関与すると考えられています。

日本では欧米よりやや高め〜中等度の発生頻度とされ、高齢化に伴い罹患は主として高齢層に集中します。がん登録の整備により罹患率・死亡率の動向が把握され、近年は画像診断の普及により偶発的発見が増えています。とはいえ早期診断例は依然少なく、進行例での発見が多いのが実情です。

世界推計を提供するGLOBOCANによれば、胆嚢・胆道癌全体でみると地域差が際立ちます。データの粒度は国や登録の整備状況に左右され、胆嚢癌単独の統計が十分でない地域もあります。そのため、統計の解釈では診断精度や分類の違いに注意が必要です。

女性優位の背景として、ホルモンや妊娠・出産歴、胆石の高頻度などが指摘されていますが、単一の要因で説明することは困難です。肥満や糖代謝異常の増加は胆石形成を介してリスクに影響し得るため、公衆衛生介入の余地があります。

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分子異常と発生機序

胆嚢癌の発生には、慢性炎症を背景とした“異型上皮化生—上皮内腫瘍—浸潤癌”の連続と、腺腫—癌化の経路が知られています。胆石や細菌感染、化学的刺激などが長期に持続すると、粘膜の遺伝子損傷が蓄積して発癌に至ると考えられます。

分子レベルでは、TP53変異が高頻度で、CDKN2A欠失、SMAD4、ARID1A、PIK3CA、ERBB2(HER2)増幅などが比較的一般的にみられます。KRAS変異は胆嚢癌では胆管癌に比べ相対的に少なめとされます。MSI-H/dMMRは低頻度ですが存在し、免疫療法の標的となり得ます。

肝側への浸潤、胆管・血管浸潤、リンパ節転移は予後に直結します。T1aは粘膜固有層までに限局し予後良好ですが、筋層以深では微小転移の可能性が上がるため、切除範囲の拡大が推奨されます。偶発胆嚢癌は病理病期に応じた二期的再切除の適応を検討します。

胆嚢ポリープからの癌化はサイズと形態に依存し、10mm以上、あるいは急速増大、不整形、広基性などは高リスクです。膵胆管合流異常や胆道拡張症では胆汁への膵酵素逆流が粘膜障害を引き起こし、発癌促進に関与すると考えられています。

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診断と病期評価

初期評価は腹部超音波で行われ、壁肥厚、腫瘤、ポリープ、胆石の有無を確認します。腫瘍が疑われる場合は造影CTで局在と周囲臓器・血管浸潤を評価し、MRI/MRCPで胆道の解剖と胆管浸潤を詳細に把握します。EUSは小病変や浸潤深達度評価に有用です。

黄疸を伴う場合は閉塞部位の同定と減黄の必要性を検討します。内視鏡的逆行性胆道膵管造影(ERCP)は減黄や病理採取に用いられますが、播種や合併症のリスクに留意します。腫瘍マーカー(CA19-9、CEA)は診断確定には不十分で、画像所見と総合判断します。

遠隔転移検索のため胸部CTや場合によりPET/CTが検討されます。切除可能性は肝内浸潤範囲、胆管浸潤、リンパ節転移、血管浸潤、遠隔転移の有無で総合的に判断され、多職種チームでのカンファレンスが推奨されます。

偶発胆嚢癌(胆嚢摘出後に病理で判明)では、病期に応じて再切除の適応を評価します。T1aは追加治療不要なことが多い一方、T1b〜T3では肝S4b/5切除+肝十二指腸間膜リンパ節郭清等を検討します。術後は再発リスクに応じた補助療法も考慮します。

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治療戦略と予後

根治の柱は外科的切除です。T1aは単純胆嚢摘出で十分なことが多く、T1b以深は肝床切除(S4b/5部分切除)と領域リンパ節郭清を伴う拡大切除が標準です。胆管浸潤があれば胆管切除・再建を併施します。R0切除が最重要で、術前評価と適切な術式選択が予後を左右します。

術後補助療法としては、英国のBILCAP試験でカペシタビンの全生存利益が示唆され、臨床実践で広く使われています。日本ではASCOT試験でS-1の有用性が示され、保険診療の選択肢として位置付けられています。国・地域により推奨が異なる点に留意が必要です。

切除不能・転移例では、GemCis(ゲムシタビン+シスプラチン)がABC-02試験で標準となり、近年はTOPAZ-1試験でデュルバルマブ併用が全生存を延長しました。二次治療としてFOLFOX(ABC-06試験)などが用いられます。分子標的ではHER2陽性やMSI-H、NTRK融合などで薬剤選択が検討されます。

予後は病期依存で、早期発見・完全切除ができれば長期生存も期待できますが、進行例では依然として厳しいのが現状です。集学的治療、支持療法、臨床試験参加は重要な選択肢であり、専門施設での治療が推奨されます。

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