肺線維症
目次
定義と分類
肺線維症は、肺胞壁が慢性的な損傷と異常な創傷治癒を繰り返すことで、膠原線維などの細胞外マトリックスが過剰沈着し、不可逆的な瘢痕化(線維化)を来す疾患群の総称である。最も代表的なのは特発性肺線維症(IPF)で、原因特定が困難な慢性進行性の間質性肺疾患に位置づけられる。
臨床的には、線維化優位の間質性肺疾患(PF-ILD)という概念も広がりつつあり、膠原病関連や過敏性肺炎の慢性化、職業性粉塵曝露など多様な背景で同様の線維化表現型に収斂する。これらは予後や治療選択が類似するため、表現型に基づく管理が重視される。
画像では高分解能CTで蜂巣肺、網状影、牽引性気管支拡張などの所見がみられる。病理では上葉より下葉、末梢優位で線維芽細胞巣が散在する通常型間質性肺炎(UIP)パターンが典型的である。これらは診断と予後推定に直結する重要な手掛かりとなる。
疫学的には高齢男性に多く、喫煙歴や職業曝露がリスクを押し上げる。家族性肺線維症の存在や、共通の遺伝子多型(MUC5Bなど)の同定から、遺伝素因と環境因子の相互作用による多因子疾患と理解されている。
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症状と臨床像
労作時の息切れと乾性咳嗽が最も一般的な初期症状で、数ヶ月から数年かけて緩徐に進行する。聴診で捻髪音(ベルクロ様ラ音)が背側下肺野に優位に聴取され、早期からの重要なヒントとなる。
進行すると安静時呼吸困難、低酸素血症、ばち指、疲労感、体重減少が目立つ。急性増悪は急激な呼吸不全をきたし、入院・酸素療法・集中的治療が必要となることが多い。
呼吸機能検査では拘束性障害(FVC低下)と拡散能低下(DLCO低下)がみられ、経時的なFVC減少は予後指標である。6分間歩行試験での運動誘発性低酸素血症も重症度評価に有用だ。
画像ではHRCTのUIPパターンが診断の中核で、多職種カンファレンス(呼吸器内科・放射線科・病理)で臨床・画像・病理を総合して確定するのが標準である。
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病因・発生機序
現在の仮説では、加齢した肺胞上皮が反復する微小傷害に脆弱となり、上皮・間質連関の破綻とTGF-βを軸とした線維化シグナルが過剰に作動する。これにより線維芽細胞が活性化し、膠原線維が過剰沈着する。
テロメア維持機構(TERT, TERC, PARN, RTEL1)やサーファクタント関連遺伝子(SFTPC, SFTPA2)の異常は上皮細胞ストレスを増幅し、細胞老化とアポトーシスを促して線維化を促進する。
MUC5Bプロモーター多型は気道粘液クリアランスを変化させ、微小吸入物質や微生物叢との相互作用を介して上皮傷害の持続化に寄与する可能性が示唆されている。
喫煙、金属・木材粉塵、農業曝露、胃食道逆流に伴う微小誤嚥などの環境因子は上皮損傷を増幅し、素因をもつ個体で疾患発症・進行を後押しする。
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診断と早期発見
診断の基盤はHRCTで、末梢下葉優位の蜂巣肺や牽引性気管支拡張を評価する。非典型例では外科的肺生検または低侵襲の凍結気管支鏡下肺生検が検討される。
早期発見には、労作時息切れや乾性咳、背側下肺野の捻髪音に気づいた段階での胸部HRCTとスパイロメトリー・DLCO測定が有用である。家族歴がある場合は低しきい値で専門医受診を勧める。
鑑別には膠原病関連、過敏性肺炎、薬剤性、職業性などを系統的に除外する必要がある。職歴・曝露歴・薬歴の詳細聴取は診断精度を高める。
多職種カンファレンスでの総合判断が偽陽性や過剰診断を減らし、適切な治療導入と臨床試験参加の機会を広げる。
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治療・予後・ケア
抗線維化薬ピルフェニドンとニンテダニブはFVC低下速度を有意に抑制し、急性増悪のリスクも低減しうる。副作用管理(光線過敏、肝機能障害、下痢など)とアドヒアランス支援が重要だ。
非薬物療法として、禁煙、ワクチン接種、呼吸リハビリ、長期在宅酸素療法(適応例)、栄養管理、緩和ケアの早期併用が推奨される。適応があれば肺移植が根治的選択肢となる。
予後は不均一だが、平均余命は診断後3〜5年とされる報告が多い。FVCやDLCOの低下、HRCTの蜂巣肺進展、年齢・合併症は予後不良因子である。
日本ではIPFが指定難病の対象で医療費助成の仕組みがあり、高額療養費制度とあわせて治療継続を支える。患者教育と意思決定支援、家族への支援も包括的ケアの柱となる。
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