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胃食道逆流症

目次

定義と概念

胃食道逆流症(GERD)は、胃内容物が食道へ繰り返し逆流することで、胸やけや呑酸などの煩わしい症状や、食道炎などの合併症を引き起こす病態の総称です。症状が生活の質を損ねる、あるいは粘膜障害を伴う場合に臨床的に意味のある逆流と定義されます。国際的にはモントリオール分類がよく用いられます。

GERDには、内視鏡で炎症が確認できるびらん性食道炎(EE)と、内視鏡では炎症が見られないが症状がある非びらん性逆流症(NERD)が含まれます。これらは病態や治療反応性が異なることがあり、臨床的に区別されます。

病態は多因子性で、下部食道括約筋の機能、食道クリアランス、胃排出、食道粘膜防御、横隔膜脚や裂孔ヘルニアの存在など複数の要素が関与します。単一の原因ではなく、要素の組み合わせで発症・増悪します。

診療ガイドラインでは、典型症状がある成人に対し、警告症状がなければ経験的にPPIを試みることが推奨されます。一方で、長引く症状や合併症リスクがある場合には内視鏡やpHインピーダンス検査が必要です。

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主な症状

最も典型的な症状は胸やけで、胸骨後部に焼けるような不快感を感じます。呑酸は酸っぱい液体がのどまで上がってくる感覚で、就寝中や前屈時に悪化しやすいとされます。これらは日常生活や睡眠の質を低下させます。

非典型症状として、慢性咳、嗄声、咽喉違和感、喘息の悪化、胸痛などがみられることがあります。これらは他疾患との鑑別が重要で、耳鼻科や呼吸器科領域との連携が必要になる場合があります。

警告症状としては、嚥下困難、嚥下時痛、体重減少、吐血や黒色便、貧血などが挙げられます。これらがある場合は食道がんや潰瘍など重篤な疾患の可能性があるため、速やかな内視鏡検査が推奨されます。

症状は食事内容、姿勢、生活習慣、薬剤などにより変動します。食後の満腹、脂質の多い食事、遅い夕食、アルコールや喫煙、特定の薬剤が症状を誘発・悪化させることがあります。

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診断の流れ

典型症状がある成人で警告症状がなければ、プロトンポンプ阻害薬(PPI)の短期試験投与が推奨され、反応すればGERDが強く疑われます。これは費用対効果に優れ、初期対応として広く用いられます。

内視鏡検査は、警告症状がある、長期症状、合併症の評価、抗酸化薬に反応しない場合などに行います。びらんの有無、食道狭窄、バレット食道の有無などを評価します。

pHインピーダンス検査は、内視鏡で異常が見られない症例やPPI抵抗例で、酸性・非酸性逆流の客観的評価に用いられます。食道運動検査は食道運動障害の除外に役立ちます。

鑑別診断として、機能性胸やけ、機能性心窩部痛、好酸球性食道炎、虚血性心疾患などが挙げられます。症状に応じて適切な検査と専門科への紹介が必要です。

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治療と管理

生活習慣の是正は全ての患者に推奨されます。具体的には体重減量、就寝前2〜3時間は飲食を避ける、ベッドの頭側挙上、禁煙、アルコールの節制、脂質や辛味の強い食事の調整などです。個々の誘因の見極めが重要です。

薬物療法の第一選択はPPIで、症状緩和と食道粘膜治癒に有効です。H2受容体拮抗薬は軽症や頓用に有用で、アルギン酸製剤や制酸薬は頓用の補助療法として使用されます。日本ではP-CAB(ボノプラザン)も選択肢です。

難治例や合併症のある例では外科的・内視鏡的治療が考慮されます。噴門形成術、磁気括約筋補強(LINX)、経口内視鏡的噴門形成(TIF)などがあり、適応は専門医で検討されます。

長期管理では、最低有効量での維持、再評価、バレット食道のスクリーニング対象者の選定、薬剤の副作用モニタリングが重要です。生活指導との組み合わせが再発予防に寄与します。

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疫学と予防

世界全体の有病率は地域差があり概ね10〜20%前後と報告されます。日本では1990年代以降に増加がみられ、生活習慣や肥満、加齢、ヘリコバクター・ピロリ感染率の低下などが影響したと考えられています。

危険因子として肥満、裂孔ヘルニア、喫煙、アルコール、遅い夕食、脂質過多、妊娠、特定の薬剤(Ca拮抗薬、硝酸薬、抗コリン薬など)が挙げられます。これらの修正により発症や増悪リスクを抑えることが期待できます。

予防では、体重管理、規則正しい食習慣、就寝前飲食の回避、禁煙、適度な飲酒、誘発食品の特定と回避が基本です。就寝時の頭側挙上も夜間症状の軽減に有効とされています。

疫学研究は症状ベースと検査ベースで推定が異なるため、地域・方法論の違いに配慮が必要です。最新データの参照と、個別のリスク評価に基づく対策が重要です。

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