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胆嚢炎

目次

定義と分類

胆嚢炎は、肝臓で作られた胆汁を貯蔵する胆嚢に急性または慢性の炎症が起こる病気です。最も一般的なのは「胆石性(結石性)胆嚢炎」で、胆嚢頸部や胆嚢管が胆石でふさがることで発症します。一方、重症患者や手術後などに起こる「無石胆嚢炎」もあり、こちらは胆石を伴わず循環不全や胆汁うっ滞が背景にあります。

急性胆嚢炎は右上腹部痛と発熱を特徴とし、迅速な診断と治療が必要です。慢性胆嚢炎は反復する軽度の炎症で胆嚢壁の線維化や萎縮を来し、消化不良や間欠的な痛みのみのこともあります。診療では、急性か慢性か、結石性か無石かの分類が治療方針に直結します。

国際的にはTokyo Guidelines(TG18/TG13)やWSESガイドラインが、診断基準・重症度判定・治療戦略を定め、世界中で広く参照されています。これらは急性胆嚢炎の診療の標準化に大きく貢献し、抗菌薬の使い方や手術のタイミングまで具体的に示しています。

胆嚢炎は胆道感染症の一部として扱われ、しばしば胆管炎(総胆管の感染)と鑑別が必要です。黄疸が目立つ場合や胆道拡張がある場合は、結石が総胆管へ落ちている合併(総胆管結石)を疑い、治療や手術の順序が変わることがあります。

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症状と臨床所見

典型的な症状は右上腹部痛(ときに背中や右肩へ放散)、発熱、悪心・嘔吐です。食後、特に脂っこい食事の後に痛みが増悪することが多く、持続的で数時間以上続くのが特徴です。鎮痛剤に反応が乏しい強い痛みは受診のサインです。

身体診察ではMurphy徴候(吸気時に右季肋部を圧迫すると痛みで吸気が止まる)が参考になります。高齢者や糖尿病患者では発熱や痛みが目立たない非典型例もあり、倦怠感や食欲不振のみで進行することがあるため注意が必要です。

血液検査では白血球増多やCRP上昇など炎症反応を認めます。肝機能検査値は軽度上昇にとどまることもありますが、胆道閉塞を合併すると胆道系酵素やビリルビンが上昇し黄疸が出る場合があります。

画像検査は腹部超音波が第一選択で、胆嚢壁肥厚、胆嚢腫大、胆泥や胆石、超音波Murphy徴候などが診断に役立ちます。CTは合併症(穿孔、膿瘍)の評価に有用で、必要に応じてMRI(MRCP)で胆道全体を評価します。

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病態生理(発生機序)

結石性胆嚢炎では、胆嚢頸部や胆嚢管が胆石で閉塞し、胆嚢内圧が上昇して胆汁のうっ滞と血流低下が生じます。これにより粘膜障害が起こり、化学性の炎症が先行し、二次的に細菌感染が加わり症状が悪化します。主な起炎菌は腸内細菌(E. coli、Klebsiella、Enterococcusなど)です。

無石胆嚢炎は、集中治療中の重症患者、外傷・大手術後、敗血症、長期完全静脈栄養、熱傷などで起こりやすく、胆汁うっ滞、胆嚢虚血、胆汁の粘稠化が背景にあります。結石がないため診断が遅れやすく、壊疽や穿孔など重篤化しやすい点が特徴です。

炎症が進むと、壁の浮腫や壊死、血流障害が強まり、周囲組織への炎症波及や膿瘍形成、穿孔、腹膜炎などを来します。高齢者、糖尿病、免疫抑制状態では重症化しやすく、早期の介入が予後を左右します。

総胆管結石を合併する場合は、胆汁うっ滞が強くなり、胆管炎や膵炎を併発することがあります。これらは救急内視鏡(ERCP)による減圧が優先され、胆嚢摘出術のタイミングは全身状態と重症度に応じて調整します。

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診断(基準と重症度)

Tokyo Guidelines 2018(TG18)は、局所所見(右上腹部痛、Murphy徴候)、全身炎症所見(発熱、白血球増多、CRP上昇)、画像所見の3要素から急性胆嚢炎を診断します。確診にはこれらの組み合わせが必要で、他疾患の除外も重要です。

重症度はGrade I(軽症)からGrade III(臓器不全を伴う重症)に分類され、治療の緊急度や侵襲度の選択に用いられます。Grade IIでは早期の外科治療やドレナージを検討し、Grade IIIでは集中治療のうえ胆嚢ドレナージを優先します。

