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耳垢のタイプ

目次

耳垢タイプの基本

耳垢(じこう、cerumen)は外耳道の皮脂腺・耳垢腺からの分泌物と脱落した皮膚が混ざったもので、湿型(ねっとり)と乾型(パサパサ)の2タイプに大別されます。これは病気ではなく、耳の自浄作用や保湿、抗菌に役立つ生理的な物質です。

世界的には人種差が顕著で、東アジアでは乾型が多数派、欧米・アフリカでは湿型が多数派です。先住アメリカ人や一部の中央アジアの集団でも乾型が多くみられます。

タイプは生後まもなくから一貫しており、思春期や生活習慣の変化で湿型↔乾型が入れ替わることは基本的にありません。個人の清潔度や健康度を直接示す指標でもありません。

耳垢の量や固さ、色調は同じタイプでも季節や体調でゆらぎますが、タイプ自体は遺伝でほぼ規定されます。耳掃除のしすぎは外耳道炎や塞栓の原因になるため注意が必要です。

参考文献

遺伝と環境の寄与

耳垢タイプは単一遺伝子(ABCC11)の1塩基多型でほぼ決まる典型的なメンデル形質です。家系内での遺伝形式は湿型が優性、乾型が劣性として説明できます。

大規模研究では、遺伝子型と表現型の一致率がほぼ100%に近いことが示され、遺伝の寄与はきわめて大きいと考えられています。

環境要因(気候、食事、衛生状態など)がタイプそのものを変える明確なエビデンスはありません。ただし、湿り具合や量の“見え方”は環境で揺れます。

したがって、寄与の目安は遺伝90–100%、環境0–10%程度と表現されます。外的要因で乾型が湿型になる、あるいはその逆になることは基本的にありません。

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タイプの意味・解釈

耳垢タイプは体質差の一つで、衛生状態の良し悪しや耳掃除の頻度を示すものではありません。乾型の人が不潔ということも、湿型の人が病的ということもありません。

湿型はアポクリン腺の分泌活性が相対的に高く、腋臭(わきが)の発現と関連しますが、においそのものは食事・皮膚常在菌・ケア習慣で大きく変わります。

民族性や祖先を“断定”する材料として耳垢タイプを用いるのは不適切です。集団差はありますが、各地域に例外も多数存在します。

医療現場では、耳垢栓塞や外耳道湿疹の傾向など、ケア方針を個別化する参考になることがありますが、診断名そのものには直結しません。

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関与する遺伝子と変異

鍵となるのはABCC11遺伝子で、ATP結合カセット輸送体(MRP8)をコードします。アポクリン腺や乳腺などで発現し、脂質性物質の輸送に関与します。

代表的な多型はrs17822931(c.538G>A, p.Gly180Arg)で、Gアリルが湿型、Aアリルが乾型に対応します。GはAに対して優性です(AAで乾型、GA/GGで湿型)。

機能的にはAアリルで糖鎖付加や膜局在が障害され、輸送活性が低下する“機能喪失”が示唆されています。これが耳垢の乾燥・粉状化と関連します。

同じ変異は腋臭の発現や乳汁成分にも影響する可能性が報告されており、外分泌に広く関与する遺伝的スイッチと捉えられます。

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その他の知識とケア

地理分布として、東アジア・先住アメリカでは乾型が高頻度、欧州・アフリカでは湿型が高頻度です。これは歴史的な人口移動や選択の影響が示唆されています。

乾型は粉状で自然に外へ押し出されやすい一方、湿型は塊になって耳垢栓塞を起こしやすい場合があります。症状があれば耳鼻咽喉科での除去が安全です。

綿棒での深い耳掃除は外耳道の皮膚を傷つけ、炎症や慢性のかゆみの原因になります。入口から1cm以内をやさしく、頻度は控えめに。

タイプの自己判定が難しい場合や、聞こえにくさ・痛み・においなどの症状がある場合は受診を。遺伝子検査は医療的必要性は稀で、慎重に検討しましょう。

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