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肛門の悪性腫瘍

目次

定義と分類

肛門の悪性腫瘍は、肛門や肛門管に発生するがんを指し、最も一般的なのはヒトパピローマウイルス(HPV)関連の肛門管扁平上皮がんです。ほかに稀ながら肛門周囲の皮膚由来の皮膚がん、腺がん、悪性黒色腫、神経内分泌腫瘍なども含まれます。臨床上は解剖学的位置と病理組織型で分類され、治療選択や予後に影響します。

国際疾病分類(ICD-10)ではC21として「肛門、肛門管および直腸肛門移行部」がまとめられますが、臨床試験や統計では肛門縁(皮膚領域)と肛門管(粘膜領域)を区別することが多いです。扁平上皮がんは放射線感受性が高く、化学放射線療法が標準治療となります。

肛門の悪性腫瘍の発生頻度は大腸がんなど他の消化器がんと比べると稀で、人口10万人あたり1人前後の水準とされます。ただしHIV感染者や男性同性愛者(MSM)など高リスク集団では有病率が大きく上昇します。

病期は腫瘍径、局所浸潤、リンパ節転移、遠隔転移で評価され、AJCCのTNM分類が用いられます。早期病変は局所制御が得られやすく、進行例では全身治療や外科的救済手術が検討されます。

参考文献

主な原因とリスク因子

肛門扁平上皮がんの最大の原因はHPVの持続感染で、特に高リスク型(16型など)が関与します。ウイルスのE6/E7たんぱく質が宿主の腫瘍抑制遺伝子を機能阻害し、発がん過程を促進します。性感染の性質から、性的行動歴がリスクに影響します。

HIV感染や臓器移植後など免疫抑制状態では、HPV感染の持続と異形成の進展が起こりやすく、発がんリスクが上昇します。喫煙も独立したリスク因子で、局所免疫や微小環境に悪影響を及ぼすと考えられます。

女性の子宮頸部・外陰部・腟の上皮内病変やがんの既往は、HPV関連部位の多中心性病変を反映し、肛門がんのリスク上昇と関連します。肛門性交の既往や複数パートナー歴はHPV曝露機会を増やします。

長期の慢性炎症や瘻孔の既往が特定の組織型で関連することがありますが、全体としてはHPV関連性が支配的です。予防の観点では、HPVワクチン接種と禁煙、性感染症予防が重要です。

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症状と合併症

代表的な症状は肛門出血、痛み、しこり(腫瘤)、かゆみ、分泌物の増加、排便習慣の変化などです。痔と誤認されやすく、受診が遅れがちです。持続する症状があれば肛門診や直腸指診、肛門鏡検査が勧められます。

進行すると便失禁や強い疼痛、坐骨神経領域への放散痛、鼠径リンパ節の腫脹が出現することがあります。感染や潰瘍形成を伴えば二次的な合併症を引き起こすこともあります。

化学放射線療法の副作用として、皮膚炎、粘膜炎、排便時痛、骨髄抑制などが生じます。治療後の線維化や狭窄により排便機能が影響されることがあり、長期的なケアが必要です。

性生活や排便機能、ボディイメージへの影響も無視できません。早期から疼痛緩和、スキンケア、栄養、心理社会的支援を統合する包括的な支持療法が重要です。

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診断と病期評価

初期評価は問診・視診・直腸指診に加え、肛門鏡や硬性鏡での観察と生検で確定診断します。高リスク者では肛門細胞診や高解像度肛門鏡(HRA)が異形成の発見に有用です。

病期評価には骨盤MRIや造影CT、PET/CTを用い、局所浸潤の広がりとリンパ節転移、遠隔転移の有無を確認します。これにより治療法(根治的化学放射線か、救済手術か、全身治療か)が決まります。

HPV関連性の評価としてp16免疫染色が臨床で用いられ、予後予測や試験登録に使われます。血液検査は治療適応や副作用リスクの評価に有用です。

病期はAJCCのTNM分類に従い、腫瘍径(T)、リンパ節(N)、転移(M)で層別化されます。T1(2cm以下)からT4(隣接臓器浸潤)まで定義されます。

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治療と予後

標準は根治的化学放射線療法(ニグロ法)で、放射線にフルオロウラシルとマイトマイシンC、またはカペシタビンを併用します。小さな肛門縁T1の高分化病変は局所切除が選択されることがあります。

局所再発や持続病変には腹会陰式直腸切断術(APR)などの救済手術が検討されます。遠隔転移を伴う場合はパクリタキセル+カルボプラチンなどの化学療法が第一選択の一つです。

免疫チェックポイント阻害薬(ニボルマブ、ペムブロリズマブ)は前治療後の進行再発例で奏効が報告され、バイオマーカー探索が進んでいます。分子標的治療の確立は途上です。

予後は病期と治療反応性に依存し、HPV陽性は一般に良好な傾向があります。治療後の厳密な経過観察が重要で、局所コントロールと機能温存の両立を目指します。

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