網膜血管の太さ
目次
網膜血管の太さの概要
網膜血管の太さ(血管口径, caliber)は、眼底写真から動脈と静脈の直径を測定して評価されます。中心網膜動脈相当径(CRAE)と中心網膜静脈相当径(CRVE)という標準化指標が広く用いられ、微小循環の状態を客観的に反映します。
口径は加齢、血圧、喫煙、血糖や炎症など多因子の影響を受け、同一人物でも日内変動や撮影条件で数%変動します。そのため測定は瞳孔径やピント、輝度が一定になるよう標準化が重要です。
研究では半自動ソフト(IVAN, SIVA など)で視神経乳頭周辺領域の複数本を計測し幾何学式でCRAE/CRVEに換算します。これにより個々の血管分枝差や撮像倍率の違いを平均化できます。
網膜は透明で非侵襲的に観察できる唯一の微小血管床であり、全身の微小循環の「窓」として心血管・脳血管リスク評価にも応用されています。臨床でも高血圧や糖尿病の病勢把握に有用です。
参考文献
遺伝的要因と環境的要因
双生児研究や家族研究では、網膜血管口径には中等度から高い遺伝率が示されています。特に静脈径では遺伝の寄与が大きく、動脈径でも明確な遺伝的要因の存在が示唆されています。
環境要因としては収縮期/拡張期血圧、BMI、喫煙、血糖、脂質、CRPなどの炎症指標が独立して関連します。短期的には血圧や交感神経緊張の変化、長期的には動脈硬化や内皮機能で影響します。
おおよその比率として、動脈径の遺伝寄与は約50–60%、静脈径では約60–70%と報告されます。残りは環境や測定誤差が占め、生活習慣介入で改善可能な余地もあります。
なお推定割合は人種、年齢、測定法により変動します。複数コホートの結果を総合すると、遺伝と環境が相補的に口径を規定することが首尾一貫して示されています。
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臨床的な意味と解釈
CRAEが小さい(動脈狭小化)ことは高血圧の既往や将来発症リスクと関連し、降圧により部分的に可逆的です。一方、CRVEが大きい(静脈拡張)は喫煙、炎症、糖尿病や肥満と関連します。
静脈拡張は脳卒中や冠動脈疾患のリスク上昇と関連する報告があり、微小炎症や内皮機能障害、静脈圧上昇のサロゲートと解釈されます。動脈狭小化は末梢抵抗や構造的リモデリングを反映します。
ただし口径は非特異的指標で、単独で診断や予後を断定しません。年齢や血圧、屈折度、撮影条件などを調整したうえで集団統計的に解釈するのが基本です。
臨床応用では、標準化された画像とアルゴリズムで経時的変化を見ること、生活習慣や薬物治療の併用状況を考慮することが重要です。
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関与する遺伝子と変異
全ゲノム関連解析(GWAS)では、網膜静脈径に12q24(SH2B3/LNK近傍)、19p13(RASIP1近傍)などの座位が、動脈径に内皮機能や平滑筋関連の座位が報告されています。
これらは血圧調節、内皮一酸化窒素シグナリング、細胞接着や血管安定化に関わる経路を支持し、網膜が全身微小循環の遺伝的背景を映すことを示します。
稀なメンデル遺伝病(例:COL4A1/2変異による小血管病、ACTA2関連血管症)では網膜血管形態の異常を伴うことがあり、極端な口径異常や蛇行がみられます。
ただし一般集団の口径のばらつきは多因子・多遺伝子性で、個々のSNPの効果は小さく、生活習慣や血圧管理が臨床的にはより大きな影響を及ぼします。
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その他の知識(測定と実務)
口径は視神経乳頭周囲0.5~1乳頭径の環状領域で測定され、分枝前の主要血管を対象にします。静脈と動脈の識別は色調や反射、走行で行い、ソフトが半自動でトレースします。
装置や倍率差は屈折度や角膜曲率で補正し、同一被検者の追跡では同じカメラ・同じ設定を維持します。瞳孔径、瞬目、心拍・呼吸による揺らぎも考慮します。
研究ではCRAE/CRVEから動静脈比(AVR)も算出されますが、現在は動脈・静脈を個別に解釈するほうが病態連関を反映するとされます。
AI/ディープラーニングを用いた自動計測が普及しつつあり、コホート大規模化と再現性向上が期待されますが、民族差や画像品質へのロバスト性検証が重要です。
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