超音波検査はベッドサイドで反復可能で、初期評価とフォローに適します。CTは合併症の把握に有用で、無石胆嚢炎や穿孔、気腫性変化の評価に役立ちます。MRCPは総胆管結石の同定に優れます。

鑑別診断としては、胆管炎、消化性潰瘍穿孔、肝膿瘍、右下肺炎、心筋梗塞などが挙げられ、臨床経過と検査の総合判断が求められます。

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治療(抗菌薬・手術・ドレナージ)

標準治療は、適切な抗菌薬投与、疼痛・輸液などの支持療法、そしてタイミングを逃さない外科的介入です。結石性の軽〜中等症では、早期腹腔鏡下胆嚢摘出術(多くは発症後72時間以内)が推奨され、入院期間短縮と再発予防に有利です。

抗菌薬はグラム陰性桿菌と腸球菌を主にカバーします。施設の耐性状況に応じて、第三世代セフェム+メトロニダゾール、βラクタマーゼ阻害薬配合ペニシリン(ピペラシリン/タゾバクタム)などが用いられ、重症例では広域薬を選択し、培養結果で狭域化します。

全身状態不良や重症(Grade III)、手術リスクが高い場合には、経皮経肝胆嚢ドレナージ(PTGBD)が有効です。全身の炎症が落ち着いた後、待機的に胆嚢摘出術を行うか、患者背景によりドレナージ留置で経過をみます。

総胆管結石を伴う場合には、ERCPで総胆管の減圧・結石除去を先行し、その後に胆嚢摘出術を行う二期的戦略が一般的です。抗菌薬の治療期間は重症度と臨床反応により個別化されます。

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予防と再発予防

初回の急性胆嚢炎を乗り越えた後の再発予防には、根治術である胆嚢摘出術が最も確実です。軽症〜中等症では入院中の早期手術が推奨され、退院後の再燃・再入院を減らします。

生活習慣の見直しも重要です。肥満や急速な体重減少は胆石形成のリスクであり、適正体重の維持と緩徐な減量、適度な運動、食物繊維を含むバランスの良い食事が勧められます。

妊娠、糖尿病、脂質異常症、肝硬変、長期静脈栄養、絶食・脱水などは胆嚢炎の背景要因になり得るため、基礎疾患のコントロールや周術期の胆汁うっ滞予防が重要です。

特定状況(減量手術後の急速減量など)では、ウルソデオキシコール酸が胆石形成抑制に用いられることがありますが、適応と期間は医師の判断に従います。

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疫学とリスク要因

胆嚢炎の多くは胆石を背景に発症するため、胆石の有病率が疫学に影響します。西洋では成人の約10〜15%が胆石を有し、その一部が毎年症候化し、合併症として胆嚢炎が発生します。

女性、加齢、妊娠、肥満、急速な体重減少、糖尿病、溶血性疾患、肝硬変、薬剤(セフトリアキソン、オクトレオチド)などが胆石形成と胆嚢炎リスク上昇に関連します。

無石胆嚢炎は重症疾患、外傷・大手術後、敗血症、長期絶食や完全静脈栄養、熱傷などで発生し、死亡率が高いことが知られています。特にICU入室患者では注意深いモニタリングが必要です。

遺伝的素因は胆石形成に関与するとされますが、胆嚢炎への直接的な遺伝率や特定遺伝子の影響は限定的な知見にとどまり、日常診療でのスクリーニングは推奨されていません。

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患者さんへの注意点と受診目安

右上腹部の強い痛みが数時間以上続く、発熱や悪寒がある、皮膚や白目が黄色くなる(黄疸)、吐き気が強い、こうした症状があれば早急に医療機関を受診してください。急性胆嚢炎は放置すると重症化し、入院や手術が必要になることがあります。

既往に胆石がある方や、妊娠中、糖尿病治療中、免疫抑制薬を使用中の方は、症状が軽くても早めの評価が重要です。高齢者では痛みが軽いのに重症化していることもあります。

救急外来では血液検査と腹部超音波が迅速に行われます。自己判断で鎮痛剤だけで様子を見るのではなく、受診して診断をつけることが安全です。

再発予防のため、医師と手術の適応・タイミング、食事・運動、基礎疾患の管理について相談し、処方薬(抗菌薬・鎮痛薬)は指示通りに内服してください。

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