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職業性ジストニア

目次

職業性ジストニアの概要

職業性ジストニアは、特定の仕事や技能に特有の動作を行う時にだけ、意図しない筋収縮やこわばり、震えなどが生じて動作が困難になる「タスク特異的ジストニア」の一種です。代表例は書痙(ライターズクランプ)やミュージシャンのジストニアで、日常動作では問題が少ないのが特徴です。

病態は中枢神経系の運動制御ネットワーク全体の機能異常と考えられ、単なる筋肉の疲労や腱障害とは区別されます。痛みは必ずしも伴いませんが、代償的な過用や姿勢不良により二次的な痛みが出ることはあります。

発症年齢は30〜50歳代が多いと報告され、長年の高度で反復的な練習や作業、ストレスなどが引き金となることがあります。家族歴の頻度は高くはありませんが、遺伝的素因の関与が示唆されています。

治療はボツリヌス毒素注射、作業療法・感覚運動リトレーニング、内服薬、場合により脳深部刺激療法が選択されます。早期に専門医へ相談し、動作や環境の調整を行うことが、仕事の継続に重要です。

参考文献

主な症状と臨床像

症状は「その作業のときだけ」現れることが心です。例えば書字の際に指が勝手に曲がる、力が抜ける、肩や前腕がこわばる、音階や特定のパッセージでのみ指が拘縮する、職業的発声時に声が途切れるなどが挙げられます。

観察される運動は、持続性の筋収縮、拮抗筋の同時収縮、不要な筋群の動員(ココンラクションや拡散)が典型です。多くは片側・一部位から始まり、同じタスク内でパターン化して現れます。

進行は緩徐で、初期には疲労時や緊張時だけということもあります。痛みは必発ではありませんが、代償動作による腱・筋膜の負担から二次的な疼痛や腱障害が併存することがあります。

診断は病歴と診察(必要に応じて筋電図や動画解析)で行い、腱炎、神経圧迫、パーキンソン病など他疾患を除外します。いわゆる「感覚トリック」で一時的に改善する場合があり、ジストニアの手がかりになります。

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発生機序(病態生理)

病態の中心は「抑制の低下」と「可塑性の過剰」です。皮質内抑制や周囲抑制が弱まり、必要な筋だけを選択する機能が破綻し、不要な筋まで動員されやすくなります。TMS研究で短潜時皮質内抑制の低下が示されています。

基底核—視床—大脳皮質のループ障害も関与します。運動の選択と学習に関わる回路でのシグナルのノイズ化により、反復学習が「不適応可塑性」として固定化され、特定動作でのみ誤作動が起きると考えられます。

感覚処理の異常も重要です。指先などの感覚地図がぼやけ、感覚-運動統合が乱れることで運動精度が落ち、さらに代償的な過用を呼び込む悪循環が形成されます。感覚再学習が治療に有効な根拠です。

遺伝的素因は全体として強くはないものの、わずかな脳内ネットワークの特性差が、長期の過剰練習・ストレスなど環境因子と相互作用し、発症リスクを高めると考えられています。

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環境因子と危険因子

最も確からしい環境因子は、長期にわたる高反復・高精度の動作練習と過用です。同一パターンの反復により、運動表現の柔軟性が失われ、誤った運動プログラムが固定化されやすくなります。

急激な練習量の増加、道具や姿勢の変更、職場環境の変化(照明・椅子・キーボードなど)のほか、心理的ストレスや不安も増悪要因となり得ます。

外傷や局所の痛みが引き金となる報告もあります。痛みによる運動の回避や代償が、さらなる運動パターンの歪みを助長することがあります。

発症予防や増悪予防には、練習の分散化(可変練習)、十分な休息、姿勢・道具の最適化、感覚運動の多様性を保つ工夫が推奨されます。早期の専門的リハビリ介入が有効です。

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治療(薬物・注射・リハビリ・外科)

第一選択は多くの場合、ボツリヌス毒素注射です。過活動筋を選んで少量注入し、過剰な同時収縮を抑えます。効果は通常3カ月前後持続し、反復投与します。副作用は一過性の筋力低下などです。

内服薬としてはトリヘキシフェニジル、クロナゼパム、バクロフェンなどが用いられることがありますが、効果は限定的で副作用にも注意が必要です。鎮痛薬は二次的疼痛に対して補助的に用います。

作業療法・感覚運動リトレーニング(センサリーモーター・リチューニング)は、誤学習された運動プログラムを修正するアプローチで、ミュージシャンや書痙で有効例が蓄積しています。装具や筆記具・楽器の調整も併用します。

薬物・注射で十分な効果が得られない重症例には、淡蒼球内節(GPi)を標的とする脳深部刺激療法が検討されます。適応は専門施設で多職種チームにより慎重に判断されます。

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