肺がんおよび気管支がん
目次
定義と分類
肺がんは肺組織(気管支上皮や肺胞)に生じる悪性腫瘍の総称で、医学的には「気管・気管支・肺の悪性腫瘍」を含みます。一般に「気管支がん」は中心側の気道(太い気管支)に主座を置く肺がんを指し、臨床現場では肺がんの一部として扱われます。
病理学的には大きく非小細胞肺がん(NSCLC)と小細胞肺がん(SCLC)に分けられます。NSCLCは肺腺がん、扁平上皮がん、大細胞がんなどを含み、全肺がんの大多数を占めます。SCLCは増殖が速く、早期から転移しやすいのが特徴です。
発生部位でみると、中心型(主に扁平上皮がん・小細胞肺がん)と末梢型(主に肺腺がん)に分かれ、症状や検出されやすさ、合併症の種類が異なります。喫煙との関連は特に中心型で強く、末梢型は非喫煙者や女性にも比較的多く見られます。
国際的な疾病分類や取り扱いは各種ガイドラインに準拠しており、組織型、病期(TNM分類)、バイオマーカー(EGFR、ALK、PD-L1など)で診療方針が決まります。これらの情報は診断・治療選択に不可欠です。
参考文献
主な症状
早期の肺がんは無症状のことが少なくありません。進行とともに、長引く咳、血痰、呼吸困難、胸痛、声のかすれ(反回神経麻痺)、繰り返す肺炎などが現れることがあります。症状は腫瘍の部位や大きさ、合併する無気肺・閉塞性肺炎の有無で異なります。
中心型の腫瘍は気道閉塞による咳や血痰が前景に出やすく、末梢型は胸膜刺激による胸痛や、検診や画像検査で偶然発見される結節影として見つかることがあります。非喫煙者の腺がんでは進行まで自覚症状が乏しいこともあります。
転移に伴う症状として、骨転移の痛み、脳転移による頭痛や神経症状、肝転移による倦怠感などが出現します。小細胞肺がんでは腫瘍随伴症候群(低Na血症など)を伴うことがあります。
症状だけで肺がんかどうかを断定することはできず、胸部CTや喀痰細胞診、気管支鏡、生検などの精査が必要です。喫煙歴や年齢、既往歴に応じて医療機関での評価を受けましょう。
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危険因子(環境・遺伝)
最も重要な環境要因は喫煙で、能動喫煙と受動喫煙の双方が明確に発がんと関連します。その他、ラドン、アスベスト、ディーゼル排気粒子、ヒ素などの職業・環境曝露、大気汚染がリスクを高めることが確立しています。
遺伝的素因は全体としては中等度以下とされますが、家族内に肺がん患者がいる場合はわずかにリスクが上昇します。生殖細胞系列の稀な病的バリアント(例:TP53、EGFR T790M)やDNA修復関連遺伝子の変異が一部の家系で報告されています。
腫瘍側の体細胞変異として、EGFR、ALK、ROS1、KRAS、BRAF、METエクソン14スキッピング、RET、NTRKなどのドライバー異常が非小細胞肺がんで見つかります。これらは発症要因であると同時に治療標的になります。
危険因子の影響は相加・相乗的で、喫煙とラドン曝露が重なるとリスクがさらに高まります。禁煙、曝露低減、職業衛生の徹底が予防の基本です。
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診断と検診
診断には画像(胸部X線、低線量CT、造影CT、PET-CT)と病理(喀痰細胞診、気管支鏡下生検、針生検)が用いられます。確定診断後は病期評価とバイオマーカー検査を行い、治療方針を決定します。
高リスク者(一定以上の喫煙歴がある中高年)に対する低線量CT検診は、海外の大規模試験で肺がん死亡を有意に減少させました。一方で偽陽性や過剰診断、放射線被曝といったデメリットもあります。
日本の対策型検診は主に胸部X線(高リスク者に喀痰細胞診を追加)ですが、近年は低線量CT検診の有用性についても検討が進んでいます。地域や職域で受診機会が用意されていることがあります。
症状がなくても、喫煙歴がある方や受動喫煙・職業曝露のある方は、医師と検診の適応について相談することが推奨されます。禁煙支援は一次予防と二次予防の双方で重要です。
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治療の概観
治療は病期、全身状態、バイオマーカーに基づき、外科手術、放射線治療、薬物療法(化学療法、分子標的薬、免疫チェックポイント阻害薬)を組み合わせます。早期では手術や定位放射線治療が根治を目指します。
非小細胞肺がんの進行例では、EGFR、ALK、ROS1、BRAF、MET、RET、NTRK、KRAS G12Cなどの分子異常に応じた標的治療薬が有効です。PD-1/PD-L1阻害薬はバイオマーカーや併用化学療法の有無により広く用いられます。
小細胞肺がんではプラチナ系+エトポシドに免疫療法を加えた治療が一次治療の標準になっています。限局期では胸部同時放射線と予防的全脳照射の適応を検討します。
治療選択は急速に進歩しており、最新のガイドラインや保険適用の確認が欠かせません。副作用対策、緩和ケア、リハビリ、栄養・就労支援を含む包括的ケアが重要です。
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